
近年では演技派としても知られるようになり、ちょっと重めの人間ドラマやハードな犯罪モノにも積極的に出演するようになったジャッキー。だが今作は、「コメディとアクションを融合させた明るく楽しい映画」という自身の原点回帰的な作品となっており、いつも以上にジャッキー自らが観る者を楽しませようとする姿を見せている。そこで今回は、『パンダプラン』で見せるジャッキーのチャーミングな魅力についてチェックしていきたい。
■慈善活動家としての面が活きた『パンダプラン』

先にも書いた通り、『パンダプラン』のジャッキーが演じるのは、世界中で愛されるアクション俳優であるジャッキー・チェン本人。そのため、これまでのジャッキー作品のなかでも、かつてないレベルでプライベートな姿を垣間見ることができる。
まず注目したいのは、本作の成り立ち。ジャッキー自身は慈善活動家としても知られており、彼の自伝「永遠の少年」では、全財産の半分を慈善基金に寄付していると明かし、若者への奨学金や医療支援、災害救援などに力を注いでいる。なかでもジャッキーは動物保護活動にも力を入れており、実際に2匹のパンダの里親になるなど「無類のパンダ好き」であることを公言。パンダ保護の特使に任命されているほどであり、本作はそんなパンダ保護活動の一環として制作されている。コミカル演技や表情がおなじみのジャッキーだが、本作では大好きなパンダとの絡みもあるとあって、ほかの作品ではあまり見られない、かわいい動物にメロメロになる姿を見せている。
■本作でしか見ることができない!?“素”ジャッキー

ほかの作品にはないもう一つのポイントは、ジャッキーの日常が垣間見えるパートだ。物語の冒頭、パンダの里親となるための調印式に向けて、ジャッキーは動物園がある島へと向かう。大人気スターであるため、動物園では多くのファンに迎えられ、ファンサービスをしまくる。ご存知の通り、ジャッキーはサービス精神の塊であり、愛するファンの前ではいつでも“ジャッキー・チェン”なのだ。ただ一方で、サービスしていることにちょっと疲れた様子も覗かせている。
こうした、自分の内面を見せるという演技も、ジャッキーがジャッキー自身を演じなければ見ることができない、まさに“素顔のジャッキー”と言えるだろう。緊張感あふれるアクションとドラマの合間に見せるユーモアは、これまでの多くのジャッキー作品で見てきたが、70歳を過ぎて改めて見せてくれる素顔のジャッキーもまた魅力的だ。
■映画じゃないから強くない!だけどそれが魅力の本人役

そして、アクションに関してもひと味違う。過去の主演映画におけるジャッキーは、拳法の修行を重ねて強くなった青年や正義感あふれる刑事、危険に立ち向かうのに慣れている冒険家など、それなりに武術に精通している人物を演じてきた。しかし、本作で演じるのは、現在の自分自身。劇中ではパンダの赤ちゃんを奪うために動物園を占拠した傭兵軍団と戦うことになるわけだが、相手は本物の武器を持った戦闘のプロなのに対し、ジャッキーは数多くのアクション映画に出演してきたので格闘技はできるものの、本物の戦いを経てきた格闘のプロではない。つまり、『パンダプラン』におけるジャッキーは“いつも”のように強くないのだ。
しかし、世界的に有名なアクション俳優として傭兵軍団のメンバーたちには知られているため、“ものすごく強い人物”と誤解されている状態。ジャッキーのこの絶妙な位置づけが、コメディ要素を織り交ぜたアクションとしてほかの作品とは異なるおもしろさへと発展していく。

傭兵軍団のなかには、ジャッキー映画を全部観たという格闘好きの兵士や、単純にジャッキーの大ファンであるという憎めないコンビなどが登場。格闘好きの兵士からは、「強いならば勝負しろ」と迫られるが、映画の主人公のように正面切って戦って勝てる雰囲気はなし。とはいえ、攻撃されるとついアクション俳優としての反応で相手にダメージの残る回避や反撃をしてしまったりと、いらぬ行動でかえって追い詰められていく姿は、“強いジャッキー”では味わえないちょっとヘッポコな魅力だろう。相手はジャッキーの映画をすべて観ているため、周囲の物を使って反撃してくるのは予想済みだったりと、いつものテンポを掴めずに四苦八苦する感じは、アクションコメディとしてのおもしろさを盛り上げる。また、たとえ相手が敵であっても、ファンとして手を振られてしまうとファンサービスは忘れないという行動もジャッキーらしい。
■ジャッキー映画好きなら「あっ!」となるシーン

そんなに“強くない”ジャッキーが、パンダの飼育員と自身のマネージャー、動物園のスタッフと協力して赤ちゃんパンダを守るべく奮闘するのだが、傭兵軍団に追われて逃げ込んだ先が、ベルトコンベアや高いところに渡り廊下がある動物園の物資倉庫、走行中の車両の上など、ジャッキー映画好きなら「あ、見たことある!」というシチュエーションでパンダ争奪戦が展開。ジャッキーお得意のシチュエーションながら、武闘家的な気合いや強さを封印し、肝心の身体を張った動きをしても映画の撮影のようにはビシッと決まらない。右往左往しながら逃げ惑う姿が印象に残るジャッキーの等身大の姿には、ほかの映画とは違う愛着が生まれてくる。強さを取り除いたジャッキーには愛嬌が残るということが、物語の中盤くらいから感じられるのだ。

また、ジャッキー自身の実年齢と絡めた体力やスタミナ的な衰えなども隠さず見せてくれるので、それも好印象。物語の後半では、アクション映画に懸ける思い、そしてある言葉が自分を危険なスタントやアクションに向かわせるスイッチとなっていることが語られ、これまでジャッキー映画を楽しんできた人ならば老いてなお活躍する彼の心意気に触れられるところだ。それは、71歳になった現在のジャッキーが抱える素直な心境であり、彼の情熱や魅力の根底を感じられる本作の真骨頂ともいえるポイントだろう。
■いまのジャッキーだからこそ魅せられるありのままな姿

改めて、『パンダプラン』は現在のジャッキー・チェンが伝わってくる作品になっていることがわかる。世界トップクラスで有名なアクション俳優であることをはじめ、慈善家、かわいい動物好き、ファンを大切にする精神、年齢による衰えを隠さず見せる姿勢、でもまだまだアクション俳優を続けることへの矜持…こうした要素は、ジャッキーが等身大の自分を演じるからこそ見ることができるものなのだ。
パンダの赤ちゃんをめぐる物語であるという点からわかる通り、過激な描写や痛々しいシーンなどは存在しない、子どもにも優しい、家族みんなで安心して楽しめるアクションコメディであり、まさにジャッキー・チェン入門にはこれ以上ない仕上がりとなっている。こうした子どもにも楽しんでほしいという心遣いもジャッキーらしい。いつものジャッキー映画に比べると、構えず気楽に楽しめる一作であることは間違いない。ぜひ劇場でいまのジャッキーの魅力に触れてみてほしい。
文/石井誠
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