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新3年生は3人、劣化した人工芝、全国の舞台から遠ざかり…。苦難と逆境に立ち向かう“セクシーフットボール”野洲高校の今とこれから

新3年生は3人、劣化した人工芝、全国の舞台から遠ざかり…。苦難と逆境に立ち向かう“セクシーフットボール”野洲高校の今とこれから


 観客を魅了するテクニカルなプレースタイルで野洲高校が選手権優勝を果たしたのは、今から20年前の2006年1月9日。現在、野洲の指揮を執るのは日本一の翌年に入学し、GKとして活躍したOBの横江諒監督だ。「母校でやりたくて教員になったし、チャンスを後回しにしたくなかった」と22年に甲南高校から異動してきたが、目に飛び込んできたのは自身の現役時代とはまったく違う光景だったという。

 日本一となった後もインターハイ、選手権にはコンスタントに出場していたが、選手権に出場した16年度以降は全国大会から遠ざかっている。「大人にはセンセーショナルな優勝の仕方をしたチームだと見てもらえるのですが、今の子たちは知らない」と口にする通り、現在の十代の選手たちは野洲が優勝した頃には生まれておらず、強豪校という認識を持っていない。

 取り巻く環境も当時とは大きく変わっている。全盛期は県内の有力選手がこぞって野洲の門を叩いたが、近年は小学校から中学校に上がるタイミングで県内のトップクラスの選手は京都サンガやガンバ大阪、セレッソ大阪といった関西のJリーグアカデミーへと進む。中学から高校に上がるタイミングではさらに近県の高校へと進学。選手権出場を目ざし、関西から出ていく選手も多い。

 
 そこから、県内の高校同士で選手を取り合う形になるが、野洲は公立であるため、早くから選手に声を掛けることができない。長きに渡って覇権争いをしてきた同じ公立で体育科のある草津東高校だけでなく、近年は近江高校や立命館守山高校といった私学が台頭してきているため、県内の中学生たちの間で野洲の優先順位は低下しているのが現状だ。

 横江監督の現役時代は全国優勝やJリーガーになるため、サッカーに全力を注ぐ選手が多かったが、今は違う。「全盛期を知っている僕が『これぐらいやらないといけない』と要求しても、『そんなん違うし』となる子も少なくない。ギャップがあるから、指導が上手くいかない部分も多かった」(横江監督)。全国大会から遠ざかるにつれ、サッカー部の部員数は減少し、今年高校3年生となる学年は3人しか選手がいない。
 何より大きく変わったのは日々の練習を行なうグラウンドだ。

 優勝した翌年の06年度に人工芝となったが、当時は土のグラウンドもまだ多かった時代。プリンスリーグ関西の会場となり、ガンバ大阪ユース時代の宇佐美貴史がプレーしただけでなく、青森山田高校時代の柴崎岳も訪れている。ただ、通常7~8年で張り替えが必要となるが、費用が高額になるため、20年近く一度も張り替えることなく使用し続けている。

 実際にグラウンドを見ると劣化は激しい。人工芝は消耗し、チップの黒い部分のほうが目立つだけでなく、陥没している箇所もある。特に消耗が激しいゴール前は応急処置として県内のフットサルコートで不要となった人工芝を置いているが、つぎはぎ状態になっているため、ボールの動きが不規則となり、練習に支障をきたしている。

「捻挫は日常茶飯事で、スライディングをしたら血だらけになる。前十字を切ってサッカーができなくなった選手もいる」(横江監督)ため、近年は公式戦を野洲で行なうことはなく、練習試合も極力外に出ている。日々の練習も可能なかぎり、近隣の人工芝グラウンドを抑えようとしているが、他団体との抽選になるため、高校のグラウンドで練習をせざるを得ないことも多いという。

 
 そうした現状にただ手をこまねいているわけではない。「滋賀県のチーム競技で、全国優勝したのは野洲高校のサッカー部だけ。今は横江先生が描いている像とはかけ離れていると思うのですが、なんとか母校もう1回立て直そうと思ってくれているので支援したい。その第一弾が環境整備」と話す上品充朗校長を中心に、人工芝の張り替えを進めるプロジェクトが始まった。

 昨年10月には高校と同窓会、PTA・後援会が手を組み、一般社団法人「シン野洲高校応援会」を設立。12月中旬からは人工芝の張り替え資金として、1億円を集めるためクラウドファンディングをスタートさせた。これまでも野洲でプレーしたいといって、練習参加に来たもののグラウンドの状態を見て他校への進学に切り替える選手も少なくなかった。「サッカー部の人気と学校の人気は結びついている。サッカーを学校の起爆剤にしたい」と上品校長が話すように、張り替えが進めば、近年続く定員割れにも歯止めがかかるかもしれない。
 ピッチ内での野洲復権に向けた取り組みも進む。横江監督が熱心に県内のチームへと足を運んだ結果、25年度に入学した学年には、24人の生徒がサッカー部に入部した。昨年から望月嶺臣氏(名古屋グランパスなどでプレー)も外部コーチとして母校に復帰するなど、OBたちの支えも大きい。

「中学生の頃、望月コーチの指導を受けるうちに野洲に段々憧れていって、このチームでサッカーがしたくなった」と口にするのはMF小森宗一郎(1年)。県トレセンにも選ばれる実力者で、県内にある多くの高校から誘いを受けたが、野洲のセクシーフットボールに魅了され、入学を決意。「ピッチの悪さは気にならないぐらい練習が面白い。頭の中がすごく鍛えられる練習で、やっていて飽きない。もちろんしんどいこともたくさんあるのですが、練習が楽しくて上手くなれる」。

 また、選手権優勝に導いた山本佳司元監督が野洲を支援するため設立した一般社団法人「Yasu Style」のサポートにより、昨年11月からはヘッドコーチとして日本一を支えた岩谷篤人氏も外部コーチとして戻り、月に数回定期指導を行なっている。

 
 乾貴士(現ヴィッセル神戸)らも行なってきた“ジグドリ”と呼ばれる定番メニューを近年はただこなすだけになっていたが、岩谷氏の下では「こだわりや質が違う」(小森)。一つひとつのボールタッチや動きを意識して練習に励む選手が出始めてきた。サッカーに取り組む姿勢にも変化が見られ、これまでは練習開始時間のぎりぎりに来る選手がほとんどだったが、今は授業が終わり次第、グラウンドに顔を出してボールを蹴る選手が増えてきたという。
 横江監督も選手に高い基準を知ってもらうため、神村学園高等部や流経大柏高校といったプレミアリーグのチームに連絡を取り、練習試合を組んでいる。神村学園の有村圭一郎監督をはじめ多くの高校が「野洲には鍛えてもらったから」との理由で練習試合を了承してくれるなど、OBたちが積み上げてきた財産が今も生きている。

 
「神村学園や流経大柏は間違いなく日本でトップクラスのチーム。そうした選手たちとやれるのは一個の基準というか、目標になっている。冬休みには流経大柏だけでなく、千葉県の強豪といろいろやれて、まったく足りていないと思わされた。みんな足下の技術はあるけど、それを表現できるスタミナや身体の強さが足りない」。そう語るのは小森で、令和の強豪のスタンダードと言える強度を身に付けるため、週に1度のフィジカルトレーニングにも全力で取り組む姿が印象的だった。

「もう1回、国立の舞台で野洲の魅力を見せたい」(小森)と目を輝かせる子どもたちのためにも、人工芝の張り替えは不可欠で、プロジェクトの推移に期待したい。

取材・文●森田将義
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配信元: SOCCER DIGEST Web

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