ポール名義初のベスト『オール・ザ・ベスト』

それから少し経った頃、西新宿のウッドストックで『サムウェア・イン・イングランド』のレコードを見つけた。同作は81年5月にリリースされたジョージのソロだが、そもそもは80年暮れに発売が予定され、音もジャケも完成し、宣伝も始まっていたにもかかわらず、ジョンの死によって延期、内容もジャケも一新されたという経緯があった。このとき見つけたレコードは改訂前の海賊盤。『セッションズ』以降の海賊盤マーケットは、高品質のレコードが続々とリリースされていたが、この『サムウェア』も同様にジャケの印刷、盤質、音質もよく、まるで正規盤のような代物であった。
オリジナル『サムウェア』の特徴であり、魅力は、なんといってもジャケにある。ジョージの横顔の後ろ髪がイングランドの地形の形をしているという斬新なデザインには、最初に『ダブル・ファンタジー』帯裏の告知で見たときから惹かれていたから、改訂版を見たときは心底がっかりしたものであった。だからこそ、この海賊盤を見たときは歓喜し、手に取ってすぐにレジに持って行った。ちなみに藤本国彦さんはこのレコードを82年12月8日、ゲットバックの開店セール(3800円→800円)で買ったとのこと。盤自体はかなり前から出回っていたらしい。
収録曲についても、改訂版には入っていない「サット・シンギング」のような名曲もあって、なぜこれが外されたのだろうかと、複雑な気持ちになったものである。この「サット・シンギング」はジョージの豪華な著作の付録に付いたCDに収録されているが、公式にはそれでしか聴くことが出来ない、なんとも不遇な曲といえる。
最後に映画『ウィズネルと僕』に触れておきたい。ジョージが興した映画会社ハンドメイド・フィルムズによって、87年に製作されたこの作品は、60年代後半のロンドンを舞台に描かれたほろ苦い青春もの。いかにもイギリス映画という風合いの空気感が、一部ファンの間で絶大な人気を誇るカルト的作品だが、リアルタイムでは知らず、91年の日本公開時にも観ることはなかった。しかし、その後知り合った森川欣信さんからこの映画がいかに傑作であるかを力説され、後半「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」が流れるということを聞いてから俄然興味を持ちだした。
情報を探したのだが、リバイバル上映もソフト化も気配がなく、ようやく観ることが出来たのは2014年、吉祥寺バウスシアターでの閉館記念上映であった。十年以上越しの念願に、初日朝一で観に行った思い出がある。
