
スウェーデン・カロリンスカ研究所(Karolinska Institutet)の47年にわたる追跡調査で、私たちの身体能力は想像よりも早い段階でピークを迎えていることが明らかになりました。
しかもそのピークは、運動習慣の有無にかかわらず、ほぼ共通して訪れるというのです。
研究の詳細は2025年11月16日付で学術誌『Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle』に掲載されています。
目次
- 身体能力のピークは「30代前半」にやってくる
- 避けられない低下、それでも運動は無駄ではない
身体能力のピークは「30代前半」にやってくる
この研究では、スウェーデンで1970年代から同じ人々を追跡してきた縦断データを用い、16歳から63歳までの身体能力の変化が詳しく分析されました。
対象となったのは、アスリートではない一般集団です。
その結果、有酸素能力(心肺機能)と筋持久力は、男女ともに26〜36歳の間でピークを迎えることが分かりました。
いわゆる「体が一番動く時期」は、40代以降ではなく、多くの人にとって30代前半までに訪れていたのです。
一方、瞬発的な力を反映する筋パワーでは、さらに早いピークが確認されました。
男性は20代後半、女性では10代後半に最大値を示し、その後は徐々に低下していきます。これらの結果は、身体能力の種類によってピークの時期が異なることを示しています。
重要なのは、これらの傾向が「一部の人」ではなく、一般集団全体に共通して見られた点です。
エリートアスリートの研究から示唆されてきた「若いうちにピークを迎える」という構図が、私たちの日常レベルでも当てはまることが、初めて長期データで裏付けられました。
避けられない低下、それでも運動は無駄ではない
ピークを過ぎた後、身体能力はすぐに急落するわけではありません。
研究によると、30代後半以降の低下は当初は緩やかで、年間0.数%程度にとどまります。しかし年齢を重ねるにつれて低下速度は加速し、高齢期には年間2%以上に達する場合もありました。
63歳時点では、ピーク時と比べて身体能力が30〜50%近く低下している人も珍しくありませんでした。
注目すべき点として、この「低下の速さ」には男女差がほとんど見られなかったことが挙げられます。
では、運動は意味がないのでしょうか。
結論は明確に否定されています。
確かに、身体能力がピークに達する年齢そのものを大きく遅らせることは難しいと考えられます。
しかし、運動習慣は「(身体能力が)どの高さまで到達するか」と「どれだけゆっくり衰えるか」に大きく関係していました。
若い頃から活動的だった人は、生涯を通じて高い身体能力を維持していました。
さらに、成人後に運動を始めた人でも、体力や筋力が約1割向上するケースが確認されています。つまり、始めるのが遅くても、確実に意味はあるのです。
ピークを知ることは、衰えを恐れるためではない
今回の研究は、「人はいつ衰え始めるのか」という不安をあおるものではありません。
むしろ、身体能力のピークを正しく知ることで、これからの付き合い方を考えるための材料を与えてくれます。
ピークは思ったより早く訪れますが、その後の落ち方は生き方次第で大きく変わります。
体を動かす習慣は、衰えを止める魔法ではありませんが、確実にそのスピードを緩めてくれるのです。
「もう遅い」と感じたときこそ、体を動かし始める意味があるのかもしれません。
参考文献
47-Year Study Reveals The Age We Hit Our Physical Peak
https://www.sciencealert.com/47-year-study-reveals-the-age-we-hit-our-physical-peak
元論文
Rise and Fall of Physical Capacity in a General Population: A 47-Year Longitudinal Study
https://doi.org/10.1002/jcsm.70134
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

