ロシア映画『ナイト・ウォッチ』(04)で世界的注目を浴びたカザフスタン出身のベクマンベトフ監督がハリウッドデビューを飾った『ウォンテッド』(08)に端役として出演していたプラット。「あれはもう20年ぐらい前になるのかな…。僕がロサンゼルスで撮った、本当に初期のころの作品です」と、まだ無名だった当時を懐かしみながら、久しぶりのとなるベクマンベトフ監督とのタッグを喜んでいるようだ。
そんなプラットが『MERCY/マーシー AI裁判』で演じたのは、妻殺しの容疑をかけられたロサンゼルス市警の敏腕刑事レイヴン。時はAIが司法を担うようになった近未来。“マーシー裁判所”に拘束されたレイヴンは、自らの無実を証明するために“ミュニシパル・クラウド”と呼ばれるデジタル空間からありとあらゆる証拠をかき集め、AI裁判官が算出する“有罪率”を規定値まで下げようとする。制限時間はわずか90分。失敗すれば処刑されるという窮地に追い込まれていくのだ。

本作の最大の特徴といえるのは、物語の大半が“マーシー裁判所”という法廷を舞台に、主人公を取り囲む無数のバーチャルスクリーンのなかで展開していくこと。プラットはこれについて、「それこそがこの映画をとても“今日的”なものにする要素。画面上の世界だけで完結する“スクリーンライフ映画”のアプローチを土台にしつつ、よりシネマティックな方向に一歩踏み込んだ作品になっています」と説明する。
近年インディペンデント映画界を中心に増加傾向にある“スクリーンライフ映画”。その先駆けとなった「アンフレンデッド」シリーズも日本でヒットを記録した『search/サーチ』(18)もベクマンベトフ監督が製作を務めており、彼はまさにそのパイオニア的存在。「なかでもティムールが撮った『Profile』という作品は本当にエキサイティングな“スクリーンライフ映画”。本作にとってもひとつのタッチストーン(指標)になっているといってもいいでしょう」と、プラットは称賛の言葉を送る。
「このタイプの作品が増えてきたのは、車載カメラやPC画面のキャプチャのように日常的なカメラを使って低予算で作ることができるから。でも本作は、より大きな予算で“次のステップ”を目指しています。映画の大半がAI判事のマドックスの視点から僕を見つめる構図で描かれているけれど、物語が進むにつれてそこから抜けだした、より客観的な視点も手に入れていく。そういった意味では“スクリーンライフ映画”そのものではないかもしれませんが、確かにその要素はしっかりと反映されています」。

映画はほぼ全編を貫く法廷シーンと、主人公が見る自らの人生で起きた様々な出来事の断片とに大きく分けることができる。これらはそれぞれ別々に撮影されるため、法廷シーンの撮影時には、視線の先にあるはずの映像がまだ用意されていないことも少なくなかったようだ。「目の前に存在しないものにリアクションすること自体はかなり慣れています。『ジュラシック・ワールド』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』でもやっているから、僕にとっては決して新しいことではない」。

自信たっぷりに語るプラットだが、そこにはまた別の挑戦があったという。「とにかくロングテイクが多く、40分や50分にも及ぶテイクを回して、その間に膨大な台詞をしゃべり続けなければいけないし、視線のやり場もいくつもある。それらをひと繋がりのシーンとして成立させなければならず、どこでテンポを落としてしっかりとドラマを見せるのか、どこでスピードを上げて切迫感を高めるのか。それぞれのビートを拾い分けていく必要がありました」。

こうした法廷セットでの撮影の一連を「テクニカルなダンスの振り付けを覚えて、実際に踊ってみせるような作業だった」と振り返るプラット。その卓越した演技に注目しながら、AI化が進む現代社会に警鐘を鳴らすスリリングなジェットコースタームービーを体感してほしい。
構成・文/久保田 和馬
