
同じ職場なのに、なぜか業務が前に進みにくい。協力が減り、摩擦が増え、成果が伸びない。
そんな停滞の背景には、制度やスキルだけでなく「個人の心理特性」が関わっている可能性があります。
独ユストゥス・リービッヒ大学ギーセン(JLUG)は、サイコパシー特性と職場行動の関係を、既存研究を統合するメタ分析で検証しました。
対象は166の独立サンプル、合計約4万9350人分という大規模データです。
そこで示されたのは、サイコパシー特性が高いほど、仕事の生産性や職場への貢献行動が下がりやすく、逆に組織に害を及ぼす行動が増えやすいという一貫した関連でした。
研究の詳細は2025年の学術誌『Journal of Applied Psychology』に掲載されています。
目次
- タスクの成果と「職場を支える行動」が同時に下がる
- 影響の中心は「二次性サイコパシー」によって説明されやすい
タスクの成果と「職場を支える行動」が同時に下がる
この研究が注目したのは、職場でとくに重要な3つの行動です。
1つ目は、担当業務をきちんとこなす「タスクパフォーマンス(課題遂行)」です。
2つ目は、正式な職務要件を超えて職場を支える「組織行動」です。
例えば、同僚を助ける、情報を共有する、自発的に追加の作業を引き受けるといった行動が含まれます。
3つ目は、意図的に組織の利益やメンバーの福祉を損なう「反生産的職務行動」です。長すぎる休憩、妨害、いじめなどが代表例として挙げられます。
メタ分析の結果、サイコパシー特性が高いほど、タスクパフォーマンスと組織行動が低くなる傾向が確認されました。
一方で、反生産的職務行動は高くなる傾向が示されました。
言い換えると、仕事を前へ進める行動が弱まりやすい方向と、職場を消耗させる行動が強まりやすい方向が、同時に現れやすいということです。
ここで誤解しやすい点もあります。
サイコパシーという語は強い印象を伴いますが、本研究が扱うのは「特性」としてのサイコパシーであり、犯罪者像を前提にした議論ではありません。
職場における行動との関連を、統計的にまとめて確認した点に、この研究の主眼があります。
影響の中心は「二次性サイコパシー」によって説明されやすい
サイコパシー特性は一般に「一次性」と「二次性」に分けられます。
一次性は、情動の冷淡さ、不安の低さ、恐れの少なさ、対人支配性などと結びつきやすい特徴です。
二次性は、衝動性、情動の不安定さ、敵意、高いネガティブ感情などと関連しやすい特徴です。
今回のメタ分析では、観察された職場行動との関連の多くが、二次性サイコパシー特性によって主に説明される傾向が示されました。
つまり、職場で見られる望ましくない行動との関連は、一次性よりも二次性の側面と結びつきやすい可能性があります。
ただし一次性が無関係だと断定できるわけではなく、全体としてはサイコパシー特性が職場関連行動に概して不利に働く傾向が確認された、という位置づけです。
さらにチームは、関連の強さが一様ではない可能性にも触れています。
調整分析では、年齢、組織在籍年数、階層的地位が、サイコパシー特性と職場行動の関連に関わる要因として示されました。
特性が職場でどのように表れやすいかは、個人の置かれた状況やキャリア段階によっても変動し得る、という示唆です。
生産性を守るには?
この研究が示したのは、サイコパシー特性が高いほど、タスクパフォーマンスや組織行動が低く、反生産的職務行動が高いという、一貫した関連です。
とくに二次性サイコパシー特性が、その関連をより強く説明する傾向が示されました。
職場の生産性を考えるとき、能力や制度設計だけでなく、こうした心理特性と職場行動の関係にも目を向ける必要があるのかもしれません。
ただし、重要な注意点があります。
チームも述べている通り、このメタ分析が示すのは「関連」であり、因果関係や背後のプロセスを直接特定したものではありません。
互恵性の知覚や信頼、コミットメントといった社会的交換過程が、どのように観察された関連を生み出しているのかは、今後の検討課題として残ります。
だからこそ次の一歩は、心理特性をレッテルとして使うことではなく、職場の関係性と行動の連鎖をより具体的に解きほぐしていく方向に向かうはずです。
参考文献
Researchers confirm the detrimental effects of psychopathic traits on job performance
https://www.psypost.org/researchers-confirm-the-detrimental-effects-of-psychopathic-traits-on-job-performance/
元論文
The enemy within one’s own ranks: Meta-analysis on the effects of psychopathy on workplace-related behavior.
https://doi.org/10.1037/apl0001248
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

