大会第1シード対、第2シードの頂上決戦――。2025年のジャパンオープンテニスは、多くのファンにとって、これ以上望めぬ好カードが実現した。しかも第1シードは、世界1位のカルロス・アルカラス(スペイン)。第2シードは、5位のテイラー・フリッツ(アメリカ)。2人の実力者が、額面通りの力を示した決勝進出でもある。
準々決勝のブランドン・ナカシマ(アメリカ/世界33位)戦後の会見で、アルカラスの表情は明るかった。
「素晴らしいプレーができた。コート上で何でもできる気がした」と自画自賛。実際にコートでは、見る者を熱狂させるスーパープレーのオンパレード。1回戦で足首を痛めるアクシデントもあっただけに、得た自信は大きかった様子だった。
準決勝のキャスパー・ルード(ノルウェー/同12位)戦でも立ち上がり、前日の調子は継続中に見えた。1ポイント目から、唸り声を上げ自慢のフォアハンドを叩き込む姿は、過去3試合とは異なる集中力の証し。相手のサービスではリターンからプレッシャーをかけ、自身のサービスでは、相手の深いリターンポジションを読み切り前の広いスペースを活用。ルードサービスの第5ゲーム、第7ゲームでも、ブレークポイントを手にしていた。
ただ、最後の1ポイントが取れない。それはルードの、周到なアルカラス対策ゆえでもあるだろう。なによりルードのプレーで際立ったのは、アルカラスのドロップショットへの対応。そしてクレー巧者らしい、アングルショットの活用。加えてサービスが絶好調だ。4度のブレークチャンスを与えたルードだが、その全てを凌ぐ。対するアルカラスは、苛立ちからか攻め急ぎも目立つようになる。その相手の心の乱れを突くように、ルードは第8ゲームでブレークに成功。第1セットはルードが、6-3で奪取した。
「精神面で難しかった。自分へのフラストレーションが溜まった」と、後にアルカラスは振り返る。ただ第2セットが始まる前、彼は負の側面をポジティブに解釈し、自分に声掛けしたという。
「4つのブレークポイントがあったのだから、自分のプレーは悪くない。粘り強くチャンスを生かしていこう」......と。
自分を落ち着かせるうえでも、大きかったのは第2セット早々のブレーク。6度目のチャンスをものにすると、そこからは試合を掌握していった。
プレー面で大きかったのは、サービスの向上だろう。第2セットだけでエース9本。初戦で痛めた左足首への不安があり「動きがぎこちなかった」というサービスを、試合前に念入りにチャックしていたという。第2セットを取り返したアルカラスが、第3セットもルードとの壮絶な打ち合いを制す。3-6、6-3、6-4の逆転で、本人いわく「とても厳しい試合」で勝利をもぎ取った。
そのアルカラスを、一足先に決勝の舞台で待っていたのは、ジェンソン・ブルックスビー(同86位)とのアメリカ対決を制したフリッツ。試合後の会見時には、インタビュールーム内のモニターに映るアルカラス対ルード戦に、時おり視線を送っていた。
ただ、「今から試合を視察するか」と問われたフリッツは、「見ないよ」と即答。
「試合前に、10分ほど見るくらいかな。僕は両選手と何度も試合をしているし、プレーも見てきた。それで十分だ」とも言う。
「2人のどちらが勝ち上がろうとも、攻撃的にいくことに変わりはない。もしキャスパー(ルード)なら、自分が攻めるべきタイミングを見計らう時間的余裕があるだろう。カルロス(アルカラス)なら、攻撃の手を緩めてはいけない。少しでも余裕を与えたら、一瞬で攻められてしまうから」
そのようにプランを簡潔に語るフリッツは、こうも続けた。
「今さら見る必要がないのは、僕はとても記憶力がいいからでもある。どんな展開だったかも含め、試合中のほぼ全てのポイントを覚えている。だから試合前の対策としては、それらを頭の中で再生し、少しの最新情報を加えてアップデートすればいい」
ビッグサービスと強烈なフォアを有し、ともすると相手を問わず自分のプレーに徹するタイプに見えたフリッツが明かす、知略家の一面。
なお両者の過去の対戦は4度で、アルカラスが3勝1敗でリード。ただアルカラスにとって唯一の敗戦は、わずか10日ほど前のレーバーカップで喫したものだ。
その対戦も踏まえ、フリッツの脳内データは、9大会連続でツアー大会決勝進出中のアルカラスをどう分析し、いかなる策を弾き出すのか?
答えは自ずと、今日(30日)の夜に有明コロシアムで示される。
取材・文●内田暁
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