
ゾンビ映画では、「生きた屍」がよろよろと歩き回り、周囲を不気味な恐怖に巻き込みます。
そしてオーストラリアの森には「生きているが、ほとんど屍のような」“ゾンビ”のような樹木が立っています。
それが、クイーンズランド州の熱帯雨林で最近新種として特定され、Rhodamnia zombi(ロダムニア・ゾンビ)と名付けられた樹木です。
この木の実態を明らかにしたのは、クイーンズランド大学(University of Queensland)の研究チームで、彼らはこの種が発見された時点ですでに「絶滅が迫った状態」にあることを報告しました。
研究成果は、2025年12月11日付の『Austral Ecology』に掲載されています。
目次
- 病気により生きた屍のような木、「ゾンビ」と名付けられる
- 「ゾンビ」の木を救うことはできるのか?
病気により生きた屍のような木、「ゾンビ」と名付けられる
Rhodamnia zombi は、オーストラリア北東部・クイーンズランド州バーネット地域の熱帯雨林に生える小〜中型の樹木です。
濃い緑色の大きな葉を持ち、樹皮は少しごつごつしていて、本来は白くて毛のある花を咲かせます。
しかし、野生の個体では今、こうした花や果実がほとんど見られなくなっています。
そもそもこの木は、長いあいだ「きちんと名前の付いていない樹木」として扱われてきました。
2020年に絶滅リスクが初めて評価された時点では、まだ学名すら与えられていなかったのです。
その後、正式に新種として整理され、「Rhodamnia zombi 」という名前が付きました。画像はこちら(プレスリリース)。
しかしその間に状況はさらに悪化。
野外で確認されている木のうち約10%が枯死し、残った木も花や果実をほとんどつけなくなっています。
この異常な状態の原因が、「Myrtle Rust」と呼ばれる真菌(カビ)の病気です。
Myrtle Rust は、オーストラリアでは2010年に初めて確認された新しい病原体で、明るい黄色の粉のような病斑を作ります。
怖いのは、木全体を一気に枯らすのではなく、若い芽や新芽、花芽だけを何度も繰り返し攻撃するという点です。
「新しい芽が出る」→「Myrtle Rustに攻撃される」→「芽が枯れてしまう」
これが延々と繰り返されると、木は背を伸ばすこともできず、花も咲かせられません。
つまり、見た目には生きていても、子ども(次の世代)を残すチャンスが完全に断たれてしまうのです。
Rhodamnia zombi の野生個体はまさにその状態にあり、研究チームは「living dead(生ける屍)」という言葉でその状況を表現しました。
そこで、新しく付けられた学名には、そのままこの状態を映し出すように 「zombi(ゾンビ)」が含まれました。
ゾンビ映画のように突然よみがえったわけではなく、「生きているのに、もう先がない」という現実を示す名前です。
では、新種でありながら「生きる屍」状態のRhodamnia zombiは今後どうなっていくのでしょうか。
「ゾンビ」の木を救うことはできるのか?
Rhodamnia zombi は、特別感染に弱かったのでしょうか。
そうではありません。
研究チームは、Rhodamnia zombi と同じグループに属する他の樹木についても調査を行いました。
その結果、別の種である Rhodomyrtus psidioides では、野生に残っていた成熟した木の集団がほぼ崩壊してしまったことが確認されました。
さらに Rhodamnia rubescens では、少なくとも3つの集団のうち1つが著しく衰退しており、残り2つも新しい芽に Myrtle Rust の症状が出ている状態だと報告されています。
このことは、Myrtle Rust が「Rhodamnia zombi だけを狙っている病気」ではないことを意味します。
同じ系統に属する複数の亜熱帯雨林の樹種が、そろって新しい芽を出せなくなり、世代交代そのものが止められつつあるのです。
研究者らは、「同様に深刻な影響を受けている樹木が17種あり、何の対策も取らなければ、それらが1世代のあいだに絶滅してしまうおそれがある」と警告しています。
では、このまま完全消滅してしまうことは避けられないのでしょうか。
現在分かっている範囲では、Rhodamnia zombi の野生集団の中に、はっきりと Myrtle Rust に強い個体や、まったく感染していない個体群は見つかっていません。
そのため、自然に任せて「たまたま強い木だけが生き残る」という展開は無いように思えます。
それでも、研究者たちは「希望はある」と述べています。
その根拠は、Rhodamnia zombi を含む Rhodamnia 属全体の遺伝子の広がりにあります。
同じ属や近い仲間の植物の中には、Myrtle Rust にある程度耐えられる個体が見つかっており、このグループの植物が遺伝的にまったく対抗手段を持っていないわけではないことが示されているのです。
そこで論文では、Rhodamnia zombi を含む、絶滅の危機にある樹木を救うための「再生戦略」が提案されています。
その中心となるのは、野生で感染する前の枝を確保して安全な場所で育て、次の世代の中から Myrtle Rust に強い個体を選び出すことです。
最終的には、そうして得られた耐性のある系統を、再び森に戻すことが目標とされています。
すでにオーストラリアでは、クイーンズランド州やニューサウスウェールズ州の施設で Rhodamnia zombi の挿し木や苗が育てられており、サンシャインコースト内陸部のナーサリーなどでも、Myrtle Rust に気を配りながら栽培が続けられています。
研究者自身も「うまくいくかどうかは分からない野心的な作戦だ」と認めていますが、何もしなければ「生きた屍」のまま終わってしまうこともはっきりしています。
新たに「ゾンビ」と名付けられたこの木が、「ゾンビ」から脱するのか、それとも消滅してしまうのか、今後が気になるところです。
参考文献
Desperate race to resurrect newly-named zombie tree
https://news.uq.edu.au/2026-01-desperate-race-resurrect-newly-named-zombie-tree
元論文
Myrtle Rust Continues to Blight Subtropical Rainforest Trees: Strategies for Resurrecting the Living Dead
https://doi.org/10.1111/aec.70155
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

