
新たな国際研究で、イタリア南部の洞窟にて発見された石器時代の少女の遺骨を最新のDNA技術で分析した結果、彼女が希少な「小人症」を持って生きていたことが明らかになりました。
しかもこの発見は、人類史上で最古となる「遺伝性疾患のDNA診断」でもあるようです。
研究の詳細は2026年1月28日付で科学雑誌『The New England Journal of Medicine』に掲載されています。
目次
- DNAが明かした「1万2000年前の少女」の正体
- 少女は「支えられて」生きていた
DNAが明かした「1万2000年前の少女」の正体
この研究の舞台となったのは、イタリア南部にあるロミート洞窟です。
1963年、この洞窟から石器時代の狩猟採集民9人分の遺骨が発見され、その中には抱き合うような姿勢で埋葬された2体の骨格が含まれていました。
研究者たちは、洞窟の名前にちなんでこれらを「ロミート1」「ロミート2」と呼んでいます。
【発見された少女の遺骨の画像がこちら】
最新のDNA解析によって明らかになったのは、ロミート2が10代の少女であり、希少な遺伝性疾患を持っていたという事実です。
彼女が患っていたのは「マロトー型末端中間部形成不全症(acromesomelic dysplasia, Maroteaux type:AMDM)」と呼ばれる小人症の一種で、前腕や下腿、手足が極端に短くなるのが特徴です。
AMDMは、骨の成長に重要な役割を果たすNPR2遺伝子の両方に変異が生じることで発症します。
DNA解析の結果、ロミート2はこの遺伝子に異常なコピーを2つ持っていたことが確認されました。
身長は約110センチメートルと推定され、当時の狩猟採集社会においては、移動や日常動作に大きな制約を抱えていたと考えられます。
チームによれば、これは解剖学的に現生人類における遺伝性疾患のDNA診断として、これまでで最も古い例です。
1万年以上も遡る個人の遺伝子変異を、ほぼ確実に特定できた点は、医学史的にも画期的だといいます。
少女は「支えられて」生きていた
DNA解析は、ロミート2の家族関係についても重要な情報をもたらしました。
彼女と抱き合うように埋葬されていたロミート1も女性であり、第一度近親者、つまり母娘、あるいは姉妹関係にあった可能性が高いことが分かりました。
興味深いことに、ロミート1も当時の成人としては小柄で、身長は約145センチメートルでした。
彼女はNPR2遺伝子の異常なコピーを1つだけ持っており、軽度の成長制限があった可能性が示されています。
ただし、ロミート2ほど重度の小人症ではありませんでした。
また、ロミート2の食生活や栄養状態は、同じ洞窟に埋葬されていた他の人々と大きな差はありませんでした。
遺骨に外傷の痕跡もなく、栄養不良の兆候も見られなかったことから、研究者たちは彼女が共同体の中で継続的なケアを受けていたと考えています。
狩猟採集社会では、移動能力や身体的な強さが生存に直結します。
それにもかかわらず、重い身体的制約を抱えた少女が10代まで生き延びていた事実は、当時の人類が互いに支え合う社会的な関係を築いていたことを強く示唆しています。
この発見は、医学史における最古の遺伝性疾患診断であると同時に、人類史における「ケアの証拠」でもあります。
1万2000年前の社会において、身体的に不利な個体が排除されることなく生きていたという事実は、人類が早い段階から協力と共感を基盤とした社会を築いていたことを物語っているのです。
参考文献
Teenage girl who lived in Italy 12,000 years ago had a rare form of dwarfism, DNA study shows
https://www.livescience.com/archaeology/teenage-girl-who-lived-in-italy-12-000-years-ago-had-a-rare-form-of-dwarfism-dna-study-shows
元論文
A 12,000-Year-Old Case of NPR2-Related Acromesomelic Dysplasia
https://doi.org/10.1056/NEJMc2513616
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

