
「クラブが沈むのはJ2に落ちた時じゃない」「うちのスタッフは日本一働いている」安藤駿介が伝え続ける伝統と疎かにしちゃいけないフロンターレの魂
川崎フロンターレの魂を宿していると言える安藤駿介。新シーズンからはアシスタントGKコーチとして第2の人生をスタートさせるが、インタビューシリーズの最後では改めて川崎への想いを聞いた(第4回/全4回)。
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これも改めて安藤に聞いてみたかった。愛情を注いできたフロンターレの良さを安藤はどこに感じていたのか。
「ここ数年ずっと言っているのは、ファン・サポーターの方がいなかったら、選手って存在価値がないということ。もっと掘り下げれば、サポーターの方がいなかったらスポンサーの方々は宣伝にならず、そもそもお金を出してくれないはずです。
だからクラブにとって一番大事なのは、サポーターの皆さんだと僕は信じているんです。引退セレモニーでも喋らせてもらいましたが、選手たち、クラブ事業部らのスタッフの人たちも、やはり観に来てくれる方々を最優先に、楽しんでもらうために大事にしていかないといけない。
逆にフロンターレはそこを大事にしてきたクラブだからこそ、どんな結果だろうとも、毎試合2万人ほどの方々が入ってくれるクラブになったと感じています。だからこそクラブが沈む時は、J2に落ちた時などではなく、その大事にしてきたことを疎かにした時だと、僕は真剣に思っています。
これは個人的な意見なので、いやそれは違うと話す方もいるかもしれません。もしかしたらクラブとはJ1に残り続けてなんぼだと言う人もいるかもしれません。それはもちろん大切な意見です。でも、僕はやっぱり結果も大事ですが、フロンターレには疎かにしちゃいけないものがあると信じています。
フロンターレの歴史を遡りながら想像してみたんですよ。2017年に初優勝し、連覇、カップ戦制覇など星を7つ獲得できましたが、そういった優勝がなかったとしても、今ぐらいのファン・サポーターの方々が入ってくれていたのではないかと僕は思うんです。
ここ最近だと、優勝したから、強いから観に来てくれる方々が増えてくれたって周囲からは思われるかもしれませんが、地道な活動があってこそ。フロンターレはそうしたサポーターの方々に支えられる土台を作ってきたからこそだと思うんです。
もちろん僕も偉大な先輩方が、地域の皆さんと手を取り合う姿を見てきましたし、事業部らスタッフの方々の本気度を肌で感じてきました。『本当にこれがサッカークラブがやることなのか?』っていうアイデアを、しっかり実行に移す事業部のスタッフの姿を目にすると、『これはもう一緒にやっていかなきゃいけない』という気持ちになってくるんですよね。
実際、これふざけているよねっていう企画もあるんですよ(笑)。でも皆が本気で考え、口頭だけでなく、しっかり資料を作り、明らかにふざけているような内容でも真面目な顔でプレゼンもしてもらえると、『やるしかない。この期待に応えなきゃいけないのは俺らだよね。これを形にするのはもう選手しかいない』っていう気持ちになる。そういうことが、いくらでもありました。
そのやり取りを繰り返し、事業部と選手の信頼関係、クラブと選手の信頼関係が強固になり、これだけクラブが大きくなったと感じています。だから僕は、常々いろんなところで話していますが、うちの事業部などのスタッフは日本一働いているし、日本一質の高い仕事をしているよ、って伝えているんです」
こうしたクラブの伝統は選手ではなくコーチになった今後も伝えていくことはできるのだろう
「選手たちにはできれば背中などを見て学んで欲しい部分もありますけどね。求めたいのは作業になって欲しくないということ。心の底から考えて、心の底からやりたいという想いで行動して欲しいです。これまではファン感や清掃活動などで僕が先頭に立ち、みんなが付いてきてくれた部分もありました。だからもう一度、そういう選手にも出てきて欲しいなと思いますね。
イベントだからやろうよじゃなく、これはチームに必要なことで、サポーターが笑顔になってくれるなら絶対にやりましょうと、選手が働きかければ、うちの事業部は粋に感じ、本当に頑張る。事業部が考えたものだけをやっていたら、いつかスタッフの方々が力尽きちゃう。フロンターレではそういう姿勢も大事にしてもらえればと願っています」
後継者候補としてはアカデミー育ちのMF大関友翔らがいる。
「頼りにしていますよ。彼は自分とはまったく違うタイプですが、ああいう風に明るいキャラで、上下関係なくズバズバいろんなこと言える。だから上手くやって欲しいですし、大関だけでなく、皆で話し合いながら進んで欲しいですね」
多摩川“エコ”ラシコなどと題し、行なってきた多摩川の清掃活動などでは、当時はその一環でFC東京のサポーターとカヌー対決をすることもあり、当時若手で何も分からないままライフジャケットを着てカヌーを漕いだ安藤は面食らっていた部分もあった。
「それでも年齢を重ねるにつれて、先輩の姿を目にして意義や意味を理解し、めちゃくちゃ大事なことだと分かった」
地道にクラブとして活動を続けてきた結果、時代の変化もあるだろうが、多摩川沿いにはゴミが見当たらなくなり、逆に清掃活動の場所に困る“成果”も掴むことができた。安藤の選手人生のようにまさに積み重ねであり、“ピッチの上だけが全てではない”“川崎のクラブが川崎のために行動しなくてどうするんだ”というフロンターレの魂がこういう細部に詰まっている。そしてその伝統を体現してきたのが安藤であった。やはり“アンちゃん”の周りには笑顔が広がっていたのである。
規模を大きくしてきたクラブは今後、アジア、世界も目指していく。それでも安藤の言葉通り、目先の結果ではなく、大事にしなくてはいけないことがある。それがフロンターレである。
改めて安藤も強調する。
「地域の皆さんとつながり、みんなでサポートしていく活動は絶対に絶やしちゃいけない。例えば優勝できなくても、一緒に悔しがってくれるサポーターがいてくれて、サポーターが見放さないチームってあると思うんです。でもそれは互いの信頼関係、日々の積み重ねがあってこそ。それがなくなってしまうと本当結果次第で見放されちゃうチームになってしまう。そこはフロンターレらしさをずっと続けて欲しいですよね」
安藤自身はコーチ業に全力を傾けつつ、今後は強化部などフロンターレに関わる仕事であればどんな分野でも興味があるという。
すべてはフロンターレのために――。
安藤はサインを頼まれ、「何か一言書いてください」とリクエストされた時に、必ず記す言葉がある。
「日々成長。この4文字って決めています。それが全てで、引退してからも何も変わらないですね。それこそ死ぬまで、どんなことに対しても成長していたい。それはやれていたことがやれなくなるのが後退なのではなく、成長する意識を持つことが大切。選手にも色々ありますから、前日できたことが疲労などで、できないこともある。それは良いんですよ。でも1センチでも1ミリでも自分を伸ばそうとする。そういう意識を持ち続けることが大事。キャンプの時もアカデミーの子が練習参加したりしますが、そういう考えも伝えるようにはしていましたね。そうやって教える楽しさは現役時代からあったのかもしれないです。性格的にやっぱり何か言ってあげたくなっちゃうので(笑)。
正気なところ今は楽しみと不安が半々です。ちゃんとしたボールを蹴れるかなとか、コーチは未知の世界なので不安もあります。でも僕は、自信と不安は自信が8割だったら不安は2割あったほうが良いと思っていて、常に不安は持ち歩くようにしています。だからそこも変わらないですね」
安藤駿介は安藤駿介らしく。
もしかしたら、その貢献は表にはなかなか見えてこないかもしれない。それでもフロンターレの伝統を継ぐ者として、安藤の存在はクラブに欠かせない。それは紛れもない事実である。
取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
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