
第1章の公開から4年。2026年1月30日(金)に「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」の第2章「キルケーの魔女」が幕を開ける。重厚なドラマと圧倒的な映像美でファンを唸らせた同作だが、澤野弘之が手掛ける劇伴も世界観を形作る重要なファクターとなっている。第2章という新たな局面に対し、澤野弘之はどのようなアプローチで挑んだのか。今回新たに起用された注目のボーカリスト・SennaRin(センナリン)ついても語ってもらった。
■第1章からのアップデートと、3部作を見据えたアイデンティティー
――今回の第2章では、楽曲制作のベースとなるテーマやアプローチはどのように考えられましたか?
まず第1章の音楽を作っている段階から、続く第2章、第3章にもここで生まれた楽曲たちが展開していくだろうという長期的な展望を持って取り掛かっていました。もちろん、第2章のために考えた楽曲もありますが、基本的には第1章で提示したメロディーやモチーフを、物語の進行に合わせてどう展開させていくか、という考えがベースにあります。
シーンの演出上、全く新しいメロディーが必要になる部分は書き下ろしていますが、基本軸としては第1章を土台に、「今の自分ならこのメロディーをどうアレンジし、音色を使って第2章の世界観にフィットさせるか」というアップデート的な感覚ですね。
やはり3部作という構造上、音楽も地続きである方が作品としての強度が保てますし、聴いている方にも「この音が『ハサウェイ』の世界だ」と、条件反射のように感じてもらえるアイデンティティーを大切にしたいと思いました。
――では、第2章の楽曲イメージも新たに提示されたわけでなく?
継続的な部分ではそうですね。今回はVコンテ(絵コンテを動画にしたもの)が共有されていたのでそれでもイメージを掴みましたが、楽曲を作る段階では、一度そこで見た画(え)は切り離して考えています。これは、映像を軽視しているわけではなくて、映像を見すぎてしまうと、そこに寄せていくやり方になってしまいがちなんですよね。良くも悪くも映像の力に引っ張られてしまうという。
例えば悲しいシーンがあったとして、そこに悲しい和音を鳴らせばそれだけで“らしく”聴こえてしまうんですよね。でも、それをあとから音楽単体で聴くと、表現が非常に浅い。実際、映像を見ないで作っていたら、もっと音楽的に面白いアプローチができたかもしれないなと感じることが過去にはありました。
なので、あくまで音楽作品として一度完結させて、強度のあるものを作る。その方が結果として映像と合わさったときに相乗効果を生むと信じて、この手法をとらせてもらっています。
■過去作は意識しない “大人のガンダム”を支える質感
――ドラマからアニメまで幅広い作品の音楽を手掛けていますが、「ガンダム」ならではというのは考えられますか?
僕はないですね。初めて「ガンダム」に携わったのが「機動戦士ガンダムUC」ですが、このときにも「ガンダム」の音楽を作るからといって、過去作の音楽を振り返って聴くということはしませんでした。
先ほどの映像の話と同じで、それ(過去作の音楽を振り返って聴く)をすると引っ張られてしまうんですよね。それに、僕にオーダーが来たということは、僕のこれまでの作品を聴いて、気に入ってくださったからだと思います。それであればやはり過去を意識するのではなく、僕の中から出てくるイメージをぶつけることで、より関わる意味に繋がると思っています。
――では、「ガンダム」としてではなく、「閃光のハサウェイ」ならではとしてはどうでしょうか?
「閃光のハサウェイ」の場合は、SFや宇宙を表現するような音色がまず頭の中に浮かびました。それはおそらく第1章での最初の段階で、大人向けの「ガンダム」を目指すというコンセプトがしっかり共有できていたからです。
例えば「ガンダムUC」や「ガンダムNT」のときはドラマティックな感情を重視してメロディアスな音楽でアプローチするという方針でしたが、「閃光のハサウェイ」は昨今のハリウッド映画のようなリフやサウンドで魅せるアプローチをで押していく、という方針が最初の段階で固まっていました。
特に「閃光のハサウェイ」はヒューマンドラマ、心理描写が重要になってくる作品なので、だからこそメロディーを立てすぎず、空間に漂っているような音作りを意識しています。それが村瀬修功監督の目指す“大人の「ガンダム」”を支える音楽になるとも思いました。
■「これは武器になる」ハリウッド映画の影響と貫いてきたサウンド
――重厚なオーケストラ的な響きとデジタル・ロックサウンドの融合による荘厳さは、今やアニメBGMのトレンドという印象です。このトレンドは、澤野さんの「ガンダムUC」以降の現象だと思いますが、当時、この音楽性は意識して取り組んでいたのでしょうか?
そういうサウンドが好きで無意識に作っていた部分と、戦略的に考えていた部分の半々ですね。そもそも僕は劇伴の世界に入った頃から、ハンス・ジマーをはじめとするハリウッドのエピックなオーケストラサウンドに強く影響を受けていて、いつか自分もそういう音を追求したいと思っていました。
当時、日本の劇伴でそこまでエピックなサウンドを前面に出している作家は多くなかった印象ですが、業界の方々はハリウッド映画を見ていますから、追求すれば絶対に需要が出てくるに違いないと。“好き”という無意識の衝動と、“これは武器になる”という意識しての両面で、このサウンドを追求し、貫いてきたところはあります。
■新歌姫・SennaRinの起用と[Alexandros]川上洋平との共鳴

――「ガンダムUC」でAimerさんという才能を世に送り出したように、澤野さんの作品はボーカリストへの注目度も非常に高いです。今回、起用されているSennaRinさんはどのようなアーティストでしょうか?
SennaRinとの出会いは3年くらい前ですね。歌唱力はもちろん、作詞や表現に関しても貪欲に進化していくアーティストで、ハスキーかつ透明感のある声質や、ロックに歌える力強さなど、引き出しの多さが魅力です。
実際に一緒にやってみたところ、色々な歌い方に挑戦する彼女の貪欲さが僕にもすごくいい刺激になったんですよね。今回、ギギの日常シーンでポップな挿入歌が一つ、ハサウェイ絡みの切ないシーンでバラードが一つというオーダーもあったことで、ここにSennaRinの歌声や彼女が書く歌詞をぶつけられたら、また新しい作品の印象が生まれるんじゃないかって。作品のプロデューサーにも興味を持ってもらえたことで、起用が決まりました。
――挿入歌の歌詞は二曲ともSennaRinさんが書いているわけですか?
はい。対照的な二曲になっておもしろかったです。一曲は「CIRCE(サーシー※キルケーの英語読み)」というタイトルで、これがギギの日常シーンで流れる曲です。洋楽のようなポップさ、ちょっと跳ねたリズムをベースにしつつ、やっぱりギギは明るいだけのキャラクターではないので、少し切なさを含んだ微妙なバランスで仕上げています。これはぜひ映像と合わせて楽しんでもらいたい一曲ですね。
もう一曲は「ENDROLL」というタイトルです。でもエンディングの曲ではありません。ハサウェイとある女性とのシーンで流れるエモーショナルなバラードです。そういうシーンでもあるので、SennaRinと、第1章で主題歌を歌われていた[Alexandros]の川上洋平さんとの男女のデュエット曲になっています。
――いかがでしたか、お二人のデュエットは?
素晴らしいですね。レコーディングに立ち会わせていただきましたが、川上さんはご自身でどうアプローチするかを作り込んできてくださったので、もう僕の方から言うことは一つもありませんでした。さすがです。なおかつSennaRinさんもとてもうまく音をはめてきてくれたので、二人ならではのハーモニーが生まれ、作品に深くマッチした曲になったと思います。
■Guns N' Rosesの衝撃とサントラで楽しむ「閃光のハサウェイ」の世界

――今回の主題歌にはGuns N' Rosesの名曲が使用されていると伺いました。
すごいですよね。「この曲を持ってくるか」と驚きましたし、「ガンダム」でGuns N' Rosesが流れるというのはインパクトとしても面白いなと思いました。ある意味、日本語での挿入歌とのいい対比が生まれて、トータルで「閃光のハサウェイ」という作品が持つ、無国籍でワールドワイドなサウンド感を楽しんでもらえる構成になったんじゃないかなと。海外の方からの反応もありそうで、非常に面白い試みだと思います。
――2月4日には今作のオリジナルサウンドトラックも発売になります。最後に、ファンの方へのメッセージと澤野さんの今後の活動についてお願いします。
とにかくこのサウンドトラックを通して、「閃光のハサウェイ」第2章の世界観をより深く楽しんでいただきたいです。映像と一緒に楽しむのはもちろんですが、音楽単体としても成立するように意識して作っていますので。
また、サウンドトラックとは別に、SennaRin名義でのコンセプトEP「LOSTandFOUND」が同日に発売されます。これを作れたことは、僕にとっても彼女にとっても非常に大きなことだと思っています。サントラとEPを通して「閃光のハサウェイ」第2章の世界を余すことなく楽しんでもらえたら幸いです。
僕個人の活動としては、SawanoHiroyuki[nZk]として「Fate/strange Fake」の主題歌シングル「PROVANT」もリリースされます。7月には「澤野弘之 LIVE [nZk]009」も控えていますので、そちらも併せて興味を持っていただけたら嬉しいです。

