
馬のそばに立ったとき、こちらの緊張や不安が伝わっているように感じたことはないでしょうか。
実はその直感は、気のせいではないかもしれません。
フランス国立科学研究センター(CNRS)の最新研究により、馬は人間が恐怖を感じたときにかく汗のにおいを嗅ぎ分け、その感情に反応して行動や生理状態を変えることが明らかになりました。
研究の詳細は2026年1月14日付で学術誌『PLOS One』に掲載されています。
目次
- 人間の「感情のにおい」を馬はどう受け取ったのか
- 恐怖のにおいで馬の行動と心拍が変わった
人間の「感情のにおい」を馬はどう受け取ったのか
研究者たちはまず、30人の成人ボランティアから汗のサンプルを採取しました。
被験者はホラー映画『フッテージ』(原題:Sinister、2012年)を鑑賞する条件と、楽しくリラックスできる映像を鑑賞する条件に分けられ、それぞれの状態で腋の汗が綿パッドに集められました。
次に、この汗のにおいを43頭のウェルシュ種の雌馬に提示しました。
馬は「恐怖の汗」「喜びの汗」「人のにおいがない対照」の3グループに無作為に分けられ、専用のマズルを通してにおいだけを嗅ぐ仕組みです。
重要なのは、馬たちは人間の表情や動作を見ることが一切なく、視覚的な手がかりが完全に排除されていた点です。
恐怖のにおいで馬の行動と心拍が変わった
結果は明確でした。
恐怖の汗を嗅いだ馬は、突然開く傘などの刺激に対してより強く驚きやすくなり、見慣れない物体を長く見つめ、人間に自ら近づいたり触れたりする頻度が低下しました。
生理的にも変化が見られ、特に驚愕刺激の場面では心拍数の最大値が有意に高くなる傾向が確認されています。
一方で、唾液中のコルチゾール濃度には明確な差が出なかったため、急性的な警戒反応が主に行動と心拍に表れた可能性が示唆されています。
研究者たちは、これらの反応が人間の恐怖という感情そのものではなく、汗に含まれる化学的な情報(化学シグナル)に馬が反応した結果だと考えています。
つまり馬は、人間が「怖がっている姿」を見て判断したのではなく、においだけで相手の情動状態を察知していた可能性が高いのです。
「平静を装っても、馬には伝わっている」
この研究は、馬が人間の感情を非常に繊細に読み取る動物であることを、科学的に裏づけるものです。
人が恐怖や強い緊張を感じていると、それを隠そうとしても汗のにおいを通じて馬に伝わり、馬の警戒心や不安を高めてしまう可能性があります。
調教や世話、騎乗といった日常的な場面において、人間側の感情管理が馬の安全や福祉に直結することを、この研究は静かに示しています。
馬と向き合うとき、落ち着いた態度だけでなく、心の状態そのものが問われているのかもしれません。
参考文献
Horses can smell human fear when we sweat
https://phys.org/news/2026-01-horses-human.html
元論文
Human emotional odours influence horses’ behaviour and physiology
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0337948
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

