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英国ダガー賞受賞の『ババヤガの夜』と映画版『国宝』のヒットの秘密とは?

英国ダガー賞受賞の『ババヤガの夜』と映画版『国宝』のヒットの秘密とは?

世界が求める日本文化=ジャパニーズヤクザ?

『ババヤガの夜』と映画『国宝』には、日本の古典的ヤクザが登場するという共通点もあります。

強力な上下関係・しきたりに縛られた、ある意味「家族よりも家族らしい」結束を重視するヤクザの世界。上司を「親父」、先輩を「兄貴」と呼ぶことにあらわれる直情的な人間関係。体のパーツを切断する等の肉体的折檻で誓いや報いを表現する単刀直入さ。

海外作品でもイタリアンマフィアを描いた『ゴッドファーザー』シリーズが根強く人気があるように、ドラマティックな“裏社会モノ”が、ある種の分かりやすいエンタメとして大衆に喜ばれる傾向があるのは事実。

『ババヤガの夜』では、“囚われの姫”である尚子を古風な大和撫子として描くことで、暴力的な世界に美しいベールを重ねることに成功。映画『国宝』では冒頭、日本家屋を舞台とした切った張ったの乱闘シーンで、永瀬正敏演じる喜久雄の父が幻想的な雪景色の中で殺されるさまが、一幅の絵のように妖艶に描かれました。

こういった非常に日本的・耽美的なヤクザの描き方が、「世界が期待する、ジャパニーズヤクザのオリエンタルなイメージ」にがちっとマッチしたのではないでしょうか。

まだるっこさは完全排除!物語の圧倒的スピード感

最後に触れたいのは、2作品に共通する「構成力」の高さ。言葉を選ばずに言えば、「ショートカット力」の高さです。

『ババヤガの夜』は、文庫版で200ページ弱。盛り込まれたテーマの豊富さ(裏社会もの・ミステリー・LGBTQ……)からすると驚くほどの短さです。これを、舞台となった暴力団の成り立ち、尚子の両親のなれそめ、依子の兄貴分となる柳の過去などをもっと膨らませれば、倍以上のボリュームの「骨太の長編大作」とすることも可能だったのではないでしょうか。

しかし、この短さとスピード感が、本作がここまでヒットを飛ばしている理由の一つになっているのかも。

生粋の本好きの中には、「物語の細部を丹念に書き込んでほしい」「長ければ長いほど嬉しい」と考える人も少なくありませんが、テンポよく一息に読み切れて、リアルな暴力シーンや謎解きのどんでん返しなどの「美味しいところ」がもったいぶらずに次々と差し込まれる構成力が、より多くの読者を呼び込んだのかもしれないと思いました。

一方、映画『国宝』はその上映時間の長さ(約3時間)が公開当初から話題になっていました。

口コミサイトでも鑑賞中に水分を取り過ぎないように注意するコメントが盛んに登場するほどでしたが、実は、原作となった小説は文庫本上下巻で計800ページ超を誇る超大作。事前に小説を読んでいた人たちからすると、むしろ「あの長編をどうやって3時間に収めるんだろう?」「前後編に分けた方がいいのでは?」と心配していたほどだったのです。

実際、映画版では喜久雄の長崎時代からの相棒・徳次のストーリーや、喜久雄による仇討の顛末、喜久雄と俊介それぞれの転落時代のあれこれなどは、大幅にカットされていました。

しかしこの取捨選択とストーリーラインの整理・そして俳優の演技や美術が非常に巧みであったがゆえに、映画を観た人が小説を読むことで行間に隠されていた物語を知って興奮したり、文章から想像していた世界をはるかに上回る鮮やかなビジュアルに圧倒されたりという事象が起きています。メディアミックスの面白さここに極まれりという感じでしょうか。

難解さ・複雑さも一つの面白さですが、国境や世代を超えて広がっていくエンターテインメントには、「分かりやすさ」「程よいボリューム」というのが大きなポイントになるのでしょう。

『ババヤガの夜』と映画『国宝』。世界規模で未曽有の大ヒットを飛ばしているに作品の秘密は、「描かれる“血”とテンポの、圧倒的な鮮やかさ」なのではないでしょうか。

配信元: パラナビ

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