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「うさんくさい」から「ガチ」へ――回転寿司の価値観を変えた業界の功労者・米川伸生の30年

「うさんくさい」から「ガチ」へ――回転寿司の価値観を変えた業界の功労者・米川伸生の30年

回転寿司評論家・米川伸生(C)週刊実話Web
村瀬秀信氏による人気連載「死ぬ前までにやっておくべきこと」。今回は回転寿司評論家・米川伸生をインタビュー(後編)。回転寿司の魅力について、たっぷり語っていただいた。

「この30年は楽しかった」

この30年の外食産業で最も大きな進化を遂げたのは回転寿司業界である。なんて、今更ながら言わずとも分かりきったことだろう。

システムのオートメーション化、デジタル化が進んだ設備、高級店とも遜色のないような寿司ネタに、ラーメン、デザートと種類も豊富なサイドメニューなど、その進化は“エンタメの雄”としての存在感を世界に示すまでになった。

しかして、最も劇的な変化を遂げたものは回転寿司に対する日本人の“偏見”だろう。

回転寿司評論家を名乗り始めて30年。評論家として日本全国の回転寿司店と出会い、コンサルタントとして多くの店を繁盛店に仕立てあげてきた米川伸生が「うさんくさい」の代名詞だった回転寿司を「回転寿司はガチ」と人々の価値観を変えていった功労者の一人であることは間違いない。

「この30年は楽しかったですよ。回転寿司を含め、物事の価値観が大きく変わっていくのを間近で見ることができたからね。ただ、最初から僕が言っているように、“回転寿司はアミューズメントパークだ!”なんですよ。回っているコンベアはメリーゴーラウンドで、そこにさまざまなアトラクションがある。どのアトラクションから乗ろうかと迷う楽しさは、回転寿司にも同じことが言えるでしょ。そういうエンタメ性と地域やお店の特性に合った店づくりが重要なんですよね。ただ、前回も言ったように回転寿司は業界的には大手チェーン店以外はその数を大きく減らしています。特に1990年代に人気になった店は地方から火がついたところが多くて、それらが各地方のトップになっていった。創業者は当然、カリスマですよね。そうなると後継者の問題が起きて、なかなか継げる人もいなくて大手企業に売ってしまうようなケースも増えています。それで良くなる場合もあれば、売った先が飲食をやっていない企業でつまらなくなってしまった店もあります。これまでの人生でいろんな店の盛衰を見てきましたよ。その経験を次の人生に活かしたいと思っているんですけどね」

死ぬ前にやっておくべきこと】アーカイブ

進化し続ける回転寿司の未来

回転寿司店で提供される具だくさんの寿司
米川は、今年の7月で還暦を迎える。現在、評論家やコンサルとしての活動をやや緩めながら、各地を旅して回っている。それも本当にやりたかったこと、自らが“死ぬ前にやっておくべきこと”として残してきたことのためであるという。

「学生時代からずっとやりたくて、そこから放送作家、回転寿司評論家をやっている間も諦めていなかったことでもあるんだけどね。やっぱり小説を書きたいんだよ。長い時間をかけて一周して、暦と同じように原点に戻ったんですよ。文章を書くことには飢えていたからね。全然苦にはならないんですよ。去年は1年間、旅をしながらホテルに籠もってずっと小説を書いていたんです。何がテーマかって? 元々は村上春樹になりたかったんだけどね。だけどもう純文学はムリムリ。無理だなと。まずはそれを認識するところから始めてね。書けるものはやっぱり自分の好きなもの。エンターテインメントなんですよ。回転寿司業界が舞台とかね。やっぱり、いろんなモノを見てきましたから。事実は小説より奇なりでね、それこそテレ朝の2時間ドラマになりそうなネタはたくさんあります(笑)」

執筆活動で言えば回転寿司の原稿は、過去にいくつもの雑誌に寄稿してきた。グルメ記事の中でも表現が難しいといわれている寿司の原稿だが、米川の文章はその店舗の取り組みや特徴を圧倒的な情報量で誰にも出せない紹介文を生み出す。その職人技は多くの回転寿司経営者に喜ばれ、寿司ファンを虜にしてきた。

だが、それと小説はまったくの別物だ。米川にとっては仕事ではない自分が本当に書きたかった魂の渇望。言葉とアイデアは絞り出さずとも自動給湯器のように次々と湧いてくる。現在執筆中の処女小説は、これまで見たことがないような大回転寿司エンターテインメント大河小説になりそうだ。

その一方で、回転寿司評論家としての活動はどうなるのだろうか。回転寿司の創成期から最新のムーブまで、これほどの回転寿司の知識量と経験を失くしてしまうのは国家レベルでの損失である。

「完全に引退するわけじゃないですよ。ただ、回転寿司の業界は全体的にレベルも高くなってきたしね。今の自分がこの回転寿司という舞台で何かをやりたいなと思うことは、もうだいぶ少なくなってきましたね。僕が回転寿司を紹介したいと思っていた原動力は、『こんなにいいお店があるのに、知られていないのはもったいない』ということだった。今はネットなどの情報網も発達したし、お店自身も自分たちで情報の発信を出来るようになった。これは喜ばしいことですよ。それだけ回転寿司がこの国に定着して、人々に愛されていることの証しでもありますからね」

回転寿司は今も進化の速度を緩めていない。昨年の万博でも『スシロー』、『くら寿司』と未来志向の回転寿司が2店も出展した。その拡がりは日本のみならず、世界へと広がっていく。

「これからも僕は回転寿司と生きていくことは間違いないでしょう。だから、あとは100歳まで生きることだよね。僕が早死にしちゃうと、『回転寿司ばっかり食べていると身体に悪い』ってことになっちゃう。まぁ、僕の場合は酒の飲み過ぎだとみんな分かってくれるとは思うけどね(笑)」

(完)

取材・文/村瀬秀信

「週刊実話」2月5・12日号より

配信元: 週刊実話WEB

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