最新エンタメ情報が満載! Merkystyle マーキースタイル
臓器提供の同意率アップからトイレを綺麗にする効果まで…池上彰が解説する「社会を変えるナッジ理論」

臓器提供の同意率アップからトイレを綺麗にする効果まで…池上彰が解説する「社会を変えるナッジ理論」

日常にひそんでいる多くのナッジとは? トイレの便器からレジ前の床の矢印まで

ナッジといえば、有名なものにアムステルダムのスキポール空港の男性トイレがあります。ここの小便器には小さなハエの絵が描かれています。

こうすると利用者はおのずとそのハエめがけて用を足すようになるため、トイレが汚れず、掃除の手間が省ける。この男性の奇妙な習性を活かしたアイデアによって、年間清掃費は8割も減ったそうです。「トイレは清潔に」などと貼り紙を出すよりも、はるかに効果的でしょう。

また、お店のレジ前の床に、順にお並びくださいという呼びかけを示す足跡のステッカーを見かけることがあります。これもナッジです。

新型コロナウイルスの感染が広まってからは、対策のためのさまざまなナッジが見られるようになりました。銀行のロビーなどでは、ソーシャルディスタンスを確保するために、三人掛けソファの中央にマスコットのぬいぐるみを置いている例が見られました。

そのほか、公共施設でもアルコール消毒液の設置場所を矢印マークで表示したり、非接触式検温カメラの手前に足跡のステッカーを貼ったりするなど、新型コロナウイルスという厄災は、私たちの日常空間にナッジ活用を一気に広めることになりました。

「運動を続けたら生命保険料が安くなります」

運動などで健康増進に努めたり、検診で問題なければ保険料が安くなったりする健康増進型保険が登場しています。

住友生命が同保険の加入時に健康数値の悪かった人を対象に、その後の状態を調べたところ、かなり改善されていることが判明しました。

数値が大幅に改善した人の割合は、血圧が44%、血糖値が31%、LDLコレステロールが39%。これを裏づけるように、加入者の1日あたりの歩数は、加入1年目と比べて1割近く増えていることもわかっています。

「健康のために運動しましょう」とただ呼びかけられても、人はなかなか動きません。ところが「運動を続けたら生命保険料が安くなります」「還付金としてこれだけ戻ってきます」と現実的なメリットを提示されたら、人はせっせと健康増進に努めるようになる。

逆に健康状態が悪くなれば、保険料が上がる可能性もあるのが健康増進型保険です。

そっとヒジでつつくというよりは、馬の鼻先にニンジンをつるすような手法です。これは「損をしたくない」という私たちの損失回避性の心理を突いた保険ともいえます。動きたがらない人間を動かすには、ごく現実的な利得とセットにするのもひとつの方法です。

提供元

プロフィール画像

集英社オンライン

雑誌、漫画、書籍など数多くのエンタテインメントを生み出してきた集英社が、これまでに培った知的・人的アセットをフル活用して送るウェブニュースメディア。暮らしや心を豊かにする読みものや知的探求心に応えるアカデミックなコラムから、集英社の大ヒット作の舞台裏や最新ニュースなど、バラエティ豊かな記事を配信。

あなたにおすすめ