弟の死をきっかけに現実から目を背け続ける家族の中で、たったひとり家族と向き合う【山吹】が、他者との深い関わりで自分の人生を見つめていくファミリードラマ『架空の犬と嘘をつく猫』。
原作は『川のほとりの立つ者は』で本屋大賞にノミネートされた寺地はるなさんの同名小説で、『愛に乱暴』の森ガキ侑大監督が『浅田家!』で日本アカデミー賞脚本賞を受賞した菅野友恵さんとタッグを組み映画化。本作で心を痛めた母の為に優しい嘘をつき続ける主人公【山吹】を演じるのは、高杉真宙さん。そんな【山吹】に深く関わってくる幼馴染【頼】には伊藤万理華さん、彼の初恋相手【かな子】には深川麻衣さんが扮し、【山吹】の優しすぎる性格による“歪み”も描かれていきます。今回は、この難役を演じた高杉真宙さんに主人公の真意という[ネタバレ]も少し語って頂きつつ、高杉さんの憧れる人間像も伺いました。
ーー『架空の犬と嘘をつく猫』では、様々な人の背景が自然と見えてくる物語でした。その中心人物として高杉さん演じる【山吹】がいます。【山吹】という役は、感情を優しさで隠すような性格なので難しかったと思うんですが、演じてみていかがでしたか。
そうですね。僕はこういう言い方はどうかと思われるかもしれませんが、【山吹】のようなキャラクターが好きなんです。我慢する役というか、そういう役がすごく好きで、どちらかと言うと僕はそういう役の方が愛せるんですよね。だから黙々と進んでいけました。
ーー【山吹】というキャラクターは、台詞として言っている事と心で思っている事が少し違うキャラクターですよね。そういう部分を分析するのが好きということ?
はい、ある種、積み立てやすいキャラクターでした。基本的に僕は、台本がすべてだと思っているんです。台本には起承転結があって、ストーリーの流れがあって、そこに登場人物の感情の流れがあるので、そこからキャラクターの情報を得ていきます。今回は幼少期も含めて家族の30年を描いた物語なので【山吹】の情報が沢山ありました。台本から彼の言動や行動を汲み取って、“彼をどれだけ理解してあげられるか?”ということが役作りだと思っています。だから今回は、僕にとっては分かりやすかったです。
ーーということは【山吹】は、ご自身に近い部分があったんですか。
近いかは分かりませんが、理解は出来ましたね。彼が彼になった理由が明確というか。幼少期の出来事が書かれていましたし、その事に対してどう思って過ごして来たかがあって、それが現在に繋がって、現在、彼は幼少期の思いを経て、今ここに居るから、ここから先の言動がこうなっていく。という過程と結果が見えやすかったです。だから僕は【山吹】というキャラクターの性格というか、彼を理解することが出来ましたね。
ーー確かに、この映画はそれぞれの生育環境での性格を読み取る映画としても深いんですよね。そう言えば、高杉さんの役者人生もずいぶん長くなりましたよね。
なんだかんだと16年? 17年目に入ったかもしれません。
ーーこれまでの経験から、役者として何を大切にするのがいいと思っていますか。
結局、どのくらい自分が演じるキャラクターを好きになれるか、その作品を好きになれるか、愛してあげられるか、だと思います。そこが自分の中で矛盾していると演じるのが難しくなってしまうんです。例えば理解をしていない、ただただ台詞を言うだけ、覚えているだけになっていると、自分の中で役との乖離が発生してしまう感じがして。だからキャラクターや作品を好きになることが、僕は大切だと思っています。
そして作品を作る、作品を公開する、取材を受ける場もそうですが、結局、人と人との繋がりなので、「好き」という感情を大事にしていかないといけないと思っています。当たり前のことが凄く重要だと、今はすごく思います。
ーー映画の中で伊藤万理華さん演じる【頼】と深川麻衣さん演じる【かな子】との間で、【山吹】が揺らぐシーンがあります。【山吹】が深川麻衣さん演じる【かな子】の方へ行ってしまう気持ちが「わからない」と仰っていましたが、その部分はどうやってクリアしていったのですか。
【山吹】と【かな子】の関係を僕は共依存だと思っていて、その部分が最初は分からなかったんです。彼は彼の家庭の中で幼少期からの呪いのようなものを抱えていて、【かな子】にも彼女なりの家庭への呪いがあって、それの脱着というか、脱着した中での共依存なんですよね。まぁ最初は初恋だったと思うんですけど。それが共依存になっていったんだと僕は思っています。そこから救ってくれたのが【頼】ちゃんだと思っています。【頼】ちゃんは幼少期の頃は取り繕っていたけれど、それを辞めてからの【山吹】に対するアプローチがストレートだったからこそ、【山吹】もストレートに対応することが出来るようになったんです。そうしていく中で【かな子】との共依存から抜けられるようになったのではないかと思っています。
ーーなるほど。そういうふうに言われて腑に落ちました。あの一瞬、私としては“えっ!? 山吹! ”って思ったんですもん。
僕も“なんでだよ!? ”と思いました (笑)。でも本当はあそこの後で、【山吹】はちゃんと色々なことが分かっていて、あの対応をしたんだと思っています。【かな子】に惹かれているからではないと僕は思うんですよ。
====ここから少し劇中の踏み込んだシーンでのネタバレです===========
ーー私は【山吹】の優しさからだと思いました。優しくありたいというか。
そうですね。【山吹】は「優しくならねばならない」という呪いがかかっている人だと思っています。元々は優しい人ではないというか、あそこまで極度の優しい人ではないと僕は思っています。あの優しさってほとんど嫌味じゃないですか?(笑)「過度の優しさ」っていうのは、僕はおかしいと思っていて、きっと“そうでないといけない”という責任感からくるものだと思っていました。だって【頼】との人生を決断した上で、【かな子】に行くことはないと僕は思っていて、だからこそ最後の決別の為の出会いであったのではないかと思っています。けれど、それでも【かな子】は抜けられなかった人だから「来てしまう」ということに繋がっていくんだと思っていました。
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ーー自分の彼氏に【かな子】のような存在が居たら、“やばい”と思うもんなぁ。
確かに。最悪ですよね (笑)。
ーー色々、納得しました。でもデビュー当時からインタビューや舞台挨拶でお会いしていますが、高杉さんは今は29歳。現時点で「こういう人間になりたい、なってみたい」というのはありますか。
うーん、そうですね。僕は後回し癖がすごくて‥‥。「後でやろう」っていうのは、多くの人に皆あると思うんですが、本当に僕はそれがすごいんですよ。例えば「あと何日もあるし」と思ってしまうところとか、それを今年は止めようと思っています。
ーーということは、台本を貰った時点ではどうなんですか。
一番最初に台本を頂いた時にバッと読んで、それからちょっとずつ、ちょっとずつ覚えますね。細かいところは後ほどって感じに覚えるタイプです。すごく段階を踏んでいきます。僕はスロースターターなんで(笑)。本当にスロースターターで‥‥、そういうところを止めたいというか、変えたいというか、そんな感じです。
ーー私は完全に「優しい人になりたい」です。高杉さんみたいに。褒められるとしたら「面白い」というくらいで「優しい」と言われたことはない (笑)。
うらやましいです。僕も面白い人間になりたいですよ。
ーー確か、高杉さんはコメディが好きでしたよね。
はい、大好きです ! 芸人さんも大好きですし、コントも大好きだし、だったら僕も面白い人間になりたいです (笑)。
ーー高杉さんはコメディにもチャレンジされてるじゃないですか!
本当に恥ずかしいのですが、面白く見せるには“大きな声を出すしかない”と思っていて(笑)、面白くない人間はどれだけ大きな声を出せるか?と思っていて、でもセンスがないので、面白い人間になりたいですね。
ーー目標にしている芸人さんや、「こういう面白い人間になりたい」と思う人はいますか。
サンシャイン池崎さんとなかやまきんに君さんですね。
ーー分かる (笑)、私はロバート秋山さんも好きです。
いいですね、ロバート秋山さん。うらやましいです、あの面白さはもうセンスですよね。ハア~、僕には一生なることが出来ません。センスだもん。
ーーそんなことないですよ。だってシリアスにもコメディにも出演していますし。それってすごい事です。コメディはあえてチャレンジされているんですか。
はい。僕は好きだから、“やればちょっとでも吸収できるのかな? ”って思って、コメディとかは率先してやりますけど、なんかね、なんか‥‥、ただ笑って過ごすだけの時間にいつもなってしまうんです。悔しくてしかたがないんです。悔しいんです。
ーー終わった後に。
コントとか、コメディは出演したことの達成感がすごくて (笑)。撮影を終えると“うらやましい”って思って帰って来るんです。
ーーでは今後も色々とチャレンジされていくんですね。
そうですね。やりたいですね。コメディやコントも磨きたいです。どうしたらいいんでしょう?どうしたら面白くなるんでしょう?別にいいんです、普段が面白くなくっても。コントとコメディに関しては、僕は人の作品にあやかって、面白い作品に出演できればいいんです。でも難しいんです。頑張りたいと思います。
ーー今後のコメディも楽しみです (笑)。
漫画好きの高杉真宙さんに最近のお気に入り漫画を聞きました。おすすめされたのは「チ。 ―地球の運動について―」。去年観て興奮したアニメ映画『ひゃくえむ』の魚豊氏の漫画であり、舞台にもアニメにもなったアレじゃないですか!読まなきゃなぁ。さすがよくチェックしている高杉くんでありますが、映画の見方も「構成の工夫」がされているものが好きなんだそう。だから台本を読んで人物を分析するのが上手いのでは、と思いました。“優しくなければいけない”に囚われた主人公【山吹】の心の解放や、彼を取り巻く人々の心を描いた『架空の犬と嘘をつく猫』。語らうほどに味わい深い作品なのでした。
取材・文 / 伊藤さとり
撮影 / 奥野和彦
映画『架空の犬と嘘をつく猫』
弟の死により現実を見なくなった母親を筆頭に、家族誰もが”不都合な真実“から目をそらし、それでもなお一緒に暮らしている、機能不全の羽猫家の約30年間を描いた物語。
監督:森ガキ侑大
原作:寺地はるな「架空の犬と嘘をつく猫」(中央公論新社刊)
出演:高杉真宙、伊藤万理華、深川麻衣、安藤裕子、向里祐香、ヒコロヒー、鈴木砂羽、松岡依郁美、森田想、高尾悠希、後藤剛範、長友郁真、はなわ、安田顕、余貴美子、柄本明
配給:ポニーキャニオン
©2025 映画「架空の犬と嘘をつく猫」製作委員会
公開中
公式サイト usoneko-movie.com/
