2月8日に投開票を迎えた衆議院議員総選挙は自民党の大勝で幕を閉じた。「高市早苗が、内閣総理大臣でいいのかどうか、今、主権者たる国民の皆様に決めていただく、それしかない」。高市総理は1月19日の記者会見で、こう主張していた。
つまり、今回の選挙は高市政権に対して審判を下すという意味合いが強く、国民は高市総理を選んだわけだ。政権運営で今後最大のポイントとなるのが、「食料品にかかる消費税2年間ゼロ」の行方だ。
この減税策は自民党内でも意見が割れており、効果も財源も不明瞭なやっかいものである。
消費減税に期待して自民党に投票した人は肩透かしを食らう可能性も…
高市首相は、1月19日の会見で2年間の食料品にかかる消費税ゼロが「私自身の悲願である」と語った。
自民党が惨敗した2024年の衆院選は政治とカネの問題が争点だったが、2025年の参院選では景気・物価高対策へと国民の関心がシフトしていた。2026年の衆院選も物価高対策に関心が集まっている。選挙ドットコムの意識調査で重視する政策を聞いたところ、「物価高への対策」が32.3%でトップだった。「景気や雇用、賃金」の16.4%を大きく引き離している(選挙ドットコム「ハイブリッド意識調査」より)。
今回の選挙のような短期決戦の場合、わかりやすい政策を掲げて戦った方が国民の興味関心を引きやすい。高市首相は1月25日のフジテレビ「日曜報道 THE PRIME」の党首討論で、2026年度内に食料品の消費税をゼロにすることを示唆した。
トランプ大統領との早期の信頼構築やガソリン減税の迅速な実施など、スピード感を重視してきた高市首相らしい発言だ。
しかし、選挙戦が進むにつれて消費税減税論は影を潜めていった。首相は1月27日の公示日以降、演説では一度も言及していない。
高市首相は2月4日のYouTube「選挙ドットコムちゃんねる」に出演したが、そこでは「食料品の消費税ゼロの検討を加速する」と自民党が掲げる方針を改めて述べるにとどめた。しかも、この文脈はシニア世代に向けた物価高対策で語られたものであり、現役世代については子育て支援や賃上げ策が中心だった。
これは食料品消費税ゼロを政策のど真ん中に掲げていた中道改革連合などとは異なる。高市総裁率いる自民党が、消費減税に対してトーンダウンした印象が否めない。
そもそも、自民党副総裁の麻生太郎氏は消費税減税に否定的な立場だ。2025年9月の麻生派の会合にて、野党の減税論を批判していたのだ。
麻生氏のように消費減税に否定的な財政規律派の議員は少なくなく、自民党が大勝したことで党内の調整も難しくなるはずだ。いっぽうで、減税しなければ野党の追及は厳しさを増す。この落としどころを見つけるのが、高市首相の腕の見せ所となるだろう。
「食料品消費税」をゼロにすると物価が下がるという幻想
国民の多くは消費税をなくすことで物価が下がると信じているが、そう単純なものではないのも事実だ。むしろ物価高を助長する可能性すらある。
インフレには大きく2つの種類がある。需要の増加によって引き起こされる「ディマンドプルインフレ」と、原材料や人件費など原価が上がることで起こる「コストプッシュインフレ」だ。
アメリカでは2022年10月に消費者物価指数が1990年以来最大の伸び率を記録した。特に伸び率が高かったのが生活必需品だ。食料品は前月比で5.3%も上昇。米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレ率の目標を2%と定めていたが、それを大きく上回った。
このとき、アメリカはコロナ禍からの反動で需要の急激な拡大が起こっていた。典型的な「ディマンドプル」によるインフレだったのである。
日本ではコメを例にとるとわかりやすい。2025年は空前のコメ高騰が庶民を襲ったが、2026年はコメ余りへの警戒感が強まっており、2026年産米は一部地域での減産が視野に入っている。これは農家が2025年は増産に動いたいっぽうで、店頭価格が高騰。消費が減退していることが背景にある。
こうした状況下で、もし2026年度内に消費税をゼロにして店頭価格を下げると、需要が旺盛になる可能性が高い。減産で供給が追い付かず、再びコメ高騰が起こってもおかしくはないのだ。
今のインフレは「コストプッシュインフレ」だと主張する人も多い。しかし、食料品の原価を押し上げている大きな要因は円安だ。アメリカ産牛肉などの輸入肉、小麦、食用油、大豆など多くの食料品は円安の影響を受けやすい。海外の飼料への依存度が高い鶏肉、卵も円安進行で価格高騰を引き起こしやすい。
円高に振れない限り、「コストプッシュインフレ」も解消しない。

