
北海道・知床半島沖や釧路沖では、毎年のようにシャチの姿が目撃されます。
観光船から見えるその黒白の体はおなじみに思えるかもしれませんが、実は長いあいだ「このシャチたちは、どんな集団に属しているのか」という基本的な情報は分かっていませんでした。
ところが今回、京都大学や北海道大学らの研究で、遺伝子を手がかりに調べた結果、北海道に来遊するシャチは2つの異なるタイプに分かれていることが明らかになりました。
研究の詳細は2025年12月17日付で科学雑誌『Marine Mammal Science』に掲載されています。
目次
- シャチには「エコタイプ」がある
- 遺伝子が示した「2つの系統」
シャチには「エコタイプ」がある
シャチは世界中の海に生息していますが、どこでも同じ暮らしをしているわけではありません。
利用するエサや行動様式、遺伝的な系統の違いを総合して、シャチは現在「エコタイプ」と呼ばれる複数のグループに分けられています。
とくに研究が進んでいる北太平洋東部では、主に3つのエコタイプが知られています。
・魚を中心に食べ、サケを主食とする「resident(レジデント)」
・アザラシやイルカなどの海棲哺乳類を捕食する「transient(トランジェント)」
・サメを食べる「offshore(オフショア)」
です。
一方、日本近海はシャチ研究の空白地帯でした。
北海道では毎年シャチが観察されているにもかかわらず、彼らがどのエコタイプに属するのかは、はっきりしていなかったのです。
過去の観察や、ミトコンドリアDNAの一部を調べた研究から、哺乳類を食べるシャチがいる可能性は示されていましたが、魚食性の捕食行動は確認されておらず、部分的な遺伝解析ではエコタイプを判別できませんでした。
そこで研究チームは、より決定力のある方法として、ミトコンドリアDNAの全長配列を用いた解析に挑みました。
遺伝子が示した「2つの系統」
研究では、北海道周辺で得られたシャチ25個体の組織サンプルを用いました。
これには、海岸に座礁・漂着した個体の標本や、洋上で採取された生体サンプルが含まれています。
これらのサンプルからDNAを抽出し、ミトコンドリアDNA全体を次世代シーケンサーで解読しました。
得られた配列を北太平洋全域のシャチのデータと比較したところ、北海道のシャチはレジデントとトランジェントの2つのエコタイプに属することが分かりました。

オフショアに該当する個体は、この研究のサンプルには含まれていませんでした。
さらに研究では、「ハプロタイプ」と呼ばれる、ミトコンドリアDNAの細かな配列の違いにも注目しています。
その結果、レジデントとトランジェントでは、ハプロタイプの多様性に大きな違いがあることも明らかになりました。
これは、同じ海域にいても、両者が異なる遺伝的背景を持つ集団であることを示しています。
北米の太平洋沿岸では、こうした違いを踏まえ、レジデントとトランジェントを別種として扱うべきだという議論も進んでいます。
北海道のシャチでも、今後生態的な違いが明確になれば、保全の単位を分けて考える必要が出てくるかもしれません。
参考文献
北海道の海には2タイプのシャチがいる ―北海道の海に現れるシャチのエコタイプ解明―(PDF)
https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/260122_pr2.pdf
元論文
Whole Mitochondrial Genome Analysis of Killer Whales Reveals the Presence of Resident and Transient Ecotypes Around Hokkaido
https://doi.org/10.1111/mms.70107
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

