1月28日、UEFAチャンピオンズリーグのリーグフェーズ最終節が、全18試合同時開催で行なわれ、ラウンド・オブ16に直接進出する8チームと、プレーオフを戦う16チームが決まった。
8戦全勝のアーセナルを筆頭に、バイエルン、リバプール、バルセロナといった強豪が危なげなくラウンド・オブ16進出を決めたのに対し、「痛み分け」に終わったパリ・サンジェルマンとニューカッスル、ベンフィカに敗れたレアル・マドリーがトップ8から滑り落ちてプレーオフに回るなど、思わぬ番狂わせも少なくなかった。
その中で最もドラマチックだったのは、そのマドリーを4-2で下し、ギリギリの24位でプレーオフ圏内に滑り込んだベンフィカの逆転劇。
なにしろ、3-2でリードしていた後半アディショナルタイム97分の時点では、勝点(9)と得失点差(−3)で並びながら、総得点で上回るマルセイユが24位で、ベンフィカは25位。このままでは敗退の運命にあったベンフィカが、ラスト1プレーとなった敵陣でのフリーキックで、ゴール前に上がったGKアナトリー・トルビンがヘディングシュートを決め、得失点差でマルセイユを逆転。プレーオフ進出をもぎ取ったのだ。
その瞬間、ベンチでプレーの展開を見守っていたベンフィカのジョゼ・モウリーニョ監督は両手を上げてガッツポーズで走り出し、ピッチサイドにいたボールボーイと抱き合ってスタンドのサポーターと喜びを分かち合った。今を去ること22年前の2004年、当時ポルトを率いる新進気鋭の指揮官だった彼が、オールド・トラフォードでマンチェスター・ユナイテッドをCL敗退に追い込んだ決勝ゴール(やはりセットプレーだった)の瞬間、ガッツポーズでタッチライン際を全力疾走した伝説的なシーンを彷彿とさせる映像だった。
そのモウリーニョが25年の時を経てベンフィカの監督に復帰したのは、今シーズン開幕後の9月半ばのこと。積極的な補強で3年ぶりのリーグ優勝奪回を狙ったにもかかわらず、リーグ戦で下位チームに取りこぼしが続いただけでなく、CL開幕戦で無名のカラバフに2-0から逆転されて2-3で敗れたのに業を煮やしたマヌエル・ルイ・コスタ会長が、ブルーノ・ラージ監督の解任に踏み切り、その後任に収まった格好だった。
モウリーニョは、トッテナム、ローマを経て昨シーズンからトルコのフェネルバフチェを率いていたが、今シーズン開幕直後の8月に行なわれたチャンピオンズリーグの予選プレーオフで、ほかでもないベンフィカに敗れて本大会出場を逃し、それを理由に解任されたばかりだった。そのわずか3週間後にはベンフィカの監督になっていたわけだ。
だが就任後の歩みは、決して順調ではなかった。ポルトガルリーグではポルトとスポルティングの後塵を拝して3位に留まり、CLの第2節以降も3連敗で順位表の底に沈む。ようやく少しだけ光明が見えたのは、第5節でアヤックス、第6節でナポリに連勝して勝点6を積み上げ、プレーオフ圏まであと一歩の25位に浮上した12月のことだった。
しかし、残り2試合の相手はユベントスとマドリー。さらに勝点を積み上げるのはまったく簡単ではなかった。事実、先週のユベントス戦は0-2の完敗。この時点で順位は29位までダウンし、もし最終戦でマドリーを下したとしても、プレーオフ圏内まで這い上がれるかどうかは得失点差次第という、きわめて厳しい状況に追い込まれた。
そして迎えた最終節。ベンフィカとモウリーニョにとっての幸運は、マドリーがシャビ・アロンソからアルバロ・アルベロアへの監督交代から間がなく、チームとしてのまとまりを明らかに欠いていることだった。果たして試合は、エスタディオ・ダ・ルスを埋めたサポーターの大声援に後押しされたベンフィカが、互角以上の内容でマドリーと渡り合う展開になった。
30分にキリアン・エムバペのヘディングシュートで先制されたものの、その6分後には若きタレント、アンドレアス・シェルデルップのゴールで同点に追いつき、前半終了間際には、7日前のユベントス戦で足を滑らせPKを外したヴァンゲリス・パブリディスが、その借りを返すようにPKを決めて逆転に成功。さらに54分にはシェルデルップが2点目を決めて3-1と突き放す。この時点で勝点は9。
その4分後にエムバペが技ありの2点目を決めてスコアは3-2となったが、プレーオフ圏入りのライバルであるマルセイユ(勝点9)は、クラブ・ブルージュに0-3と大きなリードを許しており、ベンフィカは勝ち点で並んだだけでなく、試合前に4離れていた得失点差も一気にゼロまで戻していた。しかし、総得点ではマルセイユが上回っており、この時点でもまだベンフィカよりも上に留まっていた。
試合の残り時間が少なくなる間にも、他会場ではプレーオフ圏外の28位にいたボデ/グリムトがアトレティコ・マドリーを逆転して同じ勝点9に浮上、得失点差でもベンフィカとマルセイユを上回ってプレーオフ圏内に入ってきたかと思えば、ボーダーライン上にいたアスレティック・ビルバオがスポルティングに逆転を許して圏外に滑り落ち、入れ替わりにアヤックスに勝ち越したオリンピアコスがプレーオフ圏内に再浮上するなど、順位は何度となく入れ替わった。
そして時計が90分を回り、すべての試合がアディショナルタイムに入った時点では、プレーオフへのボーダーライン(24位以内)を挟んで勝点9で並ぶ5チームのうち、得失点差−1のボデ/グリムトが23位、同−3で並ぶマルセイユとベンフィカのうち総得点で3上回るマルセイユが24位、そしてベンフィカが圏外の25位という状況だった。ブルージュ対マルセイユが行なわれていたヤン・ブレイデルスタディオンの大型スクリーンには、0-3で完敗を喫したマルセイユに対して「プレーオフ進出おめでとうございます」というメッセージが表示された。
エスタディオ・ラ・ルスのピッチ上は騒然としていた。スポルティングがビルバオを逆転して勝点を16まで伸ばしたことで、ベンフィカにリードされて勝点15のままだったマドリーはトップ8から押し出されて9位に転落。それを知らされたマドリーのベンチ、そして選手たちが明らかな動揺を見せていたからだ。92分にはラウール・アセンシオが2枚目のイエローカードをもらって退場し、マドリーは10人になってしまう。
この混乱の中でしかし、モウリーニョは大きな計算違いをしていた。3-2でリードしている現状のままで、ベンフィカはプレーオフ圏内に踏み止まっていると思っていたのだ。試合後のインタビューで彼はこう説明している。
「アディショナルタイムに入った時、もうこのままで大丈夫だと思っていたので、守備固めのためにアントニオ・シウバとフランヨ・イバノビッチを入れた。しかしそのすぐ後にもう1点必要だと知らされた。でももう交代枠は残っていなかったので手の打ちようがなかった。だから終了間際にフリーキックを得られたのは本当に幸運だった」
トップ8から陥落して混乱に陥ったマドリーと、あと1点必要だと知らされて目が血走ったベンフィカ。双方とも半ばパニック状態に陥った中で、96分にはロドリゴが審判への執拗な抗議でレッドカードを受け、マドリーは9人になってしまう。そして迎えた98分、GKからのロングフィードを巡る競り合いでジュード・ベリンガムがファウルを犯し、右45度の好位置でベンフィカにフリーキックが与えられた。
モウリーニョはすかさず大きなジェスチャーで、GKトルビンにもゴール前に上がるよう促す。マドリーは2人が退場して9人になっていたが、ゴールを奪って同点に追いつきトップ8に浮上する可能性に懸けないわけには行かない。そのため、ヴィニシウス・ジュニオールとエムバペをカウンター要員として前線に残し、さらにブラヒム・ディアスも壁に立たせて、ゴール前の守備に残ったのはわずか5人だけになった。それに対してベンフィカは、GKトルビンを含めて8人をゴール前に送り込んでいた。
フレドリック・アウルスネスが蹴り出したフリーキックがゴール前に絶妙の角度で入り込んだ時点で、結末はすでに見えていた。高く飛び上がったトゥルビンがフリーで合わせたボールは、GKティボー・クルトワの反応も許さずゴール左隅に飛び込む。試合後、モウリーニョはこう振り返っている。
「私くらいのキャリアになれば、ピッチで起こるほとんどすべてはすでに見たことがあるデジャブだ。しかしこんなことは今まで一度もなかった。初めてだよ。トルビンがゴールを決めるだろうことはわかっていた。つい2週間前のポルト戦でも終了間際にゴール前に上がって、ほとんどゴールを決めるところまで行っていたからね」
最終的に、マドリーはトップ8から陥落して9位、ベンフィカはプレーオフ圏内ギリギリの24位でリーグフェーズを終えている。2月に行なわれるプレーオフ以降のノックアウトフェーズ(決勝トーナメント)は、順位によって対戦相手が決まる「テニス方式」のトーナメントシステムが採用されており、プレーオフでは9位、10位のどちらかが23位、24位のどちらかと対戦する仕組みになっている。
つまり、9位のマドリーと24位のベンフィカは、プレーオフで再び顔を合わせる可能性があるということだ。その確率は50%。そして、もしマドリーと当たらなかった場合、ベンフィカの対戦相手となる10位のチームは、やはりモウリーニョがかつて率いたインテルである。
ポルトを率いてチャンピオンズリーグを制してから22年。そこからチェルシー、インテル、そしてR.マドリーとステップアップして監督人生のピークを記したモウリーニョも、近年は欧州サッカーのトップレベルから遠ざかって久しい。しかしキャリアの斜陽期に差し掛かってもなお、こうして他の誰にも実現できないであろうドラマを我々に見せてくれるところが、歴史に残る偉大な監督たるゆえんなのかもしれない。
文●片野道郎
【動画】ベンフィカvsマドリー、GKトルビンが終了間際に劇的ゴール!
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