
家族や親族から離れて一人で暮らす人々は、いまや珍しい存在ではありません。
気楽で自由な生活ができる一方で、「もし自分に何かあったら」と考えると、不安がふと頭をよぎることもあります。
中国では、こうした不安を背景に、自分が「生きている」ことを毎日証明するだけのシンプルなスマートフォンアプリが大きな注目を集めています。
その裏側には、家族や近所とのつながりが弱まり、孤立への不安が高まっている現代社会の姿が見えてきます。
目次
- 毎日タップして生きていることを証明するアプリ『死了么』、なぜ広がったのか
- 「死んだ?」のアプリ名が「Demumu」へ変更に
毎日タップして生きていることを証明するアプリ『死了么』、なぜ広がったのか
中国で話題になっているのは、「Are You Dead?(中国語名:死了么/Sileme)」というアプリです。
仕組みは驚くほど単純で、ユーザーは1日に1回、アプリ内のボタンをタップして「今日も無事に生きている」ことを示します。
もし2日連続でチェックインが行われなかった場合、3日目にあらかじめ登録した緊急連絡先へ通知が送られる仕組みです。
健康を改善したり行動を分析したりするアプリではなく、「倒れたときに誰かが気づいてくれる可能性」を確保することだけに特化しています。
このアプリが急速に広まった背景には、中国の都市生活特有の不安があります。
北京や上海、深圳といった大都市では、多くの人が大きな高層マンションで一人暮らしをしています。
近所付き合いがほとんどなく、「数日姿を見かけなくても誰も異変に気づかないのでは」と感じる人も少なくありません。
さらに、中国では一人暮らし世帯が増え続けています。
若者を中心に、仕事を求めて地元を離れ、都市で単身生活を送る人が増えました。
その結果、日常的に安否を気にかけてくれる家族や親族が近くにいない人も多くなっています。
人口動態の変化も、不安を後押ししています。
中国では少子化と高齢化が進み、人口は2025年までに4年連続で減少したと報じられています。
一人っ子政策の影響を受けた世代では、兄弟がいないため、頼れる家族の数そのものが少ないケースもあります。
こうした環境の中で、「倒れたら誰が気づくのか」「最悪の場合、死んでも発見されないのではないか」といった現実的な恐怖を抱く若者は多く、この特殊なアプリ「死了么」が安心感を与えるものとなったのです。
そして多くの人々の注目を集めたことで、このアプリの名前が変化しようとしています。
「死んだ?」のアプリ名が「Demumu」へ変更に
このアプリの特徴は、機能だけではありません。
「死了么(Are You Dead?、死んだ?)」という露骨な名前は、中国最大級のフードデリバリーサービス「饿了么(お腹すいた?)」をもじったブラックジョークでもあります。
この自嘲的で皮肉の効いたネーミングが、現代の若者文化と強く共鳴しました。
中国の若い世代の間では、将来への閉塞感や疲労感を、あえて冷笑的なユーモアで表現する文化が広がっています。
「死」をあえて正面から言葉にすることで、誰もが抱えている不安を共有しやすくなり、アプリは単なる道具以上の象徴的存在になりました。
一方で、「縁起が悪い」「『Are You Alive?』に変えるべきだ」という反発もあり、死を直接語ることへの抵抗感が根強いことも浮き彫りになっています。
このように、国際的な注目を集めたことで、開発チームはアプリを「Demumu」という名称にリブランドし、グローバル展開を進める計画を明らかにしています。
名称は「death(死)」と、中国で人気のキャラクター「Labubu」を組み合わせたもので、今後は心拍モニタリングやSMS通知などを追加する計画も進められています。
これは主に中国のエピソードですが、根底にある「不安」は世界共通だと言えます。
アメリカを含む多くの国で、一人暮らし世帯は増え続けています。
日本でも、「現在独り暮らしだ」という人は多いでしょう。
都市化が進むほど、人は自由を得る一方で、誰にも気づかれずに消えてしまうリスクも高まっています。
「死んだ?」「生きてるよね?」とストレートに確認するアプリの流行は、現代社会に広がる孤立の現実を可視化した出来事だったのです。
参考文献
The Ghost in the Machine: How a Viral Death Alert App Became China’s Loneliest Safety Net
https://www.zmescience.com/science/news-science/the-ghost-in-the-machine-how-a-viral-death-alert-app-became-chinas-loneliest-safety-net/
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

