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シーズン最終18試合で5勝13敗、それでも世界一3連覇達成――2000年ヤンキースが教えてくれる「プレーオフの真実」<SLUGGER>

シーズン最終18試合で5勝13敗、それでも世界一3連覇達成――2000年ヤンキースが教えてくれる「プレーオフの真実」<SLUGGER>

10月1日(現地)から、いよいよポストシーズンが始まる。ドジャースは2年連続ワールドシリーズ優勝を目指して10月の舞台に臨むが、世界一の本命に挙げる声はあまり聞かれない。最後の20試合で15勝と調子を上げてきたとはいえ、ブルペンは相変わらず不安定。プレーオフのシード順位は3番手で、ワイルドカード・シリーズからスタートとあっては、そのように見られるのも仕方ない。

 けれども、ポストシーズンでは何が起こるか分からない。ギリギリでプレーオフにたどり着いたチームが、ふとしたきっかけで勢いに乗って最後まで駆け上がる――ということもしばしばある。

 何を隠そう、MLBで最後にワールドシリーズ連覇を果たした2000年のヤンキースがまさにその典型だった。

 1998~99年に2年続けてワールドシリーズを制し、2000年も本命視されていたヤンキースは、6月までは勝率5割前後だったが夏場に抜け出し、9月13日時点では地区2位レッドソックスに9ゲーム差をつける余裕の展開だった。

 ところが17日から6連敗、さらに25日から閉幕までも7連敗を喫し、最終18試合では3勝15敗。うち7試合は2ケタ点差をつけられた。何とか29日に地区優勝を決めたものの、プレーオフ出場チームがこれほど酷い状態でレギュラーシーズンを終えた例は、過去になかった。年間871得点はリーグ6位、防御率4.76も同じく6位。87勝はアメリカン・リーグのプレーオフ進出4球団で最少、ワイルドカードを逃した中地区2位のインディアンスよりも低いほどだった。 どうしてこうなってしまったのか? チームリーダーのデレク・ジーターは「9月に入る頃には、さっさとプレーオフになってほしいと僕らは思っていた」と、心あらずの状態で終盤を戦っていたと告白している。中継ぎ投手マイク・スタントンの発言も「それまでのように、闘争心旺盛で試合には臨んでいなかった」と似たようなもの。勝ち慣れたチームならではの油断が思わぬ苦境を招いたのだった。

 地区シリーズでも苦戦は続いた。対戦相手のアスレティックスは、9月に21勝とヤンキースとは対照的に絶好調でプレーオフに突入。初戦はエースのロジャー・クレメンスを立てるも6回4失点で逆転負けを食らい、続く2試合は連勝したが、第4戦もクレメンスが5回6失点と打ち込まれて1対11で大敗した。初回に6点を先制した第5戦も、この年19勝のアンディ・ペティットが4回途中KO。7対5で辛勝し、どうにかリーグ優勝決定シリーズに駒を進めたものの、投手陣の崩壊状態は改善されておらず、見通しが明るいようには思えなかった。

 だが、マリナーズとのリーグ優勝決定シリーズは、初戦こそ完封負けしたものの、第4戦まで4試合連続2失点以下と投手陣が立ち直った。第5戦に敗れ、第6戦も4点を先制されたが、今度は打線が奮起する。3点を返して1点差で迎えた7回裏、デビッド・ジャスティスの3ランで逆転。ブライアン・キャッシュマンGMが「あれほどヤンキー・スタジアムが大騒ぎになったのを見たことがなかった」と振り返った一撃などで一挙6点を奪い、8回途中からはマリアーノ・リベラが締めて、ア・リーグでは26年ぶりの3連覇を達成した。
  ワールドシリーズは、同じニューヨークを本拠とするメッツとの“サブウェイ・シリーズ”。ボビー・バレンタイン監督率いるメッツは、レギュラーシーズン94勝はヤンキースを7勝も上回り、地区シリーズとリーグ優勝決定シリーズも1敗ずつで勝ち抜いていた。

 だが、そのメッツでもすでに最悪の状況を抜け出していたヤンキースを止めるのは難しかった。

 初戦は1点を追う9回裏、チャック・ノブロックの犠飛で同点に追いつくと、延長12回裏にホセ・ビスカイーノがサヨナラタイムリー。第2戦ではワールドシリーズ史上屈指の珍場面が発生する。初回、メッツの3番打者マイク・ピアッツァの折れたバットを、先発のクレメンスがピアッツァに向かって投げつけるという異常な行動に出たのだ。クレメンスはシーズン中の対戦でも、ピアッツァに対して故意と疑われる頭部死球を当てていたのだが、それでも退場にならず、8回を無失点に抑えてヤンキースが連勝、96年から続くシリーズでの連勝を14に伸ばした。

 メッツの本拠シェイ・スタジアムに舞台を移した第3戦は敗れたものの、第4戦はジーターの先頭打者本塁打などでシリーズ3度目の1点差勝利。そして第5戦、2対2で迎えた9回表に伏兵ルイス・ソーホーのタイムリーで勝ち越すと、その裏はリベラが抑え、ついに3年連続26回目の世界一を成し遂げた。

 5試合で9安打を放ち、シリーズMVPに選ばれたジーターは「これ以上に満足いく結果はない。シーズン中、あれだけ苦しんだんだからね」。強面のジョージ・スタインブレナー・オーナーまでもが、優勝トロフィーを手渡された際に涙を流していた。苦難の時期を乗り越えての3連覇には、そのくらい感慨深いものだったのだ。
 
 アスレティックス、マリナーズ、メッツのいずれもレギュラーシーズンの勝率はヤンキースを上回っていた。その3チームを撃破しての世界一とあって、日本だったら「さすが勝ち方を知っているチームは短期決戦に強い」などと言われていただろう。メッツの投手アル・ライターも同じようなことを言っていたし、キャッシュマンGMも「精神的にタフで、勝利を渇望する選手たちが揃っていた。不調の時期はあっても、一番大事な10月に実力を出せたんだ」と当時を振り返っている。

 もちろん、大舞台での勝ち方を知る選手たちが土壇場で本領を発揮した、という一面もあっただろう。だが、それだけでは9月の急失速はとても説明がつかない。

 むしろ、2000年のヤンキースが示しているのは「レギュラーシーズンとポストシーズンは別物」である、ということだ。「100%運」と決めつけるのは言い過ぎだとしても、10月に入ればそれまでの戦いは良くも悪くも一度リセットされるのである。

 そう考えれば、ドジャースのブルペンがプレーオフに入って急に安定感を取り戻したとしても、まったく不思議はない。最後に連覇を達成したチームの軌跡がそのことを何よりも雄弁に物語っているのだから。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。

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配信元: THE DIGEST

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