
マクドナルドのチキンマックナゲット®には4種類の決まった形があることをご存じでしょうか。
単なる製造上の都合や遊び心かと思いきや、そこには私たちの脳を巧みに操る巧妙な心理トリックが隠されているのです。
立命館大学の西田勇樹らの研究チームは、この「形のバリエーション」こそが、見た目のおいしさを底上げし、さらに食べていて「飽きる」のを科学的に防いでいるという事実を明らかにしました。
なぜ、同じ材料や味なのに形が違うだけで満足感が続くのか?
私たちが何気なく食べているチキンマックナゲット® の形に隠された、食欲と脳をめぐる驚きの科学に迫ります。
この研究の詳細は、2024年4月27日に学術誌「Interdisciplinary Information Sciences」に掲載されています。
目次
- 同じ食べ物を食べると飽きてしまう
- 形が違うと別の食べ物だと錯覚する
同じ食べ物を食べると飽きてしまう

マクドナルドのチキンマックナゲット®には、上記の画像のように「ボール(丸型)」「ベル(鐘型)」「ブーツ(靴型)」「ボーン(骨型)」の4種類の形があります。
これらは単なるデザインの遊び心ではなく、製造時にも重さやサイズがほぼ均一になるよう管理されており、提供時はランダムな組み合わせで箱の中に入っています。
これについてマクドナルドは、経験則として「形がいろいろある方が飽きずにたくさん食べてもらえる(楽しい)」と考えて行っていたそうですが、科学的な裏付けがあるわけではありませんでした。
そこでデザインが食物に与える影響に関する研究に協力する形で、このチキンマックナゲットの形状が実際食べる人たちにどんな影響を与えているかが調査されたのです。
この「形のバリエーション」がもたらす効果の中心にあるのは、「感性的満腹感(SSS:Sensory-Specific Satiety)」という心理現象と関連しています。
感性的満腹感とは、同じ食べ物を繰り返し食べ続けると、次第にその味に対する「おいしさ(快感)」や「食べたいという欲求」が低下していく現象のことです。
この現象は、人間が多様な栄養素を効率よく摂取するために備わった生存本能(進化的な適応)であると考えられています。
雑食動物である人間は、特定の食品だけを大量に食べることで生じる毒性のリスクを抑えつつ、幅広い食品から多種多様な栄養を得る必要があります。
そこで、感性的満腹感が起こることで、私たちは一つの味に「飽き」を感じ、自然と別の食品へと目を向けるよう動機づけられているのです。
立命館大学の西田勇樹らの研究チームは、この感性的満腹感が、味や食感が全く同じであっても「視覚的な形」を変えるだけで抑制できることを実験で証明しました。
研究チームは、20名の参加者を対象に、ナゲットの「形」が感性的満腹感をどれほど抑制するかを検証する3段階の実験を行っています。
まず参加者は「ボール型」か「ボーン型」のいずれか1個のナゲットを食べ、その直後に「美味しさ」や「食欲」などの項目について評価を行いました。
次に参加者は、さらに6個のナゲットを自分のペースで食べるよう求められました。
この際、参加者は「最初と同じ形だけを6個食べ続けるグループ」と、「4種類の異なる形を混ぜて食べるグループ」の2つにランダムに分けられています。
最後に参加者は再び最初と同じ形のナゲットをもう1個食べ、改めて「美味しさ」や「食欲」の項目の評価を行いました。
形が違うと別の食べ物だと錯覚する

実験の結果、4種類の異なる形を混ぜて食べたグループは、同じ形だけを食べ続けたグループに比べて、美味しさの低下が緩やかになり、飽きを感じにくく、食べ終わった後に「もっと食べたい」と思うことが分かりました。
またこの実験の最も重要な発見は、ナゲットの「食感(口当たり)」に関する評価には、グループ間で全く差がなかったという点です。
なぜなら、これまでの研究(パスタなどを使用)では、形が変わると口当たり(食感)まで大きく変わってしまうことが課題だったためです。
つまり、今回の結果は、味や食感が全く同じであっても、純粋に「視覚的な形の違い」という情報だけで、脳が「これは新しい食べ物だ」と錯覚し、飽きを抑制する「別腹」のような効果をもたらしていることを意味します。
形にバリエーションがある利点は、感性的満腹感の抑制だけではありません。
同研究チームは、「食べている時の飽き」だけでなく、「食べる前の見た目」 についても興味深い研究結果を報告しています。
それは、同じ形のナゲットが並んでいるよりも、複数の形のナゲットが混ざっている方が、全体としてより美味しそうに見える現象です。
個人の顔が単独で提示されるよりも、グループの中にいる時の方がより魅力的に見える「チアリーダー効果」が、チキンマックナゲット®においても生じることを発見しました。
ちなみに最も丸みを帯びた「ボール型」は、単体だと4種類の中で最も美味しそうに見えないという結果も報告されています。
これは 一般的に「丸い形」が「甘い味」を連想させ、「丸いから甘いはず」という脳の期待に反し、ナゲットは塩味であることが違和感となり、評価を下げてしまった可能性があるからだと考察されています。
しかし見た目の評価が低い「ボール型」であっても、他の異なる形と混ぜて提示されることで、その低評価が目立たなくなるだけでなく、個体としての魅力も底上げされているのです。
マクドナルドのチキンマックナゲット® が4つの形状で構成されているのは、決して偶然や単なる遊び心ではありません。
これらの形は、私たちの食欲を刺激し、満足度を維持するための科学的なエビデンスに基づいています。
私たちが最後の一つまでナゲットを夢中で食べてしまう裏側には、私たちの脳と本能を理解した、驚くほど合理的な心理戦略が隠されていたといえるでしょう。
元論文
Effect of a Variety of Food Shapes on Sensory-Specific Satiety Using Chicken McNuggets® as Stimuli
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390020541278945280
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Shape variety of food can boost its visual appeal.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38901767/
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしていました。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。
編集者
ナゾロジー 編集部

