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東京国立博物館のクラファンが、ひとりのVTuberの声で大きく動いた――。VTuber「儒烏風亭らでん」が与える、美術界への影響力 <連載:あのVTuberに花束を>

東京国立博物館のクラファンが、ひとりのVTuberの声で大きく動いた――。VTuber「儒烏風亭らでん」が与える、美術界への影響力 <連載:あのVTuberに花束を>

ネタ枠から知を伝えるポジションへ

 ホロライブReGLOSSで活動している儒烏風亭らでんは、美術の専門家として活動しているわけではありません。基本的にはエンターテインメント配信者であり、ReGLOSSというユニットで歌とダンスを披露するアイドルでもあります。初期は自身を「ネタ枠」だと称し、酒・タバコ・パチスロ好きな破天荒なキャラでした(なお今はパチスロ、タバコは控えているとのこと)。SNSで2024年に大バズリを見せた「まいたけダンス」で彼女を知った人もいるかもしれません。

 美術館通いが趣味で学芸員の資格も持っていた彼女は、しばしば芸術談義を行うようになり、そのガチ度合いが一気に露呈しはじめます。酒好き酔いどれ面白お姉さんでありつつ、芸術に対して博識な彼女。美術・工芸・伝統芸能などの面白さを多くの人に知ってもらいたいと発信し続けてきたその活動スタイルに、多くの人が魅了されどんどんファン(通称・でん同士)が増えていきました。

 また落語家見習いでもある彼女は、絵画や彫刻などについて、わかりやすく、かつ興味を引く解説を、さらりとトークに入れています。彼女の美術解説は、特に初心者が新しい発見をして視野を広めるような巧みさがあるのが特徴。絵画の技法や美術にまつわる歴史などを絡めて語る彼女のトークを聞くと、作品を見る時の解像度がはねあがり、「知ること」の面白さに気付かされます。

 それでいて自身はとても謙虚。美術・工芸に携わる人たちを強くリスペクトし、自身も教えられ、学ぶ側であるという姿勢を保っています。彼女は全国の色々な場所に自らおもむいて取材をしており、技術の素晴らしさを体験し、動画でアップしています。聞き手として専門家に話を伺う姿勢と、それをリスナーに伝えるトーク力に関しては、彼女はプロフェッショナルです。

 また、サイエンスコミュニケーターの北白川かかぽや古代日本史に詳しいきら子、古典文学に長けた栞葉るり、民俗学に通じている諸星めぐるなど、他のジャンルで活躍する学術系VTuberとも親しく、積極的にコラボをしているのも彼女の活動の特徴のひとつです。

 多様な専門知識を持つVTuberが集まって話をすると、視点が多角的になります。そのため、ひとつの芸術作品を見る際でも、美術の技法の知識、作品にまつわる歴史や人々のあり方、科学的な分析など会話の切り口がどんどん広がっていきます。彼女たちは他ジャンルの学問への興味も刺激してくれる、さまざまな学術系VTuberの橋渡し的な役回りとしても、VTuberファンの「学び」への興味を活性化する存在のひとりになっています。

 儒烏風亭らでんは元々、「型破り」のような意味合いで「破天荒」と自称していたのかもしれませんが、「破天荒」の本来の意味は「今まで人がなし得なかったことを初めて行うこと」です。彼女がVTuberとしてガンガン美術・芸術の領域の面白さを幅広く拡散している現状こそ、まさに「破天荒」の語にぴったりです。

儒烏風亭らでん、美術界隈への多大な影響力

 彼女のインフルエンサーとしての影響力の大きさは、美術界からも注目されています。

 儒烏風亭らでんは、2026年1月20日から3月15日まで、静岡県立美術館の音声ガイドを担当することを発表しています。期間中に開催されている「ロダン館」「ロダン館 ナイトミュージアム」「中村宏展 アナクロニズム(時代錯誤)のその先へ」「2000年代の絵画 ~静岡ゆかりの作家による」の4つの展示イベントが対象で、来館した際にQRコードを読み取れば無料で視聴できます。

 今までも箱根ガラスの森美術館で、2025年7月18日から2026年1月12日まで、音声ガイドを担当していました。ちなみに、彼女は美術館関係者側からもとても愛されているようで、「箱根ガラスの森美術館」と「静岡県立美術館」の公式アカウントの人が配信をリアタイして、コメントを書き込んでいることもあるほどです。

 他にも彼女は、サントリー美術館「エミール・ガレ」展の潜入レポートや台南市美術館のPRを行ったり、雑誌『美術手帖』に寄稿したりするなど、美術方面の仕事でも活躍の幅を広げています。

 儒烏風亭らでんは配信の際、スーパーチャット(投げ銭機能)を普段オフにする旨を、Xで語っていたことがあります。「そのお金で美術館行ってほしいなあ的な理由です!」と言う発言をきっかけに、実際に色々な美術館に足を運び始めたファンは少なくないようです。公式ハッシュタグ「#行ったよらでんちゃん」「#観たよらでんちゃん」でXを検索すると、彼女の影響で美術館や展覧会などを巡るようになったファンの声を実際に見ることが出来ます。

 2024年2月の「anan」のインタビューで「嬉しかったリスナーの反応を教えてください」という質問に対し、彼女は「実際に寄席に足を運んだり、美術館に行ったり…そんな報告をしてくれるのが一番嬉しいです」と語っていたこともありました。今後の目標として「より多くの方に『知らなかった面白いこと』を届けることです! 新しいことを知るとちょっとだけ世界が楽しくなる、そんな気持ちになる人が増えたらいいなと思います」と語る彼女は、幅広い層に向けての「知」の入り口になっています。

 彼女は美術館へ行くハードルを下げてくれる配信をしたり、楽しく美術知識を学ぶオリジナル曲をアップしたりと、知識ゼロの初心者でも興味を持てるよう色々な工夫をし続け、美術への門戸を広げています。

 彼女は初心者に向けて、美術館巡りに行きやすくなるよう背中を押す気持ちをこめて「何も知らないってそれだけで宝よ??」と語ったことがあります。「極力何も調べずに行って、新鮮な気持ちで絵画を見るのが良いかなぁと思います」「初見で楽しむ気持ちっていうのを大切にしてあげてください」という彼女の言葉に励まされ、美術館デビューした人のコメントが数多く見られます。

 配信で語られる美術知識の話自体も面白いのですが、何より彼女自身が美術・工芸作品や落語などの伝統芸能に触れた時、とても楽しそうにその感動を言語化し、みんなに見て欲しいと語り伝えてくれるのが印象に残ります。語る言葉は知的でありつつも、作品が与えてくれる感動に向き合う姿勢は極めてピュアです。そんな本人が持つ人間的な魅力こそが、彼女が美術に人の興味を導く道筋を作るのに成功した理由であるように思えてなりません。

配信元: ねとらぼ

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