相手のストロークがわずかにサイドラインを割ると、電子音声の「アウト!」に続き、主審が試合終了を告げる。
柴原瑛菜はその場で頭を抱え、パートナーはバイザーを外すと、柴原の下に歩み寄り抱擁を交わした。
試合時間は、2時間50分。時計の針は、日付を超えて1時13分を指している。
「ずっとストレスを感じていたから、すごくリリーフ(安心)して。ずっとすごくストレスを感じながら試合していたので、本当にホッとしました」
試合コートから真っすぐ向かった会見で、柴原はストレッチをしながら、試合終了の瞬間を振り返る。
スコアは、6-4、6-7(3)、7-5。地元オーストラリアのキンバリー・ビレル/ タリア・ギブソンを退けて、柴原/ベラ・ズボナレワ(ロシア)組みが、全豪オープンベスト4への重い扉をこじ開けた。
柴原の名の横に「Zvonareva」の名を見た時、長いテニスファンなら、「あのズボナレワ?」と驚いたのではないだろうか?
元シングルス世界2位にして、ダブルスでは3度のグランドスラム優勝者。度重なるケガや出産からも復帰してきた、現在41歳の不屈のファイターでもある。
そんな彼女も2年前、肩に2度目のメスを入れ、表舞台から姿を消した。柴原も、周囲の選手たちと「もう引退しちゃったのかな」と話していたという。
そのズボナレワが、ドバイ開催のツアー下部大会で復帰を果たしたのが、昨年12月。さらに大会直後、柴原はズボナレワから「パートナーが決まっていないなら、全豪オープンで組まないか?」と連絡を受けた。柴原にとってもズボナレワは、「子どもの頃から見ていたレジェンド」。かくして27歳と41歳の二人は、今季開幕戦のキャンベラWTA125大会で初めてペア結成。ここで準優勝し、試合経験と手応えを得て、今大会を迎えていた。
柴原とズボナレワが、互いに認めるプレースタイルは、「オールラウンダー」。使えるツールが豊富なため、状況に応じて戦術を変更できるのが強みだ。さらに二人が声を揃えるのが、「コミュニケーションがうまく取れる」ということ。短期間で連携を深めてきたのは、それら両者のダブルス選手としての資質が大きい。
そんな二人が、この日の準々決勝では、リズムに乗り切れない。第2セットをリードしながら落とすと、第3セットも序盤でブレークを許す。その理由は、相手の粘り強さもさることながら、試合開始時間も含めた環境面にあったようだ。 柴原/ズボナレワ対ビレル/ギブソン戦が組まれたのは、センターコートの最終試合。4人がコートに立った夜10時過ぎの時点で、気温は20度を下回っていた。「一日に四季がある」と言われるほどに昼夜の寒暖差が大きいメルボルンは、時間帯によってボールの飛び方が大きく異なることでも有名。ましてやこの前日には、最高45度に達する猛暑を記録した。それまで、練習や試合も日中にすることが多かった柴原は、あまりのコンディションの差に戸惑う。
「今までは暖かくて、ボールが飛びやすい中で調整してきた。でも今日は遅い時間で寒く、ボールが硬くて全然飛ばなかった」と柴原。
「ボールが飛ばないと、ストロークもボレーも決まらなくなる。せっかく良いプレーをしていても、拾われているうちに自分たちのポジションが崩れてしまった」
柴原が覚えた「ストレス」の最大の原因は、そこにあった。
初めて結成したペア、慣れぬ環境、そしてアウェー。
これだけ負の因子が揃えば、劣勢になるのも致し方ないだろう。その中で結果的に勝利をもぎ取れたのは、個々の経験値とベースの高さ、そして言葉を交わし互いを鼓舞する二人の「コミュニケーション力」があってこそだ。
短めの会見を終えると、柴原は「また『今夜』の試合、がんばります!」と笑顔を残して去った。
準決勝は、現地時間の29日18時開始予定。3年ぶりの全豪オープン決勝の舞台を、そしてあの時には届かなかった頂点を目指し、大きく歩みを進めた。
現地取材・文●内田暁
【動画】柴原/ズボナレワVSビレル/ギブソンの「全豪オープン」準々決勝ハイライト
【関連記事】青山修子/柴原瑛菜は日本人ペアとして初の全豪オープン優勝ならず。第1シードにストレート負け<SMASH>
【関連記事】引退説を吹き飛ばす41歳の情熱!元世界2位ズボナレワが1年7カ月ぶりの復帰戦で準優勝<SMASH>

