
夜空に突如として現れ、人々を魅了し、時に恐怖させてきた彗星。その中でも最も有名なのが「ハレー彗星」です。
約75〜76年ごとに地球へ戻ってくるこの彗星は、長らく18世紀の天文学者エドモンド・ハレー(1656〜1742)によって周期性が発見されたとされてきました。
しかし近年の研究によって、その理解は実は600年以上も前、11世紀のイングランドで、ある修道士によってすでに成し遂げられていた可能性が浮かび上がってきたのです。
目次
- ハレー彗星の「周期性」を解き明かした功績
- 11世紀の修道士がすでに見抜いていた?
ハレー彗星の「周期性」を解き明かした功績
ハレー彗星は、現在では「1P/ハレー彗星」として知られています。
太陽の周囲を非常に細長い楕円軌道で回り、約72~80年ごとに地球の近くを通過する周期彗星です。
この周期性を明確に示した人物として知られているのが、英国の天文学者エドモンド・ハレーです。

ハレーは1705年、自身の観測結果に加え、過去の記録を丹念に調べることで、1531年、1607年、1682年に出現した非常に明るい彗星が、すべて同一の天体であることを突き止めました。
そしてこの彗星が約75〜76年周期で回帰すると予測し、1758年の再来を予言したのです。
ハレー自身は1742年に亡くなり、その帰還を目にすることはできませんでしたが、彗星は実際に予測どおり現れました。
この成功によって、ハレー彗星は「人類が初めて周期性を理解した彗星」として歴史に刻まれることになったのです。
しかし近年、この「最初」という評価そのものを見直す必要があるとする研究が発表されました。
11世紀の修道士がすでに見抜いていた?
新たな研究で注目されているのが、11世紀イングランドの修道士、エイルマー(Eilmer of Malmesbury)です。
彼はマームズベリー修道院に属しており、12世紀の歴史家ウィリアム・オブ・マームズベリーによって、その生涯の一部が記録されています。
エイルマーは、989年に少年として空を横切る明るい彗星を目撃しました。
さらに数十年後の1066年、彼は再び同じ彗星を目にします。
このとき彼は「以前にもこの彗星を見たことがある」と気づき、二つの出現が同一の天体によるものだと理解していた可能性があるのです。
オランダ・ライデン大学の天文学者サイモン・ポルテギース・ズワルトらは、ウィリアム・オブ・マームズベリーの記述を精査し、エイルマーが989年と1066年の彗星を結び付けて認識していたと結論づけました。

当時、彗星は王の死や戦争、飢饉を告げる「凶兆」として捉えられており、1066年の彗星も、王位継承をめぐる混乱の中で強い意味を持って受け止められていました。
重要なのは、エイルマーが「二度現れた彗星が同じものだ」と理解していた点です。
これは彗星が周期的に出現する天体であるという認識の芽が、すでに11世紀に存在していたことを示唆しています。
もちろん、これでハレーの功績が小さくなるわけではありません。
彼は数学と観測データを用いて周期を定量的に示し、未来の出現を正確に予測しました。
その科学的達成は、近代天文学における画期的な成果です。
しかし今回の研究が示しているのは、自然現象を「同じものが再び現れた」と気づく洞察そのものは、すでに中世の知識人にも備わっていた可能性がある、という点です。
ハレー彗星は、近代科学だけでなく、人類の長い観測と記憶の積み重ねによって理解されてきた天体なのかもしれません。
次にこの彗星が地球へ戻ってくるのは、2061年7月下旬とされています。
そのとき私たちは、ハレーだけでなく、11世紀の修道士エイルマーの視点も思い出しながら、夜空を見上げることになるのかもしれません。
参考文献
Halley’s Comet wrongly named: 11th-century English monk predates British astronomer
https://www.universiteitleiden.nl/en/news/2026/01/halleys-comet-wrongly-named-11th-century-english-monk-predates-british-astronomer
Halley wasn’t the first to figure out the famous comet. An 11th-century monk did it first, new research suggests.
https://www.livescience.com/archaeology/halley-wasnt-the-first-to-figure-out-the-famous-comet-an-11th-century-monk-did-it-first-new-research-suggests
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

