
生まれたときからスマートフォンやタブレット端末が身近にある「デジタルネイティブ」の子どもたちには、私たち大人には想像しにくい変化が起きているようです。
英国で実施された大規模な調査によると、4~5歳で入学する子どもの約3割が、紙の本を正しく扱えず、ページをめくる代わりにスワイプやタップをしてしまうことが明らかになりました。
この結果を報告したのは、英国の慈善団体Kindred Squaredが調査会社Savantaと共同で実施した「School Readiness Survey 2025」です。
この調査は2026年1月に報告書として公表(PDF)されました。
目次
- 英国の子供の37%が義務教育を始める準備が整っていない。本をスワイプする子も
- なぜ子どもたちは「義務教育を受ける準備ができていない」のか
英国の子供の37%が義務教育を始める準備が整っていない。本をスワイプする子も
今回の調査が焦点を当てたのは、子どもたちの学力そのものではありません。
調査の中心概念となっているのは「スクール・レディネス」、すなわち学校生活に参加できる準備が整っているかどうかという点です。
単に読み書きや計算ができるかだけのことではなく、集団での学習や生活に参加するための基礎的な発達状態のことだと考えるとよいでしょう。
具体的には、トイレを自力で使えることや、一定時間座っていられること、自分の気持ちや要求を言葉で伝えられること、親と離れても極端に動揺しないこと、そして本を正しく扱えることなどが含まれます。
調査は、2025年に英国でReceptionと呼ばれる学年(義務教育が始まる前の準備段階。”小学0年生”のような学年。4~5歳)に入学した子どもの保護者約1000人と、小学校の教員や補助教員、管理職など教育関係者約1000人を対象に行われました。
親と教員の双方に同じテーマで質問することで、家庭側の認識と教室で起きている実態を比較できる設計になっています。
その結果、教員の評価では、2025年に入学した子どもの37%が、学校生活にスムーズに参加できる準備がまだ整っていないと判断されました。
この割合は前年よりも増加しており、状況が悪化していることを示しています。
特に教員が困難を感じているのは、学習以前の生活スキルです。
教員の報告によると、26%の子どもがトイレトレーニングを終えておらず、44%は授業中に一定時間座っていられず、32%は親と離れると強く動揺し、25%は基本的な言語能力に課題を抱えていました。
さらに28%の子どもが本を正しく扱えないと報告されています。
たとえば、その子どもたちには、本のページをめくるのではなく、スマートフォンのようにスワイプやタップをする行動が見られました。
またある親は、次のように語っています。
「うちの娘はテレビを横にスワイプするんです。私は『ダメよ、そんな風にはならないわ』って言います」
こうした影響により、教員は1日に平均2.4時間もの授業時間を、子どもたちの追いつき支援に費やしていることも分かりました。
しかもその半分以上の時間がトイレ対応に使われているとされています。
なぜ、このような結果になったのでしょうか。
なぜ子どもたちは「義務教育を受ける準備ができていない」のか
調査は原因を1つに限定せず、複数の社会的要因が重なっていると指摘しています。
最も多く挙げられた要因は、生活費の高騰です。
親の49%、教員の44%が、生活費の上昇によって子育てに割ける時間や余裕が減ったと回答しています。
長時間労働を余儀なくされる中で、読み聞かせやトイレトレーニングといった日常的な関わりが後回しになりやすい状況が浮かび上がります。
もう1つの大きな要因が、保育施設へのアクセス格差です。
教員たちは「保育施設に通っていた子どもと、そうでない子どもとでは、スクール・レディネスの状態に大きな差がある」と証言しています。
しかし費用の問題や、COVID-19以降の支援縮小により、保育が誰もが利用できるものではなくなりつつあります。
そして、本をスマホのように扱う子どもたちの例は、時代の変化を大きく反映したものです。
重要なのは、この調査がデジタル機器そのものを否定しているわけではないという点です。
問題視されているのは、紙の本が持つ特徴を十分に経験していないことです。
紙の本には、ページは順番に進むことや、途中を飛ばせないこと、待つ時間があることといった特性があります。
これらは注意力や忍耐、文脈を追う力の基礎になります。
一方で、スワイプやタップに慣れた環境では、情報は瞬時に切り替わり、待つ必要がありません。
子どもを教える時間が減少するにつれて、「本という媒体のルールそのものを学ぶ機会も減っている」のです。
そして、こうした結果が明らかになった一方で、親の88%は自分の子どもは学校に行く準備ができていると考えています。
多くの親は学力を思い浮かべ、文字が書けなくてもそのうち学校で覚えると考える傾向があります。
調査には、トイレや情緒面は子どものペースでよいと考えている親や、学校が教えてくれるものだと思っていたという声も含まれています。
しかし教員側は、学習以前の土台が整っていないこと自体が、クラス全体の教育を遅らせていると感じています。
この親と教員の認識のズレも、問題を見えにくくしている要因だといえるでしょう。
この調査が示しているのは、子どもたちの能力が低下しているという話ではありません。
学校教育が前提としてきた家庭での準備が、社会構造の変化によってうまく機能しにくくなっているという現実です。
本をスワイプする子どもたちの姿は、その変化を象徴するものなのかもしれません。
参考文献
A Third of Kids Can’t Use Books When Starting School. They “Swipe Them Like Smartphones”
https://www.zmescience.com/science/uk-school-readiness-recession-2025/
元論文
School Readiness Survey 2025(PDF)
https://kindredsquared.org.uk/wp-content/uploads/2026/01/School-Readiness-Survey-January-2026-Kindred-Squared.pdf
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

