国際経営大学院を卒業してから仏教を学びにインドへ
――企業勤務や大学院での学びを通してキャリアの切り口は明確になったのですね。それなのに卒業後いきなりインドへ仏教修行に行ったのはなぜですか?
キャリアの切り口は明確になったのですが、卒業後にまたフルタイムで勤めたいと思える組織が見つからなかったんです。確かにコンサルタントも会計監査も給料などの条件はすごくよいのですが、それでまたフルタイムで働き始めて果たして自分にとって価値のある時間の使い方ができるのだろうか?という疑問を感じたんです。
会計監査や大学院では、結果も出せてキラキラに見える一方で、中身は幸せでないことも多かったんです。英語一つで5歳児扱いされて自己肯定感をズタズタにされる場面もあったりで、鬱になったこともあったんですね。しかし、一方で収入や社会的地位ということへの執着や今まで頑張って得たものを果たして手放せるのか?と思ったのです。それでインドのお寺に入って質素な生活を経験してやっていけるかを試そうと思いました。
――なぜそこで仏教だったのですか?また、実際にインドとチベットまで行かれてどうでしたか?
それまで、「安心する、自分の居場所を確保する」ために「強く生きていかねば」という姿勢でいて、自分でも強いと思いこんでいたのですが、実はセンシティブでずっと常に周りからどう思われているかばかりを気にしていたんですね。新社会人時代にはそんな気持ちをどうにかしたいと相談しようにも、社内で信頼できる相手がいなかった。日本でも身近な大人は町を出たこともないという閉鎖的な考え方の人ばかりのなかで、唯一NYで相談できたのがお寺のお坊さんだったのです。たまたま週末の座禅会に一度参加して、そこからお坊さんに話を聞いてもらうようになりました。

静かに自分の向き合ったチベット寺院のゴンパ
仏教は、宗教ではなくて東洋の心理学だと思います。それまで、私は肩書や属する組織など周りから認めてもらうための道具集めに終始していたのですね。特に訪れたインドとチベット亡命政府のお寺で学んだ仏教は、それは意味がないよというのをロジックで答えてくれたのです。
お寺での生活は私語が一切禁止で、電子デバイスもすべて金庫に預けて触れない生活です。早朝に瞑想、午前中に禅問答を介して講義、午後に少し講義を続けた後、午後~夕方にかけて学んだ内容を瞑想で実践する、の繰り返しでした。
ただ、だまって自分で考えよというのではなく、問答や講義にはきちんと論理的な答えがあって「道具を集めないと生きていけないと思っていたけれど、結局は中身がなければ価値がない」というのが腑に落ちました。自分の中に実は価値が積もっていることを認識したら、身につけようとしていた道具の鎧は落とせるようになりました。
一本の柱ではなくいろんな柱を持って生きていく
――今まで獲得したものを手放せるか試すために行かれたのですが、逆に仏教から得たものが大きかったですね。今後やりたいことは?
フルタイムで勤めるのではなく、所属するところを複数維持しながら自分の人生をデザインしていきたいと思っています。
まず、以前の私のように生きづらさを感じている人の居場所と仕事を作りたいと思っていて、そのために事業を始めたいと思っています。安心できる居場所となるには仕事が必要だと思うので。
以前、NYで住む場所を見つけるのに苦労したことから、発想を変えて自分が大家さんになって低所得の移民や留学生の人に貸し出すというアパート経営をしていました。その第2弾も考えています。
また、教員職に戻ろうかなとも考えていて、まちづくりについての研究が盛んなポートランド州立大学の職員に応募しようと思っています。以前の私のように周りにサンプルが少ないがゆえに視野が狭くなってしまっている大学生を連れ出せる職員になれればいいなと。社会課題をビジネスで解決することに取り組む「ボーダレス・ジャパン」の「ボーダレスアカデミー」にも社会起業家として参画する予定です。
――一つの組織に自分を当てはめるのではなく、いろんなところに居場所を持つというのはいいですね。そのためにどんなことを心がけておられますか?
家を建てることとよく比較するのですが、柱が一本だけだとその柱が折れれば終わりですが、柱が多ければ多いほどしっかりと支えられますよね。何かしらうまくいかないことは常に起こるので、柱が多ければそんなリスクも分散できます。
これまでの経験に基づいてこうした生き方のデザインを考えていますが、ちゃんと収益の得られるビジネスになるかという点はドライに考えていて、ニーズとマーケットについては厳しく見た上で取り組んでいます。
そして、取り組む先を見つけるには、フットワーク軽く面白いと思ったらすぐ動くことを意識しています。興味のあるイベントはすぐカレンダーに書き込んで、一人でどんどん参加します。
今まで引っ越しが多かったので、街になじんでいくための自分なりのルーティンができました。それは友達をつくったり取り組むことを見つけたりといったことにも当てはまりますが、まずは「自分の興味分野を把握すること」そして「それに関連して活動する団体を探す」、「団体が見つかったらインスタグラムやニュースレターなどをフォローする」そして「実際に団体のイベントに行く」というルーティンです。
そこで、みんなと話すとなると内向的な私は疲れてしまうので、「少なくとも2人の人と話す」というのを心がけています。そうしていると「これも面白いよ」というそれが次に繋がっていきます。月にこうしたイベントを10個行くのが目標です。また、素敵だな面白そうだなと思う人たちと週に3回は、コーヒーにお誘いするように心がけています。
そして、自分が何に興味があって何をしていきたいかを「しゃべる」ということが大事なんだと実感しています。そこで合わなければご縁がなかったと思えばよいので。「興味のあることを話す」ことでこれからも機会を広げて行こうと思います。
