ポケモンたちが心からくつろぎ、楽しい時間を過ごす南の島のポケモンリゾート。そこで働き始めた新米コンシェルジュのハルは、相棒のコダックとともにポケモンのお客さまをおもてなしする。慣れないことは多いけれど明るく誠実にお客さまに寄り添うハルの姿と、普段よりリラックスしたポケモンたちが、観る人の心も癒やしていく。「笑顔でいれば、きっと乗り切れる。だってここには、楽しい仲間たちがたくさんいるから!」。ポケモンたちと触れ合いながら成長していくハルとコダックの心温まるストーリー。
Netflixと株式会社ポケモンが共同で製作するストップモーション・アニメーション「ポケモンコンシェルジュ」の新エピソード(5〜8話)が世界独占配信された。本シリーズは、コンシェルジュのハルの声にのんを迎え、ドワーフスタジオの小川育が監督を務める。さらに山下達郎が新エピソードのために主題歌「オノマトペ ISLAND」を書き下ろし、話題となっている。
予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、Netflixシリーズ「ポケモンコンシェルジュ」の小川育監督に、本作品やアニメーションへの思いなどを伺いました。
「ポケモンコンシェルジュ」が生まれるまで
池ノ辺 Netflixシリーズ「ポケモンコンシェルジュ」は、2023年に1〜4話が配信され、今回は、その続編として新エピソード (5〜8話) が配信されています。最初にこのお話が来た時には、どんな気持ちだったんですか。
小川 「これはやりたい」と思ったのはもちろんですが、最初に思ったのは、これをストップモーション・アニメーションで作る意味は何か、というところですね。というのも、ポケモンって、これまでいろんな形ですでに世に出ているわけです。テレビアニメもあるし、ハリウッドでは実写版も作られている。YouTubeの短いコンテンツなどもあります。そんなふうにいっぱいある中で、なぜストップモーションで作るのか、そこで自分たちだからこそ観せられるものは何か、ということを考えました。
池ノ辺 最初は、ドワーフの岡田由里子さんから話があったそうですね。「コンシェルジュ」というテーマでやろうとなったのはいつ決まったんですか。
小川 岡田さんから話を聞いた時には「ポケモンコンシェルジュ」という企画のコンセプト自体は決まっていましたね。ただ、社内で、ポケモンの新しい企画があるらしい、ストップモーション・アニメーションで作る企画を考えているらしい、というのはうっすら聞こえてきていました。
池ノ辺 そもそも「ポケモンコンシェルジュ」の発想はどこから来たんですか。
小川 最初、Netflixさんとポケモン社さんで、今までにないポケモンのコンテンツを作りたいというところから始まり、いろんな企画が挙がって、紆余曲折を経てストップモーションが有力になり、今の「ポケモンコンシェルジュ」の企画の卵ができてきた、と聞きました。
池ノ辺 そうして2023年に世界に配信されました。その時の気持ちはどうでした?
小川 自分の中ではやはり多少の緊張感はあったと思います。どんなふうに受け止められるのかなという不安もありました。ポケモンって最初はゲームが始まりでしたよね。それでアニメ作品になって、ストーリー展開の中でポケモンバトルに焦点が当たることが多かったと思うんです。しかも既存のキャラクターのイメージもかなり強い。そういう中で、今までのポケモンの映像とはひとあじ違うものを、という企画から生まれたのが本作です。フィギュアとかぬいぐるみなどの立体物によるストップモーション・アニメーションで作るということだけでも、これまでとずいぶん違った新しいイメージになると思うんですが、一方で、それまでのイメージとあまりにも乖離してしまうというのも違うと思うんです。そのあたりのバランスも考えた新しい試みが、観る人たちにどのように受け取られるのかなと、そこの部分はかなり気になるところでした。
池ノ辺 でも結果的には大成功でしたよね。
小川 このシリーズの監督をさせてもらうことが決まって最初に、ポケモン社さんとNetflixさんに挨拶に行った際に、ポケモンをストップモーション・アニメーションで作るにあたって、自分が何を大切と思っているか、というような話をしたんです。その時に伝えたのが、登場人物やポケモンたちが実際にそこにいるかのような、リアルなイメージというものがストップモーションの一番の強みだと思うので、この作品の世界観もそこを大切にして作っていきたいと、そういう話をしました。本作が配信されて、「本当にポケモンがいたらいいのに」とか「ポケモンがいる世界に行ってみたい」とか、そういった感想を持ってくれた方が結構多くて、まさに自分の狙っていたポイントが伝わったんだと思って嬉しかったですね。
池ノ辺 ピカチュウとかが、本当にその辺にいるような感じなんですよね。ある種のリアリティというか、もふもふの質感なんかとも相俟って、そのリゾートにいることでしあわせな気持ちになります (笑) 。
ストップモーション・アニメが紡ぎ出すリアルでファンシーなポケモンの世界
池ノ辺 今回配信される新エピソードは、前回の続きになるわけですが、ストーリーの上で何かこだわったところ、こうしようと思ったところはありますか。
小川 前回の1話〜4話ははじめてのストーリーを展開するのに、登場人物、例えばハルやコダックはこういう性格だよね、がわかるような展開にしたり、リゾートの紹介、この世界はこんなふうになっている、ということがわかるように、映像も引きの画 (え) でみせるようにすることが多かったです。5話以降は、これまでに紹介された世界観を深めたり、あの世界にはこんなこともあるんじゃないか、ということに切り込んだ話であったり、さらにはポケモンと人間の関係性などにも言及するような、そういうお話にしたいと思ったんです。ですから映像としても、カメラはもう少し登場人物たちに近寄って、細かいところを写していけたらいいなと思いました。
池ノ辺 確かに、あの世界に触れられ、その感触が伝わるような、そんな親しみのある空間になっていました。
小川 ポケモンがいる世界ってファンタジーなんですけど、全くのファンタジー、ファンシーな世界にしてしまうと、完全に空想の世界になってしまって、観る人がギャップを感じてしまうと思うんです。これは私とは関わりのない知らない世界の話だわ、となってしまう。この「ポケモンコンシェルジュ」では、そうじゃないところを描きたかったんです。つまり、自分たちがよく知っている世界と地続きのところにポケモンがいる。主人公のハルは、普通のOLだったのが、リゾートに来て、コンシェルジュになっている。現実の世界からかけ離れた、全くの空想の世界ではなくて、「こういう場所あるよな」と観る人に思わせられるような、そういうポケモンの世界を大事にしています。
池ノ辺 私も、疲れた時にあのリゾートに行きたいなと思いました(笑)。疲れて夜、家に帰ってきて、そこで「ポケモンコンシェルジュ」を観て、癒やされて、ああ、いつでもどこでも観られるNetflixって、こんな時のためにあるんだと思いました(笑)。そういえば、ストップモーション・アニメは1秒24コマで撮っていくんですよね。気の遠くなるような作業だと思うんですが。
小川 ストップモーション・アニメに関しては、僕は学生の時に作っていたし、Netflixの「リラックマ」シリーズ (2019〜) にも携わっていたので、あまり心配はしていませんでした。今回のチームも「リラックマ」の頃から一緒にやっていた人たちが多いので、制作体制についてもある程度予想できていました。ただ、ポケモンっていっぱいいて、メインで喋っている以外に、全然メインの話には関係ないけど背後で何かしているようなポケモンやキャラクターたちがいろいろ出ているんです。そういう背後も含めてしっかり描きたいと思っていたので、当然動かさなければいけないポケモンが増えていきます。これをどうやって進めていこうかということはずいぶん考えました。
池ノ辺 後ろの方にいるポケモンたちも、みんな違う動きをしているんですね。これを1コマ1コマ撮るのだと考えたら、終わる気がしなかっただろうなとこちらが心配になりました。でもそういう作業が監督たちにとっては楽しいんだろうなとも思いましたけど (笑) 。
小川 メインとなる人物たちは、もちろんストーリーの流れに従って動いていくわけですが、背景のキャラクターたちの動きというのは、いわば自由演技みたいなところがあって、実際にはボケて細かいところまで見えなかったりするのですが、アニメーターの人たちも面白がって、そこに力を注ぐんです。本当にこんな島があるんじゃないかと思わせるためにも、ストーリーと直接関わらない背景も重要なファクターだと思っています。
池ノ辺 撮影する時、人形は何人かで動かしていくんですか。
小川 どんなふうに進めるかというのは結構いろんな場合があります。例えば、手前でハルやコダックがメインストーリーの演技をして、奥の方で島に来ているお客さんとかポケモンがいるという場合、手前と奥で別の人が撮って、あるいはタイミングをずらして撮って、後で合成するという方法があります。一つの画面にうつる人形を、複数のアニメーターが同じステージで同時に動かすというのはあまりやらないです。
池ノ辺 ハルたちのキャラクターの顔の表情がすごく豊かに感じたんですけど、あれは顔だけのパーツで撮ったりするということですか。
小川 顔の場合、目の形自体はあまり変形しないんですが、顔の下半分、つまり鼻、口、頬などはパーツがたくさんあって、それを交換しながら表情を出していきます。まぶたとか眉毛は、貼り付けられるようになっていて、好きな位置に動かしながら撮ります。
池ノ辺 撮った後に見てみたら、途中におかしな動きのコマ、不自然な位置のコマがあったという時はどうするんですか。
小川 1コマ2コマ程度だったら戻る、ということもありますが、だいぶ撮ってから真ん中あたりがおかしかったとなると、もう戻るのは無理なので、撮り直しかポストプロダクションで編集してなんとかします。
池ノ辺 そう考えるとやはり大変な作業ですね。
