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時代を射抜いた女優・秋吉久美子が描いた“1970年代”の青春 なによりも“目”に吸い込まれる名演を見せた名作映画たち

時代を射抜いた女優・秋吉久美子が描いた“1970年代”の青春 なによりも“目”に吸い込まれる名演を見せた名作映画たち

「突然、嵐のように」
「突然、嵐のように」 / (C)1977 松竹株式会社

1970年代の日本映画界において、秋吉久美子という女優は一種の「現象」だった。当時の若者たちが抱いていた既存の価値観への不信感や、どこにも行き場のない焦燥感。秋吉はそうした若者たちが抱く漠然とした不安感を、等身大の若者として数々の作品で演じている。真面目に将来のために努力しても裏切られ、衝動のまま突き進んでも挫折し、ふと転がり込んできた不幸が原因で道を踏み外してしまう。ドル・ショック、オイル・ショックなど社会的不況ど真ん中であった1970年代。燃えることすらしなかった“シラケ世代”と呼ばれる当時の若者たちの心象を映し出し、文学の世界観に落とし込んだ名作たちを起点に「なぜ、秋吉久美子という女優が1970年代の顔となったか」を深掘りしていく。

■なによりも目に吸い込まれる「さらば夏の光よ」

秋吉といえば、まず「赤ちょうちん」「妹」「バージンブルース」の歌謡映画三部作を思い浮かべる人が多いだろう。彼女の人気を決定づけた名作で、「秋吉久美子=1970年代の若者」というパブリックイメージを形作った名作たちだ。

だがそうした名作のあと、1976年に公開された「さらば夏の光よ」も秋吉のキャラクターを世に知らしめた一作。遠藤周作の短編を原作として山根成之監督が叙情豊かに描き出した青春映画の金字塔で、郷ひろみの映画初主演作でもある。

秋吉が演じたのは同作のヒロイン・京子。見た目の美しさを除けばどこにでもいる普通の女の子だが、そんな彼女が郷演じる宏とその友人である野呂(川口厚)と出会う。そして宏と野呂は、2人とも京子に惹かれてしまった。

外交的だが不器用な宏は、親友である野呂と京子の仲を取り持つことに。当初宏に想いを寄せていた京子は宏の意図を見抜き、野呂と婚約。それでも3人の友情は変わらなかったが、ある日京子を襲った事件が3人の運命を大きく変えてしまう。

同映画で特筆すべきは、秋吉の「視線」が持つ圧倒的な表現力だ。素直になれない若さ、想いを受け止めてもらえない苦しさ、あきらめと納得がないまぜになった静けさ、そして底冷えするような絶望と怒り。大げさに声を荒げたり、わざとらしい表情作りではない。何を見るでもない茫洋とした視線で、それらの感情を如実に表すのが秋吉久美子という女優。当時若干22歳にして、圧巻の表現力と言えるだろう。

印象的なのはさまざまな思いを胸に秘めて故郷へ帰ろうとする京子を、宏が変わろうとする決意でもって止めようと語りかけるラストのひと幕。「私たちの夏は、もう終わったのよ」と語る秋吉は、決して宏に目を合わせない。伏せた目元には光が映らず、悲嘆とあきらめが色濃く見える。

引き留めも上手くいかず、なんとか工面した金も受け取ってもらえない宏は「これくらい受け取ってくれなきゃ、ヤバいよ。俺、立場ねえじゃねぇかよ」と言い募った。その言葉を聞いた京子は、宏に目を合わせて「ありがとう」と言う。問題は秋吉の目が物語る情報の多さだ。この期に及んで「俺の立場」を持ち出す宏の身勝手な優しさ、かつて自分が選んだ選択への後悔、取り戻せない輝いていた日々への懐古…あまりにも強烈に視線を吸い込む目だった。

歌謡映画三部作で作り上げた「シラケ世代の体現」というイメージを打ち破り、リアルな演技力で見る者の心を巻き込む大女優に進化した秋吉。「さらば夏の光よ」は、秋吉のブレイクスルーを語るうえで欠かせない作品なのだ。

■人間ドラマの本質を描いた「突然、嵐のように」

1977年に制作された「突然、嵐のように」は、さらに重厚な演技が光る。「さらば夏の光よ」で力を合わせた山根監督と郷・秋吉コンビが再びチームを組むことになった意欲作で、哀しい運命に翻弄される若者たちを描いた。

秋吉が演じる由紀は看護婦として実直に働きながら、将来に向けた勉強も欠かさない頑張り屋。そんな彼女の前に現れたのが、社会の規範をことごとく無視して生きる青年・日出男(郷)だ。盗んだ免許証で事故を起こし、まったくの別人として入院してきたということからもその破天荒ぶりがうかがえる。

文字通り嵐のような出会いを果たした2人は、対照的な生き方をしている相手に惹かれていく。しかし無鉄砲で衝動的な日出男は、あるとき金のために罪を犯してしまい…。

同映画では秋吉の「静」と「動」、「陰」と「陽」の使い分けが際立つ。人間なら誰しも持つ感情の起伏だが、秋吉は人間ドラマのなかにそのコントラストを見事に落とし込んでいるのだ。

日出男に故郷の良さを語る朗らかな表情、故郷で受けたあまりにも冷たい仕打ち、「一緒に暮らさねえか」と言われたときの滲むような笑み、怒りと哀しさが混じりあった叫び。どれもセリフそのもの以上に、感情の抑揚を感じさせてくれる。

特にラストシーンのやり取りは、不器用に駆け回る日出男の未熟さ、健気な由紀のいじらしさを一番に表していると言っていいだろう。あまりにも運命に苦しめられた2人だが、袂をわかってもまだお互いを思う心は残っている。電車に乗る由紀を見送る日出男には、思わず叫び出したくなるようなもどかしさを感じずにはいられない。

強がって嘘を言う表情、最後に名前を呼んでしまう弱さ。由紀の弱さと強さを一挙に浴びせられる、めまぐるしい激情が喚起されるひと幕だ。進化した郷と秋吉の演技が、同作を「さらば夏の光よ」と並ぶ名作とした。

■衛星劇場の特別番組で巡る不変の魅力

秋吉の名演が見られる名作は枚挙に暇がない。2月から衛星劇場が2カ月連続放送する特集「クミコが選ぶ、とっておきのクミコ ~秋吉久美子秘蔵傑作選~」では、前述した2タイトルのほか秋吉自身がセレクトした名作映画をピックアップするという。

2月4日(水)朝8時30分から放送されるのは「パーマネント・ブルー 真夏の恋」。22歳当時の秋吉が、瑞々しさ全開で演じる純愛ドラマだ。また「さらば夏の光よ」は2月6日(金)夜9時15分から、「突然、嵐のように」は2月13日(金)夜9時から放送される。

また、本人がデビューから現在までの思い出やお気に入りの出演映画を紹介するオリジナル番組「女優は語る 秋吉久美子 前編」が2月4日(水)朝10時15分からオンエア。映画評論家の樋口尚文を相手に、当時の撮影現場の空気感や自身の死生観まで包み隠さず語り尽くす。

さらに2カ月連続企画ということで、3月には「異人たちとの夏」「妹」「挽歌」「インターミッション」「女優は語る 秋吉久美子 後編」が待ち構えている。

秋吉久美子という女優は時代と共に形を変えながら常にその中心に居続けた。かつて映画情報サイトのインタビューで、彼女は「女優という仕事が好きということでもないんですよね」とも語っている。「携わったものを最大限の効果として終わらせたい」と自身が持つ女優論を明かし、改めて自然体の強さを見せつけた。

自然体だから等身大で、役としてだけでなく“人間の感情”をそのままカメラに映し出せる秋吉。秋吉が残した“1970年代そのままの空気”をリアルに味わえる名作映画たちを、令和のいまだからこそ振り返ってみるのもいいだろう。

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