長編ホラーとして初めて全編アイルランド語が使われたアイルランド発の映画『FRÉWAKA/フレワカ』。タイトルの『FRÉWAKA/フレワカ』はアイルランド語の「根」を意味する言葉「fréamhacha(フレーバハ)」に由来しており、本作で描かれたアイルランドの神話やアイルランドの伝統儀式や信仰に基づく女性たちの痛みが決して断ち切れないということを示唆している。
婚礼の夜、忽然と花嫁が消えるという事件が起きてから半世紀後、アイルランドの人里離れた村に老婆の介護のために訪れた看護師のシューに次々と忌まわしい出来事が起こる。アイルランドの伝統儀式や歴史、カトリック信仰に関するモチーフが細かにちりばめられ、並々ならぬ恐怖を創出した本作は第57回シッチェス・カタロニア国際映画祭や第77回ロカルノ国際映画祭ほか各国の映画祭で上映された。アシュリン・クラークにインタビューした。
――本作は全編アイルランド語が使われた初の長編ホラーです。英語の方が広く伝わりやすいとは思うのですが、そのチャレンジをやってみようと思ったのはどうしてですか?
私は幼少期からずっとアイルランド語で育ってきました。これまで別の監督の脚本をアイルランド語で書いたことはあったのですが、映画は撮ったことがありませんでした。今作のプロデューサーから「全編アイルランド語の長編ホラーはどう?」と提案された時は、自分のパーソナリティに紐づいているアイルランド語をギミックとして使うことが嫌だったので抵抗があったんです。でも、考えていくうちにどんどんアイディアが膨らんでいって、英語では繊細な部分が表現できなくなり、アイルランド語以外では撮れない映画になっていきました。ホラー映画ファンが母国語以外の言語の作品にあまり抵抗がないのは良かったことのひとつです。
――本作を単なるホラー映画ではなく、アイルランドが抱える様々な問題を盛り込んだのはどうしてですか?
ホラー映画をアイルランド語で作るのであれば、自分自身のピュアな主観を映画にとじ込めなければいけないと思ったので、アイルランドのさまざまな問題を内包する映画になりました。今作で描いているさまざまな問題はこれまでアイルランド人が向き合ってこなかったことなんです。対話のきっかけになるものは作れたかもしれませんが、そこからどう広げていくかは受け手次第です。ただ、本作関係なくアイルランドにおいても少しずつ対話が生まれ始めた気はしています。アイルランド人の国民性というと、文化的にも社会的にも政治的にも進歩的でありたいというものなのです。過去を振り返ることなく、前へ前へ進もうとする。過去と向き合って掘り下げることがあまり得意ではないゆえに、何世代にもわたるトラウマを引き継いでしまっている部分があります。アイルランドの歴史を紐解くと、カトリック教にまつわるさまざまな問題があったり、飢饉で人口の3分の1が亡くなってしまったことや、大量のアイルランド人が他の国に移住したこともあります。そういったトラウマについてそろそろ話し合うべきなのではないかと思っています。
――本作に盛り込まれているアイルランド神話やアイルランドの伝統儀式や信仰はアイルランドで生活をしていれば自然と知識として身に付くものなのでしょうか? それとも監督がそういったものに興味を惹かれ、知識を育んでいったのでしょうか?
私は幼い頃からその年齢にしてはあまり観るべきではない作品も含めていろいろなホラー映画を観てきました。加えて、ことあるごとに聞かされてきたさまざまな民話や民謡が血肉となり、『FRÉWAKA/フレワカ』のベースとなりました。民話などは口承なので語り手独特の色がやひねりが加わって変わっていくものだと思いますが、仮にそういう物語を聞かされていなかったとしても、アイルランドの文化圏には意識せずとも共通している知識があると思っています。なので、自ら調べていってはいません。
――長編デビュー作品『The Devil’s Doorway』も信仰が重要なテーマでした。信仰とホラーを結びつけるアプローチに惹かれるのは、今話していただいたように幼少期にそういったホラーをたくさん見てきたからなんでしょうか?
カトリック教の教えは、アイルランド人にとって水の中を泳ぐかのようにそこかしこにあるものです。私自身カトリック教徒として育てられましたし、他のアイルランド人たちも、協会教会通いをしていなくとも生活の中に浸透しているものです。ホラー映画で社会的なトラウマを描くのならば、カトリック教は扱わざるを得ない要素なんです。
――カトリック教の信仰とアイルランドの神話、女性の抑圧といったアイルランドが抱えている問題を内包する上で、どの要素を強く描こうというような配分は意識したのでしょうか?
意識はしていません。自分から見た社会を描いたらおのずとそういった要素がちりばめられました。カトリック教には異なる宗教とのもつれが付いてまわるものなのです。また、女性の抑圧については、私が実際に見てきた母や祖母の人生をそのまま盛り込みました。
――監督自身、アイルランドで生活する上で女性の立場に対して違和感を感じたことはありますか?
先ほどもお話しましたが、アイルランド人は何世紀にもわたって前へ前へと進んで行く生き方をする一方で後ろを振り返ってきませんでした。中絶が合法化されたのもここ10年以内のことです。まだまだ問題は山積みだと思っています。『FRÉWAKA/フレワカ』にもマグダレンの洗濯所の話題が出てきますが、洗濯所に送られた女性たちとその女性たちが産んだ子供たちは未だに再会を果たせていません。多少は改善されているとはいえ、未だにミソジニーが蔓延していると思っています。
――監督にとって良いホラー映画の条件とは何だと思いますか?
まずは映画監督自身にとっての真実を描き、直感に従うということだと思います。そうなると否が応でも自分をさらけ出すことになりますが、それをやらなければいけません。あとはサウンドデザインです。ホラー映画にとって死活問題だと思います。
――監督にとって最高のホラー映画はどの作品ですか?
『ローズマリーの赤ちゃん』です。エレガントで頑張りすぎていなくてトーンとしても素晴らしい映画だと思います。
【インタビュー・執筆】小松香里
編集者。音楽・映画・アート等。ご連絡はDMまたは komkaori@gmail~ まで
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『FRÉWAKA/フレワカ』
監督・脚本:アシュリン・クラーク
キャスト:クレア・モネリー、ブリッド・ニー・ニーチテイン(『イニシェリン島の精霊』)
2024年/アイルランド/103分/カラー/スコープ/5.1ch/日本語字幕:高橋 彩
配給:ショウゲート
© Fréwaka Films & Screen Market Research T/A Wildcard 2024. All rights reserved.
2月6日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
