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「こんな山の中で長年暮らしてきた俺が街場のアパートに暮らせるわけがねえだろ」原発事故によって壊されてしまった村に戻り、生活する70歳の老人の生き方からわかること。「この風景は私」という世界観

「こんな山の中で長年暮らしてきた俺が街場のアパートに暮らせるわけがねえだろ」原発事故によって壊されてしまった村に戻り、生活する70歳の老人の生き方からわかること。「この風景は私」という世界観

土地に縛られて生きる意味

青木 そう考えると、避難指示が解除された村に戻り、従前通りの暮らしを再開した古老の判断も、主体的な選択肢として排除されるべきではないと。

藤原 はい。その判断を僕たちはできないし、そういう行政指導も意味をなさないのではないかと思っています。繰り返しますが、私たちは土地に制限されてしか生きていけないんです。今は土地に制限されなくても生きていける夢のようなフィクションを抱かされて、みんな移動しまくっていますよね。でも、もうこんな時代は例外で、恐らくもうすぐ崩壊すると思う。基本は土地に縛られること。いい意味で土地に縛られることでしか生きていけないとも、と思います。

青木 なるほど。

藤原 それが失われたから、今、いわゆる「環境問題」が起きているわけです。土地に縛られないという生き方を発見した人間は、自由を勝ち得た。これは否定できませんが、移動の自由によって欲望は無限にあらわれるようになる。世界中を探しまくって、こんな食べ物もある、あんな食べ物もあると言って、それを1か所に集めて売ったり、投機したりする。僕はこれを食権力と呼んでいるんですが、食権力の中でどんどん人間が飼いならされて統治されていくんですね。しかし、それをやってきたから、物がたくさん捨てられて飢餓が発生しているわけです。

そうではなく、食べ物は、本来自分の土地との関係性の中でしか手に入らない、関係する人間及び自然との関係の中でしか口に入らないものとする原理からいえば、外からそれを壊すべきじゃない。だから軽々しく、危険があるからしっかり測れとか、食べないほうがいいと言うべきではないと思う。

青木 先ほど申しあげた通り、僕が親しくなった老人自身もそうしたことは十分にわかっているんです。今作でも記しましたが、自分は高齢だから戻ってきて従前と同じ生活を再開しているけれど、小さな子どもや若い連中には難しいだろうなと、一方で彼はそう漏らし、眼に涙を溜めたりもしていた。同じようなことは、他の村人からも聞きました。実際、原発事故前は6000人余りいた村の居住者は、いまに至るも1500人ほど。いわゆる「帰還率」は20%少々にとどまり、多くは高齢者とみられています。

命をないがしろにする国策

青木 ですから、長年にわたって村人たちが必死に育んできた土地と食の関係を、根本から破壊してしまった原発という国策の罪はあまりに大きく、あらためて僕は立ちすくんでしまうのです。藤原さんの言うように、切っても切り離せない土地と一体化した人びとの暮らしを、近代化された現代では稀少ともいうべき営みを、一瞬にして無惨に奪い去ってしまったのですから。

藤原 同感です。そしてそれは原発だけにとどまらない。青木さんが力を入れてお書きになっているところなので、あまり詳しくは明かしませんが、文雄さんの過去をたどるうちに、原発から先の大戦へと話が飛んで、硫黄島の凄絶な描写が出てきます。え、なぜ突然硫黄島?と驚きました。ここは取材対象が青木さんを引きずり込んだとしか思えません。

青木 まさにそうです。立ちあらわれてきた、という感覚を抱きました。

藤原 硫黄島に少しだけ触れると、そこは水がない離島です。離島って、水がある島とない島でまったく違っていて、例えば、水の少ない小豆島では水田ができない代わりにサツマイモがよく取れる。隠岐の島の海士町などは、ちっちゃい離島なのに地下水が湧くので、水田ができる。離島においての、水のあるなしは、決定的なものなんですね。この戦場になった硫黄島は、決定的に水がない。そこに何万もの兵士が投入されたわけだから、その苦悩は想像を絶するものだったと思います。喉の渇きと栄養失調の中で、多くの人が亡くなっていったわけですね。しかも敗戦を待つばかりの時間稼ぎの中で…。

こうして若い人たちの命をないがしろにしていく目線と、福島で起こった原発事故で、人々の暮らしを根元から破壊しておきながら、「直ちに、健康被害はない」と発表する政府の目線は一緒ですよね。意図せず、その国策の在り方を重ねられたのは、やはり死者の導きかなという気がします。

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