
「自分はいつも被害者だ」と感じやすい人は、単に不運な経験が多いだけなのでしょうか。
それとも、その背後には特定の性格傾向が潜んでいるのでしょうか。
カナダ・レイクヘッド大学(Lakehead University)の最新研究によって、強い被害者意識を持つ人ほど、ナルシシズム的傾向も強いことが明らかになりました。
特に関係が深かったのは、誇大的で自信過剰なタイプではなく、内面が不安定で傷つきやすい「脆弱型ナルシシズム」でした。
この結果は、「被害者意識」が単なる経験の結果ではなく、人格構造と深く結びついている可能性を示しています。
研究の詳細は2025年12月3日付で学術誌『Personality and Individual Differences』に掲載されました。
目次
- 常に「自分は被害者」と感じる性格特性があった
- 「被害アピール」の動機はナルシシズムのタイプで違っていた
常に「自分は被害者」と感じる性格特性があった
研究チームが注目したのは、「人間関係における被害者傾向」と呼ばれる性格特性です。
これは、特定の出来事に限らず、さまざまな人間関係や状況において一貫して「自分は被害を受けている」と感じ続ける傾向を指します。
この特性には主に4つの要素があります。
・自分の苦しみを周囲に認めてもらいたい欲求
・道徳的に自分は優れている感覚
・他者への共感の乏しさ
・過去の被害体験を何度も思い返す反すう傾向
です。
研究では、カナダ在住の成人400人を対象に、これらの傾向とナルシシズムとの関係が調べられました。
ナルシシズムには、大きく分けて2種類があります。
自信が強く支配欲のある「誇大型ナルシシズム」と、自己評価が低く批判に敏感な「脆弱型ナルシシズム」です。
分析の結果、被害者意識の強さは、誇大型よりも脆弱型ナルシシズムと強く結びついていることが分かりました。
また、両者は共通して「神経症傾向」、つまり不安や情緒不安定さとも深く関連していました。
このことから研究者は、被害者意識の背景には、自己の脆さや否定的感情をうまく調整できない心理状態があると考えています。
「被害アピール」の動機はナルシシズムのタイプで違っていた
研究ではさらに、「被害者シグナリング」と呼ばれる行動にも注目しました。
これは自分の苦しさや不遇さを公に示し、周囲からの承認や支援を得ようとする行動です。
結果は興味深いものでした。
被害者シグナリングは、誇大型・脆弱型の両方のナルシシズムと関係していましたが、その心理的な経路は異なっていたのです。
脆弱型ナルシシズムが強い人の場合、まず「自分は被害者だ」という意識が強まり、その結果として被害を訴える行動に至っていました。
つまり、内面的な傷つきや過敏さが、被害者意識を通じて表に現れていたのです。
一方、誇大型ナルシシズムが強い人では、被害者シグナリングは被害者意識を介さず、直接的に現れていました。
こちらは、実際の傷つきというよりも、注目を集めたい、自己を誇示したいという動機によって引き起こされている可能性が高いと考えられます。
性格特性全体との関係を見ると、被害者意識と被害者シグナリングの双方に共通していたのは神経症傾向でした。
加えて、被害者シグナリングを行いやすい人は、外向性と開放性が高く、協調性が低い傾向も示していました。
これは、自己開示には積極的ですが、他者への配慮よりも自分の利益を優先しやすい人物像を示しています。
被害者意識は「経験」ではなく「心の持ち方」だった
今回の研究は、「被害者意識が強い人=実際に多くの被害を受けてきた人」とは限らないことを示しています。
むしろ、被害者意識は特定の人格傾向や感情調整の難しさと結びついた心の持ち方であり、誰にでも生じうるものです。
研究者たちは、この知見が実際の被害者や社会的に弱い立場の人々を否定するために使われるべきではないと強く警告しています。
一方で、常に被害者の立場を取り続ける人が、対人関係においてトラブルを生みやすい可能性があることも示唆されています。
もし身近な人、あるいは自分自身に強い被害者意識が見られる場合、それは性格の問題ではなく、心理的なケアが必要なサインかもしれません。
「自分はいつも被害者だ」という感覚の裏側には、傷つきやすさと不安定さが隠れている可能性があるのです。
参考文献
The tendency to feel like a perpetual victim is strongly tied to vulnerable narcissism
https://www.psypost.org/the-tendency-to-feel-like-a-perpetual-victim-is-strongly-tied-to-vulnerable-narcissism/
元論文
Linking the Tendency for Interpersonal Victimhood, victim signaling, and narcissism: The need to be seen as a victim
https://doi.org/10.1016/j.paid.2025.113597
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

