
日光が身体に良いことはよく知られていますが、それは私たちの認知機能にも影響があるのでしょうか。
たとえば、仕事中の集中力や反応の速さ、うっかりミスの多さに、日中の光の浴び方は関係しているのでしょうか。
この疑問に真正面から挑んだのが、イギリスのマンチェスター大学(University of Manchester)の研究チームです。
研究者たちは、実験室ではなく日常生活そのものを舞台に、日光を含む光環境と認知機能の関係を詳細に調べました。
この研究成果は、2025年12月16日付の『Communications Psychology』に掲載されています。
目次
- 日光浴を増やすと認知機能が向上する
- 認知テスト前に日光を浴びると集中力が増す
日光浴を増やすと認知機能が向上する
これまでの研究では、明るい光を浴びると眠気が減り反応が速くなることが、主に管理された実験室の環境で示されてきました。
しかし、私たちが実際に生活している環境では、光は常に一定ではなく、屋外と屋内の移動や天候、時間帯、人工照明の影響を受けて刻々と変化します。
研究チームは、こうした現実の光環境の中でも、光が脳の働きに意味のある影響を及ぼしているのかを確かめることを目的としました。
そのために研究者たちは、夜勤や時差ボケなどの大きな生活リズムの乱れがない英国の成人58人を対象に、7日間の調査を行いました。
参加者は手首に装着したセンサーを用いて、日中から夜間まで連続的に光曝露を記録。
このセンサーは単なる明るさではなく、体内時計や眠気に強く働きかける種類の光の強さを測定できるように作られています。
同時に参加者は、スマートフォンアプリを使って、日常生活の中で繰り返し認知課題に取り組みました。
具体的には、注意力を測る反応課題、ワーキングメモリ課題、視覚探索課題などが実施され、主観的な眠気についても調査しました。
さらに41人の参加者は実験室にも参加し、瞳孔反応などを通じて、光への生理的な感受性も測定されています。
これらのデータを組み合わせることで、研究者たちは日常の光環境と脳の働きの関係を多角的に分析しました。
そして解析の結果、日常生活における光の浴び方と、眠気や反応速度、注意力との間に明確な関連が見られました。
特に、直近の明るい光や、日中全体の光環境が重要であることが示されました。
詳細な点は次項で詳しく見てみましょう。
認知テスト前に日光を浴びると集中力が増す
まず注目されたのは、認知テストの直前30分から120分の間に浴びていた光の量です。
この時間帯に明るい光を多く浴びていた人ほど、主観的な眠気が少なく、注意力やワーキングメモリ課題での反応時間が速くなる傾向が確認されました。
とくに直前の光であるほどその関連が強い傾向が見られました。
重要なのは、反応が速くなってもミスが増えていなかった点です。
これは、焦って雑な反応をしていたのではなく、脳の覚醒レベルが高まった結果として、情報処理そのものが効率化していたことを示唆します。
次に研究者たちは、1週間を通した光環境のパターンにも注目しました。
その結果、日中が明るく、夜は暗く、明暗の細かな切り替えが少ない安定した光環境で生活している人ほど、注意力や視覚探索課題の成績が良いことが分かりました。
この効果は一時的な覚醒によるものというより、体内時計が安定し、日常的に集中しやすい状態が保たれている可能性を示しています。
実際に、夜に早く暗くなる生活リズムを持つ人ほど、明るいときにはしっかり目が覚めており、暗いときには自然と眠くなる傾向も見られました。
研究者たちは、こうした現象の背景に、網膜に存在するメラノプシンを含む特殊な神経細胞の働きがあると考えています。
これらの細胞は、覚醒や体内時計の調整にも関わっています。
明るい日中の光は、これらの細胞を通じて脳の覚醒系を刺激し、短期的には反応を速めます。
一方で、日中が明るく夜が暗いという習慣的な光環境は、体内時計を安定させ、長期的に認知機能を支えていると考えられます。
総じて、実験室ではなく現実の生活環境の中で、これほど一貫した関連が示された点は重要だと言えます。
今後は、光環境を調整する介入研究や、異なる年齢層や生活リズムを持つ人々を対象とした研究が進むことで、より具体的な活用方法が明らかになるでしょう。
日常の光の浴び方は、私たちが思っている以上に脳の働きを支えているのかもしれません。
参考文献
Everyday sunlight changes your brain’s focus, speed and alertness
https://newatlas.com/learning-memory/speed-focus-sunlight-exposure/
元論文
Relationships between light exposure and aspects of cognitive function in everyday life
https://doi.org/10.1038/s44271-025-00373-9
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

