
コロナ禍をきっかけに、政治家が公の場でマスクを着ける光景は珍しくなくなりました。
感染対策として当たり前の行動となった一方で、「マスク姿の政治家を有権者はどう見ているのか」という点は、意外にもこれまで詳しく検証されてきませんでした。
特に注目されるのが、その影響が男性政治家と女性政治家で同じなのかという問題です。
今回、九州大学と米ダートマス大学による共同研究が、女性政治家だけがマスク着用によって支持を下げるという世界で初めての実証結果を報告しました。
研究の詳細は2026年1月8日付で学術誌『Japanese Journal of Political Science』に掲載されています。
目次
- マスク姿の政治家はどう評価されるのか
- 支持が下がったのは女性政治家だけ
マスク姿の政治家はどう評価されるのか
新型コロナウイルスの流行以降、政治家にとってマスク着用は避けられない行動となりました。
しかし、その行動が選挙や支持にどのような影響を及ぼすのかは、十分に分かっていませんでした。
日本ではもともと日常的にマスクを使う文化があるため、「政治家がマスクを着けていても評価は変わらないのではないか」と考える人も多いかもしれません。
この疑問に答えるため、九州大学とダートマス大学の研究チームは、全国約1500人を対象とした調査実験を行いました。
参加者には、マスクを着けた政治家、着けていない政治家の写真が提示され、それぞれについて支持度や印象を評価してもらいました。
評価項目には、支持度のほか、魅力、有能さ、知的さ、強さ、信頼性など、一般の人が直感的に判断しやすい指標が用いられています。
写真以外の条件をそろえたうえで比較することで、「マスク着用そのもの」が評価に与える影響を検証できる設計になっています。
支持が下がったのは女性政治家だけ
分析の結果、男性政治家と女性政治家では、マスク着用の影響が大きく異なることが明らかになりました。
まず、男性政治家については、マスクを着けても支持が統計的に低下することはありませんでした。
有能さや知的さ、信頼性といった印象評価も悪化せず、一部の項目では、わずかに評価が高まる傾向すら見られました。
一方で、女性政治家の場合はまったく異なる結果が示されました。
女性政治家がマスクを着用すると、支持度だけが統計的に有意に低下したのです。
重要なのは、この支持低下が、魅力や有能さ・知的さ・強さ・信頼性といった個別の印象評価の悪化によって説明できない点です。
これらの指標には明確な低下は見られず、「なぜか分からないが支持だけが下がる」という、非常に特徴的な現象が確認されました。
この男女差は統計的にも有意であり、マスク着用という日常的な行動が、政治家の性別によって異なる影響をもたらす可能性を示しています。
研究者らは、表情の見え方や声の聞こえ方、女性政治家に対する社会的期待など、複数の要因が重なっている可能性を指摘していますが、現時点では特定の理由までは明らかにされていません。
コロナ後の選挙に突きつけられた課題
この研究結果は、コロナ後の選挙活動を考えるうえで、見過ごせない示唆を含んでいます。
街頭演説や施設訪問など、マスク着用が避けられない場面では、女性候補だけが不利になる可能性があるからです。
日本では女性政治家の数が依然として少なく、公平な競争環境の確保は大きな課題となっています。
マスクという些細な行動が、無意識のうちに支持の差を生み出しているとすれば、それは個人の努力では解決しにくい問題です。
本研究は、政治家個人の評価を超えて、選挙の公平性や社会に根付くジェンダー意識を問いかけるものでもあります。
今後、なぜ女性政治家だけが影響を受けるのか、その仕組みが解き明かされることで、より公平な政治参加への道が見えてくるかもしれません。
参考文献
「女性政治家はマスクで不利に」世界で初めて科学的検証
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/1384
元論文
Are voters less likely to support politicians when they wear face masks?
https://doi.org/10.1017/S1468109924000082
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

