試合開始時に、スカイブルーのコートを激しく照らしていた太陽は、勝敗が決した時には観客席の背後に隠れ、照明が両選手の淡い影をコートに落としていた。
試合時間、3時間51分。両選手が奪った合計ポイント数は333。その最後の1ポイントは、バックハンドが長く伸び、相手の手に渡った。
最終スコアは、6-7(6)、1-6、7-5、6-4、3-6。2セットダウンから追い上げ駆け込んだ、人生で初の第5セット。最終セットで3度手にするも、生かせなかったブレークポイント。第6ゲームで左足を襲ったケイレン。転倒。そして、惜敗......。
19歳の新鋭、坂本怜のグランドスラム本戦デビュー戦は、起伏とドラマに満ちた、人々の記憶に残る激闘だった。
今回の全豪オープンテニスで予選を勝ち上がった坂本が、初戦で対戦したのはラファエル・ホダル。坂本と同期の19歳で、彼にとっても今回がグランドスラムデビュー戦だった。男子選手にとってグランドスラム本戦が特別なのは、5セットマッチという点だ。未知なる領域への不安や懸念は、両者とも頭のどこかにはあっただろう。
ハイレベルの第1セットを落とした時、坂本は「集中力が落ちるところまで落ちた」と後に振り返っている。あるいはそれも、初の5セットマッチゆえかもしれない。
ただ、トイレットブレークを挟んで第3セットに向かう時、坂本は「シンプルに、自分のやるべきことをしよう」と気持ちを切り替えたという。対して、2セットを通じ高質のパフォーマンスを維持していたホダルは、ここに来てようやく、フォアハンドにミスが増え始めた。
その綻びを広げるべく、坂本は相手のフォアにボールを集め、ラリーを支配し始める。第3セット終盤にブレークしセットを取った坂本が、波に乗ったまま第4セットも、最初のゲームでブレーク。そのリードを守り切り、咆哮と共に運命の最終セットへの扉を開いた。
両者とも予選3試合を勝ち上がり、初の本戦で、未体験ゾーンのファイナルセットへとなだれ込む。勢いは、追い上げる坂本にあるのは間違いない。
ただ後に本人は、自覚している“疲労時の癖”が出てしまったと打ち明けた。
「疲れてきたら、少しフットワークをサボったり、オープンスタンスが増えたり、一歩前に入れるボールを、打点を落として打ってしまったり......」
それが、坂本が残した悔い。
対するホダルは、「先々のことは考えず、常に目の前のポイントに集中した」と試合後に語った。それは、ファーストネームを共有する憧れの人――ラファエル・ナダルと同じ哲学。試合を通じブレぬその姿勢は、ネットを挟む坂本にも伝わっていた。
「彼の方が終始、浅いボールへの反応が早かったり、足の入り方が丁寧だった」と、坂本は振り返る。そして自分は、「だんだんラリーを組み立てるのではなく、一か八かで打ってしまった」とも.......。
「体力は、意外ともった」というのは、本音だろう。同時に「(第1セットの)タイブレークでは緊張しすぎて、余計に体力を使った」と言葉に悔いをにじませた。最終局面でのケイレンも、それら小さな因子の集積でもあっただろう。
それらの悔いや無念も含め、坂本は課題を自覚した上で、敗戦を正面から受け止めていた。
「相手も初のグランドスラム。条件が同じ中で、正面からぶつかり合ってもらって負けたので、すごく悔しいし、それは収穫だった。緊張しすぎて体力を使いすぎることも、もう知っているので、次からなくなると思う。それは良い経験だったと思います」
テニスは試合時間に限りがなく、不確定要素も多い。その競技において“知っている”ということは、とてつもなく大きな武器となる。
もはや坂本にとって、グランドスラム本戦も、5セットマッチも、3時間超えも既知の領域。それは19歳の大器に注ぎ込まれた、掛け替えのない財産だ。
現地取材・文●内田暁
【動画】坂本怜対ホダルの3時間51分に及ぶ激闘!「全豪オープン」1回戦ハイライト
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