
女性アイドルやVTuberなどがメンバー同士で胸を触り合ったり、同性で出かけることを「デート」と称したりする、いわゆる「百合(ゆり)」的な演出を目にすることは珍しくありません。
こうした女性同士の親密なスキンシップや表現は、多くのファンに好意的に受け入れられる一方で、男性の視点からは「同性愛なの?」あるいは「なぜ恋愛対象ではない同性とここまで親密になれるの?」という、ある種の不可解さを伴う疑問が語られることも少なくありません。
また男性向けの性的コンテンツが好きという女性に対しても、同様に疑問を抱く男性は少なくないでしょう。
こうした、男性には理解しがたい「女性の性的指向」は、単なるビジネス上の演出や振りなのでしょうか。
こうした疑問に対し、イスラエルのテルアビブ大学(Tel-Aviv University)のサピール・ケイナン=バール(Sapir Keinan-Bar)博士らの研究チームは、自分でも気づかない無意識下の好み(潜在的な指標)と自己申告の両面から、人間の「性的魅力の感じ方」をオンラインで調査しました。
その結果、異性愛者の男性は、異性への反応が非常に強く、同性への反応は非常に小さい傾向があるのに対し、異性愛者の女性は、本来の恋愛対象ではない同性に対しても性的魅力を感じたり性的空想ができ、柔軟な性質を備えていることが浮き彫りになったという。
この研究の詳細は、2025年9月付けで科学雑誌『The Journal of Sex Research』に掲載されています。
目次
- 女性は性別に対する性的魅力の感じ方に「柔軟性」がある
- 社会が作る「男らしさ」と、美しさの「刷り込み」
女性は性別に対する性的魅力の感じ方に「柔軟性」がある
かつて性の科学者たちは、実験室の中で人々が何に興奮するかを測定することで、男女の「好み」の違いを解明しようとしてきました。
これまでの研究では、男性は女性に対してのみ強く反応する「性別特異性(Gender-Specificity)」が非常に高いことが知られていました。
それに対して、女性は男性だけでなく女性の映像に対しても身体的な反応を示すことがあり、女性の性は男性ほど限定的ではないという説が唱えられてきました。
しかし、ここで一つの大きな疑問が浮かびます。
「体の反応」がそうであるなら、私たちが心の中で抱く「恋心」や「性的魅力」、あるいは「エッチな妄想」といった心理的な部分でも、女性は男性より柔軟なのでしょうか?
サピール博士らの研究チームは、この謎を解き明かすために、計5万6000人が参加する大規模な複数のオンライン調査を実施しました。
全参加者が共通して答えたのは、「男性にどれくらい惹かれるか」「女性にどれくらい惹かれるか」や、性的空想の頻度といった自己申告の質問です。
その上で、一部の参加者を対象に、無意識の好みを調べる特殊な調査を実施しました。
その1つは、本音が出やすい調査「潜在連合テスト(Implicit Association Test:IAT)」です。 このテストは、最大のデータソースである約5万人のグループの中から、ランダムに割り当てられた約9,100人を対象に実施されました。
これは画面に表示される画像と言葉を仕分けるスピードを測定するテストです。人間は自分にとって魅力的なものほど瞬時に反応する性質があるため、このテストでは反応速度の差から「好みの偏り」を数値化できます。
2つ目は、今回の研究で特に重要な役割を果たした「質問文を用いた潜在連合テスト(Questionnaire-based IAT:qIAT)」という、さらに一歩踏み込んだ手法です。
このテストは、合計約3,800人の参加者を対象に実施されました。従来のテストが「男女の比較」だったのに対し、この手法は「男性への魅力」と「女性への魅力」を別々に測定できるのが最大の特徴です。
これにより、「異性が一番好きだが、実は同性の魅力に対しても無意識に心が動いている」といった、単純な比較や表面的なアンケートだけでは見えにくい、柔軟な心理パターンまで詳細に捉えることが可能になりました。
その結果、男性と女性の間には、性的魅力の感じ方において驚くほど明確な違いがあることが判明したのです。
男性は、好みの性別への反応がよりはっきりと強く見られ、好みではない性別への反応は非常に小さい傾向がありました。
一方で、女性は、男性を一番の対象としながらも、同性に対しても魅力を感じたり、エッチな空想の対象にしたりすることが男性よりもずっと多かったのです。
つまり、男性は性的な対象や恋愛対象となる性別が「一点集中」しているのに対し、女性の場合は境界線がふんわりとしており、男性の方が好きなのは確かだが同性も好きという「柔軟型」だったのです。
では、なぜこれほどまでに男女で「感じ方」の傾向に違いが出るのでしょうか?
社会が作る「男らしさ」と、美しさの「刷り込み」
研究チームは、女性が男性よりも性的指向において柔軟である理由について、いくつかの考察を行っています。
まず考えられるのは、私たちが暮らす社会の中で「男性」と「女性」に求められる役割に違いがあるという点です。
多くの文化圏において、男性は「男らしさ」を維持することに強いプレッシャーを感じており、同性に対して少しでも関心を持つことは社会的にも厳しい目で見られがちです。
こうした社会的な制約が、無意識のうちに男性の心理を「女性のみ」という限定的なパターンへと向かわせている可能性があります。
対照的に、女性が同性の美しさや魅力を認めることについては、男性ほど社会的なタブー視が強くありません。
また、メディアや広告において女性の身体が「美の象徴」や「性的な対象」として描かれ続けることで、性別を問わず、誰もが女性に対してある程度の魅力を感じやすくなっているという文化的背景も指摘されています。
実際この研究データでも、「異性愛者の女性が同性に感じる魅力」は、「異性愛者の男性が同性に感じる魅力」よりも明らかに高い数値を示していました。
こうした問題について、文化的な背景以外に、オスはハーレムを築き、メスはグループで生活する傾向がある生物学的・進化的な背景が関係するのではないかと想像する人もいるかもしれません。
しかし今回の研究では、もう一つ興味深い発見があり、全ての女性が「柔軟」なわけではなく、レズビアン(女性同性愛者)の女性たちには、男性に近い好きな性別への「一点集中型」のパターンが示されたのです。
逆に同性愛者の男性は、異性愛男性や同性愛女性ほど「一点集中型」のパターンが強くなく、むしろ異性愛女性の柔軟型に近づいていました。
この事実は、男性の「一点集中型」や女性の「柔軟型」という性質が、必ずしも男性・女性という生物学的な性別そのものに備わった普遍的な特徴ではない可能性を示唆しています。
今回の研究は、オンライン調査という性質上、若くてリベラルな考えを持つ人々のデータが中心であるという注意点はありますが、計約5万6000人という圧倒的なサンプル数はこの結果に強い説得力を与えています。
異性愛者を自認する女性たちが時折見せる、同性同士の「恋愛のような親密さ」は、単なる見せかけではない可能性が高いようです。
それは、彼女たちの心理構造が本来持っている、性別の境界を軽やかに飛び越えることのできる「しなやかさ」の現れなのかもしれません。
この研究は、私たちが抱く「好き」という感情の形が、性別や社会のあり方によってどれほど多様に形作られているのかを改めて教えてくれます。
参考文献
Women display more fluidity in sexual attractions and fantasies than men
Women display more fluidity in sexual attractions and fantasies than men
https://www.psypost.org/women-display-more-fluidity-in-sexual-attractions-and-fantasies-than-men/
元論文
Gender-Specificity in Sexual Attraction and Fantasies: Evidence from Self-Report and Indirect Measures
https://doi.org/10.1080/00224499.2025.2545965
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部

