
世界的アクションスターにして、詠春拳の達人として知られるドニー・イェン。その原点は、少年時代に観たブルース・リー映画との出会いにあった。ブルースの精神性に強く惹かれた彼はやがて、「イップ・マン」シリーズと運命的な邂逅を果たし、ブルースの師であるイップ・マンを演じることになる。イップは弟子たちに中国武術を教え、真の武術家としての心得を伝えた伝説的な人物だ。彼の技術と精神は、「イップ・マン」シリーズにも色濃く反映されている。BS12 トゥエルビ(BS222ch※全国無料)では「ドニー・イェン特集」と題し、「イップ・マン 継承」(2月6日[金]夜8:00~) ほか3作品を放送。ドニーの代表作となった「イップ・マン」シリーズを軸に、彼の洗練されたカンフー・アクションと、ブルースから受け継いだ精神性に迫っていく。
■ブルース・リーに憧れた少年が30年後に叶えた夢
「イップ・マン」シリーズ4部作を筆頭とする香港アクション映画や、「ローグ・ワン/スターウォーズストーリー」「ジョン・ウィック:コンセクエンス」などのハリウッド映画で、世界的アクションスターとして抜群の知名度を誇るドニー・イェン。その原点は、伝説の武術家ブルース・リーにある。
11歳で中国からアメリカ・ボストンに移住したドニーは、チャイナタウンの映画館でブルース・リーの映画に触れ、ブルースの黒い中華服やサングラスを身につけて登校するほどに心酔。母親が武術家だった影響もあり、北京で武術を学んだのち、香港で俳優として歩み始める。
俳優としての転機となったのが、ブルース・リー主演の「ドラゴン 怒りの鉄拳」をリメイクしたテレビドラマ「精武門」(1995)だ。ドニー自身の持ち込み企画だった同作は、ドニーの渾身のアクションも好評を呼び、50を超える国と地域で視聴される大ヒット作となった。
そして2008年、映画「イップ・マン 序章」で主演に抜擢されたドニーは、ブルースが唯一師匠と認めたイップ・マンを演じることになる。45歳という年齢を感じさせない切れ味鋭いアクションと、ブルースの精神性を体現するようなイップの生き様は、アジアの人々を熱狂させた。

■洗練された動きにカンフーの神髄を見る
「イップ・マン」シリーズは、詠春拳の達人であるイップ・マンの生き様と、誇りや人々を守るための闘いを描く4部作。その3作目「イップ・マン 継承」(2016)では、無法地帯と化しつつある香港で、裏社会の不動産王フランク(マイク・タイソン)から町を守るためにイップが立ち上がる。
ボクシングの元世界ヘビー級統一王者であるタイソンは、いかつい風貌と冷徹な表情でボスの貫禄たっぷり。イップと死闘を繰り広げる場面では、現役時代を彷彿させるフットワークと重量感あるパンチを繰り出し、柔と剛ともいうべき名勝負を見せてくれる。
シリーズ最終作「イップ・マン 完結」(2019)は、サンフランシスコが舞台。華人への偏見渦巻く異郷で、中国武術を軽んじる者たちの存在を知ったイップは、病に侵されていることを隠しながら、人々の誇りと未来を守るべく最後の闘いに挑む。
シリーズを通じて目を奪うのが、ドニーの洗練されたカンフー・アクションだ。例えば、「イップ・マン 継承」で裏社会の男11人と闘う場面では、無駄の一切ない動きで男たちの攻撃をかわし、拳で、あるいは相手から奪った武器で、流れるように男たちをなぎ倒していく。こうしたアクションを息も上がらずにこなすのだから驚くほかない。
一方、「イップ・マン 完結」ではイップの弟子ブルース・リー(チャン・クォックワン)も、異郷の武術家を相手に痛快なカンフー・アクションを見せる。斜めに構えて軽やかにステップを踏み、痛烈な蹴りやヌンチャクによる打撃を繰り出すさまは実に痛快。鼻を撫でるような独特のしぐさも、本家ブルースを彷彿させ胸を熱くさせてくれる。
■出演作を通じてブルースの精神性を体現
ドニーは過去にメディアを通じて、ブルースから精神性の部分を学んだと語っている。自分を信じ続け、民族の垣根を越えて夢を追いかけることのできる世界を作りたい。ブルースが終生伝え続けたメッセージを、ドニーもまた、出演作を通じて全世界へ発信しているのだ。
実際、「イップ・マン」シリーズにおけるイップは、弱きを助け強きをくじく人格者である。人々から“イップ師匠”と親しまれ、清貧を旨とし、助けを求める人がいれば手を差し出すことをいとわない。そんなイップを演じるドニーの姿には、ブルースと彼の師であるイップへの強いリスペクトが感じられる。
一方で、人助けに奔走するあまり妻との約束を忘れて怒らせ、反抗期の息子に無視されるような人間臭さも、イップの魅力といえる。機微に富んだ表情演技と流麗なアクション、そしてブルースに対するリスペクトを併せ持つドニーでなければ、イップを演じ切ることはできなかったのではなかろうか。
30代中盤にして遅咲きのアクションスターとなり、50代でハリウッドスターの仲間入りを果たしたドニー。“宇宙最強”と称される男だけに、還暦を過ぎた現在も意気軒高で、俳優業のみならず監督としても活躍している。衰えを感じないドニーの雄姿は、観る者全てに勇気と自信を与えてくれることだろう。
BS12 トゥエルビでは2月6日(金)より、「イップ・マン 継承」「イップ・マン 完結」「レイジング・ファイア」の3作品を3週連続放送。ブルースの魂を受け継ぐ、ドニーのアクションと唯一無二の存在感をその目に焼きつけてほしい。
◆文=帆刈理恵(スタジオエクレア)


