
■「馴染みが薄い女性バディものだからこそ出演したかった」
ソウルの繁華街で日々生き延びるために必死に働いていたミソン(ハン・ソヒ)と、ドライバーとして生計を立てているドギョン(チョン・ジョンソ)。“昼は働き夜は眠る”というごく当たり前な生活を手に入れるというささやかな夢が叶う寸前で、ある者の策略により夢が消えてしまう。絶体絶命の2人だったが、クラブを経営するト社長(キム・ソンチョル)がソウル近郊のどこかに大金を隠しているという情報を聞きつけ、一攫千金の大勝負に乗り出していく。

ミソンを演じたハン・ソヒは、本作に出演することになった決め手を、こう語る。「女性のバディものって、業界ではかなりまだ馴染みが薄いところもありますよね。そもそも女性によるジャンル映画自体も少ないように思います。だからこそ興味を持ちました。それに、これまで自分が演じてきたキャラクターとは全く正反対の部分にもすごく惹かれたんです」。
ハン・ソヒがミソンを「一番平凡な人生を望んでいる子」と解釈しているように、現実に軸足を置いて生きているミソンは儚げでありながらも、ある瞬間驚くような大胆さを見せる。監督を務めたイ・ファン監督は、これまでも『パク・ファヨン(原題:박화영)』(18)、『大人たちには分からない』(21)などで韓国の若者が抱える問題を描いてきた。ハン・ソヒとチョン・ジョンソが厳しい現実を生き抜く様子や野性味あふれる姿で表現することで、観客に衝撃を与えたかったというイ・ファン監督。ハン・ソヒはそんな期待に十分応え、ミソンというキャラクターを作り上げた。
「誰よりも平凡な人生を生きているわけではないけれど、その目的のために、段階を踏んで一歩一歩達成へ近づいていくキャラクターです。そういうミソンを演じるにあたっては、特別に努力したというより、ミソンとドギョンがどうやって友達になったのか、そしてこの2人がなぜ互いに離れられないのか、なぜこんなにつらい苦難と逆境を互いに支え合いながら乗り越えていくのか…そうした面により集中しました」。

ミソンの大胆さを表現しているシーンのひとつが、キム・シンロク扮するミソンたちの“ママ”ことチェ・ガヨン(キム・シンロク)と親密な関係にある、日本の大使(キム・イヌ)と交わすひりつくような会話だ。
「相手役のキム・イヌさんの話し方などがとてもリアルだったおかげで、私もより集中できました。実は本編で使われているほかに、たとえば私が携帯をこうやって(シーンを再現するように)取り出したときに、ちょっとからかう感じでケラケラ笑うというようなパターンもあったりと、試したバージョンもすごく多かったんです。ただ結局、監督はあまり嘲笑というよりは、『私はここまでやれるんだよ』っていう、ちょっと荒っぽい感じを見せることを強調されたのかなと思います」。
■「ジョンソさんは現場でも日常でもすごくたくさんのインスピレーションをくれる友だち」
ミソンを演じたことは、またキャリアを大きく成長させるものとなった。さらに、自分自身でも知らなかった一面を見出したらしい。
「自分でも気づかなかった新しい発見は、当然ありました。とにかくジョンソさんとは、友だちとして見せられるケミストリーから出てくる話し方とか、すごく気楽な言葉づかいと振る舞いがそのままうまく作用していた気がします。なので、私は序盤のシーンがすごく好きです。とても新鮮に感じましたね」。
ドギョン役のチョン・ジョンソとは、プライベートでも仲が良い親友同士なのだ。ガヨンを間にした奇妙な家族関係を含め、緊張感を保ちながらも親しい者でしか出せない唯一無二の演技アンサンブルを見せた。チョン・ジョンソからは「ソヒさんはプライベートだとすごくサバサバしているので、ミソンと比べると性格が正反対な気がします。また俳優として、とてもプロフェッショナルです」と評されていたハン・ソヒ。では逆に、親友であるチョン・ジョンソをどのように感じているのだろうか。

「ジョンソさんは現場でも日常でもすごくたくさんのインスピレーションをくれる友だちです。撮影では環境も季節も大変だったので、とにかくすごく頼りにしていました。また、ジョンソさんの性格はドギョンとは少し反対の部分があります。ジョンソさんはとても愛情深くて、心も温かい。そういうところが自分とすごく合っていた気がしますし、また時にはとてもしっかりしていて、私のことをよく気遣ってくれる、そんな友だちだと思います」。
■「感情が欠落しているキャラクターをやってみたらどうかな?と考えているんです」

本作は第50回トロント国際映画祭でワールドプレミアとして披露されている。北米で最重要の映画祭のひとつであり、幅広いジャンルと作品が揃い、何よりも映画ファンを大事にすると言われている映画祭での観客の反応に、ハン・ソヒは感激したという。
「私たち自身撮影しながら本当に笑える瞬間が多かったんですが、イ・ジェギュンさん扮するソックというキャラクターが本当におかしくて。実際に私たちも笑いをこらえながら撮影していました。トロントの観客の皆さんも同じく笑ってくれて、私たちの意図どおりに感情を受け取ってくださりとても誇らしく感じました」。

ドラマ「夫婦の世界」での“悪女キャラ”でブレイクしたハン・ソヒは、恋に臆病な美大生に扮した「わかっていても」でさらに知名度を上げた。「マイ・ネーム:偽りと復讐」ではエネルギッシュなアクションで復讐に燃える警察官に強い説得力を持たせた。続く「京城クリーチャー」では、そのアクション演技をさらに磨き上げ、悲しい宿命を背負うヒロインを力強く演じ切った。そして『PROJECT Y』の次は、アン・ハサウェイとロバート・デ・ニーロが出演した『マイ・インターン』(15)の韓国リメイクでチェ・ミンシクと共演する。話題作からのオファーが引きも切らないハン・ソヒに、今後演じてみたいキャラクターを尋ねたところ、はにかむように笑いながら「狂気的なキャラクターがやりたいんです…!」と答えた。

「これまでは、割と感情が豊かだったり、あるいは抑制的なキャラクターを演じることが多かったんです。だからむしろ、感情が欠落しているキャラクターをやってみたらどうかな?と考えているんです」。
意外な答えは、インタビュー中も笑顔を絶やさず、表情豊かで気さくな彼女の変身願望なように思えて、大いに気になるところだった。痛快なガールズ・リベンジの次はヒューマンドラマ、そして危険なサイコキャラの魅力を発揮してくれるのかもしれない。
取材・文/荒井 南
