☆涙のラストマウンド
まだ夏の暑さが残る清水のグラウンド。46番を背負いし左腕が、現役生活ラストのマウンドへ向かった。スタンドからの拍手に歓声、また歴代のタオルやユニホームが掲げられる中、田中健二朗は貫禄の2奪三振の三者凡退で最後の真剣勝負を終えた。中継ぎとしていつものように任務を全うし、ベンチに帰る田中。いつもと違ったのは、その勝ち気な目が赤く潤んでいたことだけだった。
2007年の選抜で常葉学園菊川高のエースとして優勝に導くと、2008年には高校生ドラフト1巡目で横浜ベイスターズに入団。主に中継ぎとして長年ブルペンを支え続けていたが、23年に構想外となり24年にくふうハヤテベンチャーズに活躍の地を求めた。2年間NPB復帰を目指して結果も残していたが、残念ながら吉報は届かず、今季限りでの引退を決意した。
しかし引退セレモニーの第一声が「めちゃくちゃ正直なことを言うと、まだまだ投げたかったし、まだまだ勝負の世界にいたかったし、大好きな野球をやり尽くしたかったです」だったことからも、本心ではまたあの輝く場所で腕を振りたかったとの思いも滲ませた。
☆産まれたばかりの「くふうハヤテ」に残した財産
NPBへ戻る。明確な目標があったが故、今季がラストチャレンジと自身で期限を決めた田中。時間の制限もある中で、自身のブラッシュアップにフォーカスすることは当然の取り組みとなる。
だが田中健二朗という男には“求心力”がある。ベイスターズ時代から若手に慕われ、今年ブレイクした宮城滝太も「健二朗さんの分まで頑張らないと」と言葉に力を込めるなど、未だにその影響力は絶大。その力は、くふうハヤテでも発揮されていた。
くふうハヤテベンチャーズ静岡の誕生時に「最初に声をかけさせてもらったのが田中健二朗選手でした。どうしても来てもらいたかったんです」と池田省吾社長が明かすように、野球の実力はもちろん、その他の部分も含めた彼の力は、産まれたての球団には必要だった。そしてその存在は、やはり大きかった。
赤堀元之監督も「ハヤテのために投球してくれましたし、後輩たちの楯になって、いろいろなことをアドバイスしてくれていた部分もあります。自分がやれば下も付いてくるというイメージですかね」とプロの生き様を背中で見せていたと回想。一線級で投げ続けてきた気構えを間近で感じられたことは「若い選手にとっては全然違ったと思います」と大きな刺激になったと頷いた。
またセレモニーでも「ベイスターズ時代からの仲間がいてくれたからこそ、しんどいときも乗り越えられましたし、楽しく野球ができました」と田中の口から名前の出た2人も敬意を表す。
まず藤岡好明選手兼投手コーチは「後輩たちにすごく慕われていましたね。タイガースに行った早川(太貴)はすごく慕っていて、それが元でいまも順調に野球人生が送れていますから」と今シーズン2勝をマークしている右腕を例に、その実績を語る。「他にもすごく丁寧に接してくれて、それがいまのチームの仲の良さにもつながっています。ハヤテにとってすごくいい2年間になったなと思いますね」と好循環を生む原動力になってくれたと労った。
もうひとり同じ左腕でもあり、目に涙を溜め最後のピッチングを見つめていた池谷蒼大も「この2年間は一緒にいる時間が多かったですし、健二朗さんの本音を、腹を割って話してくれたこともありました」と濃厚な時間を過ごしたと告白。「12球団に戻る気持ちが、他のどの選手より強いなと本当に思いました。食事をして楽しい話を交えながらも、常に野球のことを考えている方だなとわかるような会話が多かったですね」と、その姿勢を振り返り「僕自身今年スピードが上がったんですよ。それも身体の使い方、体重移動の仕方を教えて頂いたからです」と公私にわたり世話になったと頭を垂れた。そのうえで「12球団を目指して頑張ります。健二朗さんはまだ投げたい気持ちがある中での引退だったので、僕はその分も後悔なく終われるようにやっていきます」と宣言。先輩の目指したあの場所へ帰ることが恩返しになると、言葉に力を込めた。
☆2本立ての野球人生
なかなか芽の出なかった時期、師と慕う木塚敦志コーチとの二人三脚の努力で上に登り、トミー・ジョン手術からの厳しいリハビリからの復活劇。嵐のような18年間は、己に厳しく、他者に優しい時間だった。
自分には「とにかく野球がうまくなりたい。勝ちたい。抑えたい。その気持は怪我で投げられなかったときも、成績が出ないときも、2年連続60試合以上投げているときも、常にその気持を持ち続けていました」と向上心から、己を磨き続けた。
反面、「僕は年齢とか実績とか成績関係なく、みんなが常にレベルアップできるようにと思っていました。アドバイスを求められるっていうのはすごく大事なことだなって思っていたので、そこは心がけてやってきたつもりでした」とチームメイトには優しく接した。
藤岡コーチも称えていたことに「そういう風に感じて言ってもらえたんなら、僕はほんとによかったなって思います。ここに来れてよかったです」と表情を崩した。
池谷投手には「僕は何も教えていないですよ」と謙遜しつつ、「僕の姿を見て、何か彼なりに感じ取って今日までやってくれたと思う」と評価も忘れない。続けて「また来年新しい選手が来ると思います。そういう子たちに、同じというわけじゃないですけど、過ごしやすい環境っていうのを作ってあげていってほしいなっていう風に思います」と自身が作った土台を、受け継いでほしいと願っていた。
「自分が立てた目標に向かって本気で努力していく。そういった集団になっていってもらいたいです」。産まれたばかりのベンチャーズに植え付けられた“健二朗イズム”は、この先も清水の地に継承され続けていく。
取材・文●萩原孝弘
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