ウィットに富んだラブソングの使い方
17歳からMVを制作しているシャンクス監督。本作『トゥギャザー』では音楽も非常に重要な役割を果たしている。予告映像に使われているザ・タートルズの「HAPPY TOGETHER」をはじめ、劇中にはゴールデン・スーツの「You and nobody else」「Another one」といった楽曲が使われ、情景と音楽が密接に絡み合う。
その最たるものは、スパイス・ガールズの「2 Become 1」だ。 使用許可も取れていないのに脚本段階から楽曲使用を決め込んでいた、シャンクス監督肝いりの曲だ。
「スパイス・ガールズは脚本の段階から決め込んでいました。脚本にも『ティムがこう言う、ミリーがこう言う、そしてスパイス・ガールズがこう言う』というように、登場人物のひとりとしてびっしり書き込んでいたんですが、その時点では権利は取得していなかったんです。映画は低予算だったので、音楽の権利金に割ける予算はまったくと言っていいほどなかった。でもどうしても使いたくて悩んでいたら、主演のデイヴ・フランコとアリソン・ブリーがそのためのお金を出してくれたんです。それでようやく権利取得に向けて動き出しました。楽曲を使用するシーンの撮影日の前夜に正式な使用許可が下りて心底ほっとしました。でももし許可が下りなかったとしても撮影は続行しようとしていたんです(笑)」
デビューアルバム「Spice」に収録されている、このクリスマスソングには2通りのバージョンがある。ゲイのファンが多い彼女たちは、彼らファンに配慮し、”boys and girls go good together”という歌詞を、シングルでは”love will bring us back together” と一部変更した。この後、歌詞は”Take it or leave it”と続く。
「Wannabe」でデビューし世界を席巻したイギリス出身のガールズ・グループ、スパイス・ガールズのデビューアルバムは、ミリーの一番好きなレコードとして本編のクライマックスに登場する。ティムとミリー、2人の決断は、一体いかなるものになるのか。ぜひ劇場で確かめてほしい。
愛は気持ち悪い?
本作『トゥギャザー』は愛をテーマにしたホラーだ。だが愛を描いたホラーなのか、怪奇で描いたラブストーリーなのか、観るものによって判断が別れると思う。
ティムとミリーの肉体がくっついて、その一部を剥がすときに痛みを伴う。いわゆる引き裂かれる痛みであり、同時に初体験の痛み、愛(エロス)のメタファーだ。「交わり」と「目合い(まぐあい)」という日本語がある。ともに性行為を表す言葉だが、「目合い」は、互いの目を見ることから由来し、契りを結ぶことを意味する。彼らはただ交わるだけなのか?
心と肉体が一致しない。しばしば愛情表現や官能表現で用いられがちな言葉で、そんな感覚に陥ったことがある人もいるだろう。しかしながら、本作以上に身を引き裂かれる痛みを感じることはないはずだ。
近年、アカデミー賞、ゴールデングローブ賞、カンヌ国際映画祭などの賞レースで話題をさらった『サブスタンス』をはじめ『TITANE/チタン』などボディー・ホラーが再び注目を集めている。これについて、シャンクス監督はこう述べている。
「私がなぜボディー・ホラーに惹かれるのかというと、“自分の内面を救う物語”だからだ。例えばスラッシャーものなどは外に敵がいるので、襲ってくるジェイソンやモンスターから逃げることができますが、ボディー・ホラーは自分の体内の問題だから、逃げられないという怖さがあります。誰でも大きな病気になったり、ウイルスが体内に入ってきたりすることに恐怖心があると思います。自分が肉体の変容を求めることもあれば、肉体に裏切られることもある。私たちは自分の肉体とどう付き合っていったらいいのかというのは永遠の問題です」とボディー・ホラーを世の根底にあるものだと定義している。他者と引かれ合うが異物が肉体に入るという恐怖は拭えないのだ。
前出の通り、本作ではセリフはラブストーリー、スクリーンはホラーという描かれ方をしている。ある意味、愛情表現というものは、カップル当人同士以外には、気持ち悪いものに映っているという皮肉なのかもしれない。
シャンクス監督がパートナーとの関係性から紡いだ本作。物語の主人公である、ミリー役のアリソン・ブリーとティム役のデイヴ・フランコは、実生活でもパートナーだ。『トゥギャザー』は、監督、演者が大切な人を想い作り上げたホラー作品である。もしあなたに想い人がいるなら、物申す恋愛系インフルエンサーの動画を流すより本作を観た方が、自分も相手も理解が深まるかもしれない。なによりホラーファンをはじめ多くの方々に広く観てもらいたいのだ。悪趣味と思われるかもしれないが、ぜひ”パートナー”との鑑賞をオススメする。
文 / 小倉靖史
映画『トゥギャザー』
長年連れ添ってきたミュージシャン志望のティムと小学校教師のミリーは、住み慣れた都会を離れ、田舎の一軒家に移り住む。ところが森で道に迷い、不気味な地下洞窟で一夜を過ごした直後から、ふたりの穏やかな日常が暗転する。ティムは突然意識が混濁し、身体が勝手に暴走する奇妙な症状に悩まされ、気持ちがすれ違いがちだったミリーとの関係が危うく揺らぎ出す。やがて、その異変はミリーの身にも勃発。目に見えない磁力に引き寄せられるかのように互いを求め合うその想像を絶する現象は、ふたりが一緒に育んできた愛と人生すべてを侵蝕していくのだった‥‥。
監督・脚本:マイケル・シャンクス
出演:アリソン・ブリー、デイヴ・フランコ
© 2025 Project Foxtrot, LLC
配給:キノフィルムズ
2026年2月6日(金) TOHOシネマズ 日比谷他ロードショー
公式サイト together-movie
