ユーロの日常
カウントダウンの喧騒のあと、私は休暇モードに入り、1月1日の夕方、ブルガリアに遊びに来た家族をピックアップするために空港に向かった。すでにレフ表示のみの地下鉄券売機は使用禁止の紙が貼られ、付近の両替ショップもレフ交換のニーズがなくなったせいか、人影はまばらだった。
さて、ATMはどうかということで試しに現金を引き出してみると、当然のことながらユーロ紙幣を受け取ることができ、ブルガリアのユーロ加入を実感できた。
この先、市中でしばらくの間、レフも併用できるものの、ATMでの引き出しがユーロのみに限定されるため、レフからユーロへの置き換えは思いの外速い速度で進んでいくのかもしれない。
もうひとつ、クレジットカードの即時通知サービスの変化もブルガリアの通貨切り替えを肌で感じさせてくれるものだった。
12月31日まではレフでの利用履歴が示されていたが、1月1日からはきっちりとユーロ表示で通知がくるようになった。
ただシステム変更だけではスムーズに通貨切り替えが進まない領域もある。その一例がカプセルトイ(いわゆるガチャガチャ)だ。
カプセルトイは発祥こそアメリカであるが、日本で大いに発展し、世界中で親しまれている。この機械は硬貨の投入口がレフのコイン用に調整されているため、すぐにユーロ化することはできない。
現在のレートは大体2レフで1ユーロという実感なので、これまで2枚の1レフ硬貨で遊んでいたガチャガチャを1ユーロ1枚で利用できるように改修するケースが多いと思われるが、ブルガリア全国でいつ頃この改修作業が終わるのかはまだ見通せない。
とはいえ、カプセルトイのマシンが並ぶショッピングセンターで、切り替わったばかりのユーロを握りしめた子どもたちが店員に旧通貨レフへの交換をせがむシーンは、どこかほほえましい感じがした。
通貨変更のドタバタとトラブル
私の現在の生活拠点であるポーランドのワルシャワに戻っても、ブルガリアのユーロ導入を見届ける私の旅は終わらなかった。
自宅に着くと、国際通貨取引に利用しているWise銀行から身に覚えのない預金引き出しの通知メールが届いていた。さてどうしたものかと、パソコンとアプリで取引の詳細を見てみると、1月1日以降、ブルガリアで3回引き出したユーロがすべて二重にカウントされ、預金から落とされていたことがわかった。
その結果、私の口座は何と、マイナスになってしまった(笑)。通貨の変更という慣れない国家的大事業に際し、やはり不手際が起こったようだ。
私はすぐにWiseに連絡を取ったのだが、「調べます」と言ったきり3日が経っても音沙汰がなく、4日目になってようやく「調査中ですが、一旦返金します」との返事をもらうことができた。おそらくブルガリアのユーロ加盟に伴い、相当の件数のトラブルがあり、金融の現場はものすごい状況になっているのではないだろうか?
その後、お金は無事に戻ってきたものの、キャッシュカードは作り直しする羽目となり、かなり面倒な思いをするという実害が発生したのだった。これはブルガリアにおけるユーロ導入の現場を巡る私の旅の最後のオチと言ってもよいかもしれない。
もっともこうした通貨変更のドタバタはある程度の時間が経てば落ち着くだろうし、後から振り返れば笑い話となることだろう。一日も早くその日が訪れ、ブルガリアの人々が2025年から2026年初頭の混乱を笑顔で語れる状況になることを願っている。
取材・文/井出明

