
なんてことないマレーシアの町の側溝から”お宝”が発見されました。
鹿児島大学の研究チームはマレーシア・トレンガヌ大学との共同調査で、宿泊地の目の前にあったごく小さな水路で、これまで知られていなかった新種のハゼを発見したのです。
見過ごされがちな人工環境が、生物多様性の宝庫になり得ることを示す研究です。
研究の詳細は2025年12月17日付で科学雑誌『Taxonomy』に掲載されています。
目次
- 町のドブで見つかった「違和感のあるハゼ」
- 新種と判明した決め手と生息地の謎
町のドブで見つかった「違和感のあるハゼ」
今回の研究は共同調査の一環として、2025年7月にトレンガヌ州で実施されました。
新種が採集されたのは、調査チームの宿泊地に面した幅約60センチ、水深わずか5センチほどの人工的な溝でした。
夜間調査中に捕獲されたハゼは、当初は既知種であるカブキハゼ属(学名:Eugnathogobius kabilia)の雄と考えられていました。

しかし、標本作成の過程で形態を詳しく確認したところ、背びれの形や顎の大きさなどに既存種とは合わない特徴が見つかりました。
そこで急きょ追加調査が行われ、雄・雌・幼魚を含む計5個体が採集されました。
これらの標本を詳細に比較した結果、同属のどの種とも一致しないことが明らかになり、新種として記載されることになりました。
新種と判明した決め手と生息地の謎
新たに記載された種は「ユーグナソゴビウス・ガヌエンシス(Eugnathogobius ganuensis)」と命名されました。
種小名の「ganuensis」は、採集地であるトレンガヌ地域のローカルな呼称「ganu」に由来します。
このハゼは、頭部に感覚管を持たないことや体側の縞模様など、外見が既知のE. kabilia によく似ています。
しかし、雌雄ともに第1背びれが高く、特に雄では鰭条(きじょう、ひれのすじ)がよく伸びる点、雄の上顎が極端に大きくならない点、喉部や第2背びれが黄色味を帯びる点など、複数の安定した特徴によって明確に区別できることが示されました。
興味深いのは生息環境です。
採集地点は明らかに人工的な水路で、調査時の塩分は0‰でした。
一方で、この水路はトレンガヌ川とつながっており、潮汐の影響も受ける場所です。
研究チームは、この側溝は本来の生息地ではなく、河川感潮域上部の低塩分環境に本来の分布域がある可能性を指摘しています。
見過ごされた環境に、まだ未知の魚がいる
この研究は、新種発見が必ずしもジャングルや深海のような秘境に限られた話ではないことを示しています。
町の側溝のようなありふれた人工環境にも、まだ名前のついていない生物がひそんでいる可能性があるのです。
身近な環境を丁寧に調べることが、生物多様性の理解を大きく広げる。そんな研究者の視点を、この「ドブからお宝」の発見は教えてくれます。
参考文献
【博物館・連合農学研究科】町のドブからお宝発見。マレーシアから新種のハゼ。
https://www.kagoshima-u.ac.jp/topics/2026/01/post-2403.html
元論文
A New Species of Eugnathogobius (Gobiidae) from Peninsular Malaysia
https://doi.org/10.3390/taxonomy5040071
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

