
「納豆は健康に良い」とよく言われますが、それはなぜなのでしょうか。
その理由について、経験やイメージではなく、分子レベルの新たな根拠を示す研究が報告されました。
大阪公立大学の研究グループは、納豆の発酵過程を詳しく調べた結果、健康機能との関係が注目されている「超硫黄分子」が、発酵中に劇的に増加していることを明らかにしたのです。
この成果は、納豆菌による発酵が、大豆に含まれる硫黄分子の姿そのものを大きく作り替えている可能性を示すものです。
本研究成果は、2025年11月4日付で国際学術誌『Nitric Oxide』にオンライン掲載されました。
目次
- 「納豆が健康に良い」理由は?「超硫黄分子」に着目した研究
- 納豆菌が大豆中の硫黄化合物を再編成し、超硫黄分子を生み出している
「納豆が健康に良い」理由は?「超硫黄分子」に着目した研究
「超硫黄分子」とは、アミノ酸の一種であるシステインに複数の硫黄原子が直鎖状につながった分子の総称です。
これらの分子は酸化還元反応に対して非常に高い反応性を持ち、生体内ではストレス応答やシグナル伝達に関与すると考えられています。
近年の研究では、超硫黄分子が細胞を酸化ストレスから守るなど、体の中でさまざまな働きをしている可能性が示されています。
健康維持や病気の予防との関連も指摘されており、体の調子を内側から支える分子として注目されるようになってきました。
だからこそ、超硫黄分子を多く含む食品も、単なる栄養補給だけでなく、健康づくりに役立つ可能性がある食品として関心を集めています。
納豆は、こうした超硫黄分子を比較的多く含む食品として知られていましたが、なぜ納豆に多いのかという点は明らかになっていませんでした。
大豆に最初から多く含まれているのか、それとも発酵の途中で新たに作られているのかは分かっていなかったのです。
そこで本研究では、発酵の進行に伴って、大豆中の硫黄化合物がどのように変化するのかを、分子レベルで明らかにすることを目的としました。
研究では、独自に開発した質量分析技術である「超硫黄分子オミクス」を用い、納豆の発酵過程で起こる硫黄化合物の変化を網羅的に解析しました。
この手法によって、超硫黄分子の種類や量を、発酵の進行に合わせて定量的に追跡することが可能になっています。
そして分析の結果、発酵が進むにつれて、超硫黄分子の量が著しく増加することが確認されました。
納豆菌は、大豆に含まれる硫黄分子を超硫黄分子へと変換していると考えられます。
では、発酵の過程で実際にどのような変化が起きているのでしょうか。
その詳しい内容を、次の事項で見てみましょう。
納豆菌が大豆中の硫黄化合物を再編成し、超硫黄分子を生み出している
詳しい解析の結果、発酵の進行に伴って、複数のタイプの超硫黄分子が時間依存的に増加していることが分かりました。
重要なのは、硫黄の総量がほぼ変化していない点です。
これは、納豆菌が大豆中のタンパク質などを分解し、その過程で既存の硫黄化合物を再編成することで、超硫黄分子を生み出している可能性を示しています。
言い換えれば、納豆の発酵とは、硫黄分子が新たに増えるのではなく、性質の異なる超硫黄分子の形へと作り替えられるプロセスだと考えられます。
本研究の最大の意義は、微生物発酵が植物中の超硫黄分子プロファイルを劇的に変えることを、分子レベルで示した点にあります。
これまで「納豆は体に良い」と経験的に語られてきた評価に対し、具体的な分子変化という新たな視点を与える成果だと言えるでしょう。
ただし、本研究は発酵過程で起きる分子変化を明らかにしたものであり、超硫黄分子がヒトの体内でどのように吸収され、どのような作用を及ぼすのかまでは検証していません。
また、どの硫黄化合物が原料となり、どの酵素が変換に関わっているのかといった詳細な生化学的経路も、今後の研究課題として残されています。
それでも今回の研究は、納豆の発酵は、硫黄分子の姿そのものを作り替える化学変換の場である可能性を示しました。
この視点は、私たちが日常的に食べている発酵食品を、これまでとは異なる角度から見直すきっかけになるかもしれません。
なぜ「納豆は健康に良い」のか、より理解が深まっていくことでしょう。
参考文献
納豆の健康効果に新たな根拠 ~発酵過程で超硫黄分子が劇的に増加~
https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-21944.html
元論文
Dynamic transformation of the sulfur metabolome during natto fermentation: Supersulfide omics study
https://doi.org/10.1016/j.niox.2025.11.001
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

