
サム・ライミ監督の最新作となる映画「HELP/復讐島」が1月30日(金)に劇場公開される。コンサル会社の戦略チームで働くリンダ(レイチェル・マクアダムス)は、数字に強くて有能な会社員。出世も約束されていたが、新たに上司となったブラッドリー(ディラン・オブライエン)がパワハラ気質だった。有能だが不器用なリンダに目を付け、彼女が就くはずだったポストに別の人間を持ってこようとする。そんなある日、リンダは出張中の飛行機事故によって無人島で上司のブラッドリーと2人きりに…。けがで動けないブラッドリーとアウトドアの知識が豊富なリンダの2人の力関係は、無人島という舞台もあって徐々に逆転するようになっていく――。
“生存”を懸けたサバイバル生活での駆け引き、溜まっていた復讐(ふくしゅう)心による反抗など、先が読めない展開で楽しませてくれる、鬼才サム・ライミ監督流の復讐エンターテインメント作品の誕生だ。公開間近で期待も高まっているということで、ライミ監督のこれまでの軌跡をたどる。
■商業映画デビュー作「死霊のはらわた」が大ヒット
1959年10月23日生まれ、アメリカ・ミシガン州出身のサム・ライミ。高校生のとき、現在も俳優としてライミとタッグを組むブルース・キャンベルと仲良くなり、8ミリ映画の撮影を始める。ミシガン州立大学に進学後も8ミリ映画の製作を続け、20歳のときにはキャンベル、のちに映画プロデューサーとなるロバート・G・タパートと共にルネッサンス・ピクチャーズを設立。1981年に製作された商業映画デビュー作となる長編ホラー映画「死霊のはらわた」(日本公開は1985年)が大ヒットを記録し、その名を世界に知らしめた。
休暇を過ごそうと訪れた主人公のアッシュ(キャンベル)と、姉のシェリル、恋人のリンダ、友人のスコットと彼の恋人シェリーの5人は、森の中の薄気味悪い小屋に泊まることに。地下室があり、そこで見つけた「死者の書」とそこに書かれていた呪文を録音したテープ(オープンリール)を見つけて再生してみると、その呪文によって悪霊がよみがえってしまった。シェリルが木に襲われたり、悪霊に取りつかれたりして、アッシュたちはどんどん追い込まれていく――。
「HELP」も無人島が舞台になっているが、「死霊のはらわた」も陸の孤島的な場所が舞台。逃げ場のない場所でのおぞましい恐怖というのが、ライミ監督作品の魅力となっている。若者の商業映画デビュー作ということもあって超低予算かつスタッフも少ない中で作られたものだが、スプラッターホラーの名作として後世に名を残した。
1987年にはシリーズ第2作「死霊のはらわたII」が公開。引き続きキャンベル演じるアッシュが主人公で、タイトルも「II」とはなっているものの完全な続編ではなく、リメーク作品という仕上がりに。コメディー的要素も多く取り入れられ、前作よりも進化したSFXの技術を用いて、緊迫感のあるカメラワークのさえる作品として高い評価を得た。この作品からシリーズ第3作となる「キャプテン・スーパーマーケット」(1993年)へと続いていく。
1990年には「ダークマン」が公開。主演は、「スター・ウォーズ/ファントム・メナス(エピソード1)」でジェダイマスターのクワイ=ガン・ジンを演じたリーアム・ニーソン。ギャングに襲われて顔を失った天才科学者が、自身の開発した人工皮膚をまとい、復讐するという、タイトル通り、ダークヒーローが活躍する物語だが、全体から漂う陰鬱な雰囲気にライミらしさを感じる。
「氷の微笑」「硝子の塔」「スペシャリスト」と勢いに乗っていたシャロン・ストーンを主演に起用した西部劇映画「クイック&デッド」(1995年)も押さえておきたい作品の一つ。ジーン・ハックマン、ラッセル・クロウ、レオナルド・ディカプリオなど、そうそうたる俳優が出演し、“恨み”や“復讐”といった要素も濃く、ブラックユーモアもたっぷりと詰まっていた。
■ライミ版「スパイダーマン」3部作の誕生
2002年公開の「スパイダーマン」は監督としての大きな転機に。“カルト映画の名手”、“ホラーの鬼才”と呼ばれたライミがメジャー作品を手掛けることになったのだ。
トビー・マグワイアが主人公の“親愛なる隣人”ピーター・パーカーを演じ、ヒロインのメリー・ジェーン・ワトソンにキルスティン・ダンストを起用し、軍事企業オズコープの社長で、グリーン・ゴブリンになってしまうノーマン・オズボーン役をウィレム・デフォー。ノーマンの息子でピーターの唯一の親友ハリー役にジェームズ・フランコを抜てきした。
ヒーローでありながら、苦悩するピーターの姿をしっかり描いているところはライミらしいと言える。2004年には「スパイダーマン2」、2007年には「スパイダーマン3」が続き、“サム・ライミ版「スパイダーマン」3部作”として今も愛されている。

■“親愛なる隣人”の後も原点回帰のカルト・ホラー映画で躍動
以降、メジャー作品へと移行していくのかと思われたが、そうではなかった。2009年に公開された「スペル」は、グロテスクな表現も見られるブラックユーモアも含んだホラー映画で、これぞサム・ライミと言えるカルト・ホラー作品になっている。虫だったり、スプラッター的な要素だったりが満載な映画で、見ている側も“痛み”を感じる描写も随所に登場。原点回帰的な感じもあって、ライミ監督を語る上で避けて通れない1作。
監督ではなく、製作として「ブギーマン」(2005年)や「ゴースト・ハウス」(2007年)、「ポルターガイスト」(2015年)などにも関わっているが、決してホラー一辺倒ではない。
2013年公開の「オズ はじまりの戦い」は目新しさを感じる作品だった。これはジュディ・ガーランドが主演を務めた有名な作品「オズの魔法使」(1939年)の前日譚として、若き日のオズが描かれている。のちに“オズの魔法使い”となるペテン魔術師オスカー・ディグスを演じているのは「スパイダーマン」シリーズでピーターの親友ハリー・オズボーンを演じたフランコ。
野心を持ちながら小さなサーカス団で働くオスカーは、サーカス団の怪力男の妻と浮気して、逃げるときに竜巻に巻き込まれて上昇し、カンザスから見知らぬ国「オズ」へと飛ばされてしまう。
そこで西の魔女・セオドラ(ミラ・クニス)と出会うが、国王を殺害した悪い魔女を征伐するためにやってきた正義の魔法使いと思い込み、悪い魔女の征伐を請け負ってしまう。金銀財宝に目がくらんだという不純な動機だが…。翼の生えた猿フィンリーと陶器の少女を引き連れて目的を果たす旅に出る。
モノクロで始まり、竜巻で飛ばされた後カラーになるところをはじめ、「オズの魔法使」のオマージュ的な演出、描写が多く、原作へのリスペクトが感じられる。とはいえ、善と悪が曖昧だったり、裏切りがあったり、グレーゾーンが多いところはライミらしいところ。両作品との共通点を見つけながら見るのも楽しい作品だ。
■“MCU最強の魔術師”が主人公の異色作も
そしてもう一つ重要な作品として挙げることができるのが、2022年公開のベネディクト・カンバーバッチ主演作「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」(ディズニープラスで配信中)。
ある禁断の呪文を使ったことでマルチバースにつながってしまってから5カ月後、ドクター・ストレンジ(カンバーバッチ)は、怪物から一人の少女を守り、戦うという夢を見た。MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の作品においても、しっかりホラー要素、ダークファンタジー的要素を多く取り込むところが彼の鬼才たるゆえんか。死や恐怖なども描き、架空の物語ではなく、どこかリアリティーがあり、MCU作品の中でも異色作と言える。
そして最新作「HELP/復讐島」は、パワハラ上司と無人島で2人きりになるという新感覚の復讐エンターテインメント。画に描いたような“クソ上司”がパワハラしてきた部下に無人島で逆襲されるというストーリーに痛快な気分にもなるし、ライミ監督の真骨頂である“逃げ場のない恐怖”、容赦ない描写やブラックユーモアにゾクゾクしたり、クスッとしたり、得も言われぬ満足感を味わえる。
最後にライミ監督の作品を見るときの楽しみの一つとして、カメオ出演の“ブルース・キャンベルを探す”というのもおすすめしたい。
主演を務めた「死霊のはらわた」シリーズはもちろんだが、「XYZマーダーズ」「ダークマン」、「スパイダーマン」3部作、「オズ はじまりの戦い」「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」などに登場。もちろん新作「HELP/復讐島」にも出ているので、復讐劇を楽しみつつライミ監督の“盟友”を探してみるのも良いだろう。
◆文=田中隆信

