
『千と千尋の神隠し』場面カット (C)2001 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDTM
【画像】あ、こんなカッコいい系の美人なんだ コチラが「リンの声」を担当してた女優です
イモリの黒焼 なんであんなにみんな欲しがっているの?
『千と千尋の神隠し』(監督:宮崎駿)に登場する「リン」は、どうして「釜爺」からイモリの黒焼を受け取った際に、少し照れた表情を浮かべていたのでしょうか?
『千と千尋』は宮崎駿作品のなかでも、とりわけ「暗喩」「記号」「象徴」的な表現に富んだ作品です。なかには高度な専門的な知識が必要な、暗号めいた表現もあるようですが、一方で指摘するだけ野暮になる、あからさまな表現も散りばめられています。
たとえば「湯婆婆」が支配している「油屋」は子供の頃はピンと来ずとも、大人になって余計な知識を得た今なら、あそこが「大人のお風呂屋さん」のメタファーであることが、(読解するつもりはなくとも)分かってしまいます。
実際、プロデューサーの鈴木敏夫氏も、NHK放送文化研究所の『放送研究と調査』内のインタビューで、「湯屋というのは明らかに風俗ですよね」と述べていました。メタファーでありながらも、ほぼ公式見解でもあるのです。
これを踏まえて、リンが釜爺からイモリの黒焼を受け取るシーンを振り返ってみましょう。この場面で、リンは釜爺から千尋を湯婆婆のところへ連れて行くよう頼まれています。彼女は一度は断りましたが、黒焼を目の前に差し出されると「しょうがねえなあ」という表情で、頬をピンクにしながらしぶしぶ面倒ごとを引き受けるのでした。
この描写から、この世界において「イモリの黒焼」が極めて価値が高く、交渉材料にもなる品物であることが分かります。湯婆婆の元へ千尋を連れて行くことは、リンから言わせれば「殺されちまう」ほどの危険が伴うものですが、イモリの黒焼はそのリスクを冒す価値があるのです。
いったい、この黒焼の何に価値が発生しているのでしょうか。シンプルに、「めゃくちゃ旨い」という可能性も考えられます。というのも、次のシーンで「蛙男」がこのイモリの黒焼を前にして、脂汗をにじませながら、「ちょっとだけでもくれ」と必死に懇願しているのです。やはり、相当に美味なものなのでしょうか。
しかし、どうやらそうでもないようで、リンは蛙男の目の前で、黒焼をヒョイと口に放り込むと、バリバリと雑に食べてしまいました。美食なら、少しはそういうリアクションが描かれるはずです。
となれば、やはり何かしらの「薬効」があるものと考えるのが妥当でしょう。ここで、公式が出している「絵コンテ」を確認してみます。すると前述のシーンのカットの横に、こんな文言が確認できました。
「密輸時代のバイアグラより価値があるらしい」
かなり直接的でした。あの黒焼は極めて「性的」な薬効を持っているということが、公式に設定されていたのです。ちなみに、イモリの黒焼は江戸時代に、「惚れ薬」として利用されたこともありました。
こうした「薬効」のある品物を報酬として受け取るのは、確かに女性としては照れてしまうでしょう。単なるエナジードリンクとは訳が違います。
参考:『千と千尋の神隠し スタジオジブリ絵コンテ全集〈13〉』
