現地研修で見えてきた「福島の海」の今

出前授業に向けた準備の中で、学生たちは福島の海を支える現場にも目を向けていきました。相馬市といわき市で行われた現地研修では、漁業や研究、加工、食、環境といったさまざまな側面から、福島の海の姿に触れる機会が設けられています。
魚がどのように水揚げされ、どんな工程を経て私たちのもとへ届くのか。流通や加工の現場では、鮮度を保つための工夫や、限られた資源を無駄にしないための取り組みが日々積み重ねられていることが伝えられました。普段は意識することの少ない「魚のその先」に、多くの人の手と判断が関わっていることを知る時間だったといえます。
また、研究機関では、漁業を続けていくための資源管理や養殖、海洋環境の変化についても学びが深められました。海の状態は常に同じではなく、水温や環境の変化が漁業に影響を与える現実があります。そうした課題に向き合いながら、未来につなぐ方法を探る取り組みが続けられていることも、研修を通じて共有されました。
食の現場も、福島の海を語るうえで欠かせない要素です。地元で水揚げされた魚が料理として提供されるまでの背景には、素材を生かす工夫や、地域ならではの価値を伝えたいという想いがあります。知識として学んできた魚を、食という形で実感することで、海の恵みがより身近なものとして結びついていったことがうかがえます。
さらに、水族館での見学を通して、福島の海に生きる多様な生きものや生態系にも目が向けられました。漁業や食だけでなく、自然環境そのものを理解することが、海と長く付き合っていくための土台になる。そんな視点が、学生たちの中で少しずつ形になっていったようです。
こうした現地研修を通じて見えてきたのは、福島の海が決して一面的な存在ではないということでした。仕事として海と向き合う人、研究を続ける人、食を通して魅力を伝える人。それぞれの立場が重なり合いながら、福島の海は支えられています。その「今」を知ることが、出前授業の内容にも深みを与えていきました。
子どもたちに届けた出前授業と、その反応

現地研修と事前学習を経て、いよいよ出前授業が行われました。舞台となったのは、会津若松ザベリオ学園小学校と福島大学附属小学校。対象は小学5・6年生です。授業の目的は、知識を一方的に伝えることではなく、福島の海を「自分ごと」として感じてもらうことにありました。
授業では、魚の特徴や名前をテーマにしたクイズが取り入れられ、子どもたちの興味を引きながら話が進められました。たとえば、ヒラメとカレイの違いや、魚の漢字表記といった身近な話題から、福島の海の特徴へと自然につなげていく構成です。難しい説明を並べるのではなく、「知っている」「気になる」という感覚を入口にしている点が印象的でした。
特別サポーターとして参加したハットリさんの存在も、授業の雰囲気づくりに一役買っています。魚をテーマにしたユーモアのある話やイラストを交えた説明によって、教室には笑いが生まれ、子どもたちの集中力も高まっていきました。楽しさの中に学びがある。団体が大切にしてきた考え方が、授業の空気感として表れていたように感じられます。
また、今回の出前授業で特徴的だったのが、子どもたち自身が考える時間がしっかりと設けられていたことです。「福島の海の魅力を伝えるために、自分たちには何ができるか」というテーマで行われた話し合いでは、さまざまな意見が飛び交いました。実際に海へ行ってみたい、魚を食べて知りたい、家族や友だちに話したい。どの声からも、学びを自分の生活につなげようとする姿勢がうかがえます。
参加した子どもたちの感想からは、知識を得たというだけでなく、関心が広がった様子が伝わってきます。知らなかった魚に興味を持ったこと、実際に食べてみたいと思ったこと、水族館で魚を探してみたいと感じたこと。こうした反応は、団体が目指している「知ることから始まる変化」が、確かに芽生えている証ともいえそうです。
出前授業は一日限りの出来事ですが、そこで生まれた気づきや会話は、子どもたちの日常の中に残っていきます。その積み重ねが、福島の海を身近に感じる人を少しずつ増やしていく。今回の授業は、そんな広がりを感じさせる時間となりました。
