「縮む物質」が宇宙論に投げかける問い

この“縮む宇宙”仮説のいちばんの意義は、「宇宙が膨張している」という、ごく当たり前に見える前提に挑戦し、予想以上の善戦をみせた点にあるでしょう。
観測そのものは何も変えていないのに、「何が動いているのか」「どちらを基準にものさしを当てるのか」という視点を入れ替えるだけで、ハッブル定数のズレやエスエイトのズレ、ダークエネルギーの減少傾向などを一つのストーリーで説明しなおせるかもしれない可能性が示されたのです。
また理論的な観点から見るても、この仮説にはいくつか魅力的なポイントがあります。
ひとつは、ダークエネルギーの「エネルギーはどこから来るのか」という疑問をやわらげる可能性があることです。
宇宙空間そのものがどんどん増えていくと、空間にふくまれるエネルギーも増え続け、エネルギー保存の感覚からすると落ち着きません。
しかし「本当は物質世界のほうが圧縮されていて、宇宙の土台はほぼ一定」とみなせば、むしろ全体としてエネルギーが少しずつ元のゼロの状態へ戻っていく、というイメージに変わります。
また、遠い銀河が光速より速く遠ざかっているように見える「超光速問題」や、宇宙がなぜこんなに平らなのかという問題、真空エネルギーが計算上は観測値のとてつもない倍率になってしまう問題なども、スケール収縮の枠組みではより素直に解釈できるようになります。
今後の大きな課題は、「本当にテストできるかどうか」です。
縮み続ける定規しか持てない私たちに、「今ここ」で起きている物質世界の縮小を検知することは困難です。
ただ宇宙規模ではそれが可能かもしれません。
宇宙では遠方を見ると言うことは、過去を見ることです。
たとえば10億光年離れた場所を観測することで、10億年前の宇宙の状態を知ることが可能です。
今後の観測でさらに遠い超新星や銀河、重力波などのデータがたまれば、「縮む宇宙」が本当かどうかがわかるでしょう。
著者自身も、現状の宇宙論にスケール収縮のパラメータを組み込み、宇宙の誕生から現在までのすべての時代を通して、観測データと突き合わせ直す必要があると書いています。
もしかしたら未来の科学雑誌には「天動説」や「地球平面説」と同じ項目に「宇宙膨張説」があり「昔の人は宇宙が膨張していると考えていた」と解説されているかもしれません。
元論文
Scale Corrections to the ΛCDM Model to Explain a Time-Dependent Dark Energy Density, and the Hubble and S8 Tensions
https://www.preprints.org/manuscript/202601.1548
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

