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雪山での「心の余裕」を創り出す、11年目の到達点 |河野健児が語るTHE NORTH FACE SUMMIT SERIES

背負う信頼のかたち「理想のパック」への渇望

スキー場を滑る時もいまはバックパックを背負っているという健児。CHUGACH(チュガッチ)はライディング時の動きに追従するパネルローディングを採用しておりライディングバッグとしての性能も高い。軽くて耐久性に優れた素材を部位ごとに採用し、軽さと強度のバランスに優れたバックはBCでの使用にも適している。

このバックパックの開発においても、健児が求めるアクションを減らすという信念が貫かれている。

緩く傾斜するバンクをめがけてスキーを走らせる河野健児 Photo by Takahiro Nakanishi

「とくにコンディションが限られた撮影現場では、フォトグラファーやドローンチームを待たせてはいけない。誰よりも早く準備を終え、撮影ポイントに立たなければならないんです。

バックパックを降ろして、雪の上に置いて、なかから袋を取り出して……そんな一連の動作そのものが、僕にとっては削るべきロスタイム。
あと10分早く撮影箇所に着いて準備ができればいい画が残せる。そういった局面では、ギアの使い勝手が決定的な差を生みます」

彼が重視しているのは「トランジション(切り替え)」の早さだ。

健児はいまもアルペンビンディングのデュークという滑走重視のギアで山に入っている。TECビンディングに比べると切り替えの行程が多いため、できる限り無駄な行動を省く。
その一環として歩行から滑走へのモード変更時、両スキーを同時に脱がずに、片足づつアルパインスキンを剥がす。

重い滑走具での登高も体力でカバーしてスイスイと歩みを進める Photo by Takahiro Nakanishi

ショルダーストラップを外し、腰でバックパックを支えれば、内部にサッと物を入れられる。素早くアクセスしやすいフロントのアバランチポケットは、どこからでもガバっと大きく開く仕組みからスピーディな収納が可能だ。

また、スキーを背負う際、あらかじめスキーキャリー用のストラップを形状にあわせて長さをあわせバックルで留めておくと、背負うたびに調整の必要がない。短い時間のハイクアップなら、Aフレームにしなくても簡易的な固定がされる。さらに、かつては数アクションが必要だったヘルメットの固定も、片手でワンアクションだ。

グローブをしたままでも開閉がしやすい取手のかたちなど細かな使い勝手が詰まっている

ストラップを締めたり、バックルを締めたり、ジッパーの開閉など全ての行為は吹雪のなかでグローブをしながら操作をしても容易にできるようになっている。

 「細かいですが、これらはすべて、山での行動時間を稼ぐための機能。早く動けるということは、それだけ周囲の安全を確認し、雪の状況を観察する時間が持てるということ。チュガッチは単なる荷物入れではなく、僕の行動を最適化するための“システム”なんですよね」

河野健児がギアに求めること2007年、アラスカでの教訓が変えた哲学

健児がなぜここまで「時間」と「心の余裕」にこだわるのか。その原点は、2007年にアラスカで経験した雪崩事故にまで遡る。

「あの時は映像作品の撮影をしていて、僕ら撮影チーム全体がなかなかいい映像が撮れていない状況でした。いい作品を残さねばという状況下で言葉にはできない“焦り”があったと思います。
その焦りからか行動がギリギリになり、ピークに到着して準備を整えるまでの時間に余裕がありませんでした。その結果、本来はしなければならない雪の状況の把握を十分にしないまま滑って、雪崩事故を引き起こしてしまったんです」

この痛恨の経験以降、彼は精神的な余裕を保つことこそが、最も重要なスキルであると確信した。ギアが快適で、操作がスムーズであるほど、無駄なストレスから解放される。

生まれた余裕こそが、冷静で安全な判断を可能にし、さらには最高の一本を滑るための表現力へと繋がる。効率化は手段でありそれ自体が目的ではない。

雲の動きや光の加減をみながら、ベストのタイミングで斜面に飛び込んでくる Photo by Takahiro Nakanishi

「ギアが信頼できれば、そのことを忘れて山そのものに没入できる。それが僕の求める究極の状態です」

また、彼はスキーブランド「ヴェクターグライド」のプロダクト開発に携わるようになって、ウェアやバックパックの開発において完成されたプロダクトの価値を正しく判断し、守るという姿勢も大事だと痛感した。

ジニアスやコルドヴァといったスキーを通じて得たのは、求められる部分をカバーし、ある程度完成されたものを無理に手を変え品を変える必要はないという考えだ。こうした思いはRTGやチュガッチにも投影されており、安易なモデルチェンジではなく、本質的なアップデートに注力することが判断基準になっている。

一般的には、新しいものを出さなければならないという概念に覆われ、表面的な変更を加えがちだが、そうした方向性に向かわないような提言も彼ならできる。また、ユーザーからなぜ大きく変わらないのかといった問いに対しても、長年に渡って携わっているからこそ、プロダクトの完成度の高さを根拠に、その特徴を深く実体験を持って説明できる。

それこそが、与えられたものを使うだけではない、彼なりのブランドとの関わり方だ。

使い込んだこれまでのギアと同様に新しいウェアも使い込まれて磨き上げられる

11年目の冬。河野健児は、磨き上げたギアと共に、いつものように雪山へと向かう。
開発チームと共に現場へ入り、滑り手としての感覚を共有することで、より洗練されたギアづくりを実現していくのだ。

配信元: STEEP

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