貧しい生活から抜け出そうと、スリランカからインドに密入国した一家。夫のダース(シャシクマール)、妻のワサンティ(シムラン)、息子ニドゥ(ミドゥン・ジェイ・ジャンガル)とムッリ(カマレーシュ・ジャガン)の4人は、身分を偽って大都市のチェンナイに居を定める。素性がバレないように仕事を探すが不採用が続く。しかし、素朴で人懐っこさから、いつしか周囲の人々と交流を持つようになっていく。そうした中、一家はテロ事件を追う警察から疑いの目を向けられてしまい…。
山田洋次監督作品並みの「ほのぼの系」
ド派手で、何につけ過剰なインド映画のイメージを覆す本作。新人監督による低予算作品ながら大ヒットし、異例のロングランとなったそうです。1972年から2009年まで26年にもわたる内戦の後、’22年に国家財政が破綻したスリランカからインドに密入国した難民一家の話。「異国の地で巻き起こす、ささやかな奇跡」というキャッチフレーズがついています。
外国人排斥や移民問題に揺れる世界共通のテーマを扱う作品ながらも、どこにでもいそうな平凡な家族を描く山田洋次監督作品並みの「ほのぼの系」。お父さん、お母さんと、家族一人一人の人柄の良さを表す“いい人エピソード”が次々と紡がれていきます。
物語の後半で、無差別爆破テロの犯人に仕立て上げられそうになったとき、追っ手から逃げる展開などの盛り上がりを期待しました。しかし、追っ手が迫る気配もなく、一向に緊張感が高まってきません。
これは、ずいぶんと冗長な作りをしているなと、途中までは辛めの評価にしようかと思っていましたが、見終わってみれば数々の小さなエピソードがすべて回収されてラストへと繋がっていきます。案外と爽やかな気持ちになれましたので、星2つとしました。これからご覧になる方も後で回収されていくと思って、“いい人エピソード”に付き合ってあげてください。
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言語表現に込められた制作陣の苦心
さて、この映画を成立させるカギとなっているのが「言語」です。映画の冒頭で説明が入るように、スリランカからやってきた一家と、比較的都会の南インドの住民たちとのカルチャーギャップを象徴するのに、難民一家が話すスリランカ・タミル語の古語が使われています。
方言で出自がバレないよう、なるべく会話は慎むようにと注意されていたのに、人懐っこい一家は、ご近所さんとコミュニケーションを取ってしまう。しかし、実際のインドの観客にまったく通じないとシャレにならないので、その塩梅には苦労したでしょうね。それにしても、ピンとこなさ過ぎる『ツーリストファミリー』というタイトル。「語らう家族」とか、言語を絡める邦題はどうでしょうか。
ところで、スリランカといえば紅茶。自分は紅茶好きで、スリランカを代表する紅茶の産地ヌワラエリアに行き、製茶・精製工場の模型まで買って帰りました。今も居間に飾っております。
その後、東京・青山の紅茶専門店で、紅茶ツウを気取ってヌワラエリアを注文したりしましたね。なんで、その店に1人で行ったのか、覚えてはいませんが…(笑)。
「週刊実話」2月19日号より
『ツーリストファミリー』
監督:アビシャン・ジーヴィント
出演:シャシクマール、シムラン、ミドゥン・ジェイ・シャンカル、カマレーシュ・ジャガン、ラメーシュ・ティラク、ヨーギ・バーブ
配給:SPACEBOX
2月6日(金)より、全国順次ロードショー
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
