「負けた」「日本から撤退か」とまで噂された大量閉店の真相は……
これまで日本にはなかった気前が良すぎるサービスに、唯一無二な「オリジナル・グレーズド」の美味しさは日本人の心を掴み、どんどん日本でも店舗数を増やしていきました。しかし、2015年頃に突如閉店ラッシュがはじまります。全国に約60あった店舗は46店舗まで縮小。当時は「コンビニでもドーナツが買えるようになったからだ」などと一方的に分析されたことも。「クリスピー・クリーム・ドーナツは日本から撤退する」という噂も流れていましたが、実は店舗数縮小は「撤退しないための」戦略だったのです。
「2015年の閉店ラッシュは現在の社長である若月貴子が就任してすぐの決断でした。しかし理由は人気が衰えたと自覚していたわけではなく、社内にありました。当時全国に店舗を拡大しすぎていたこともあり、人材の育成や仕組化が統一できていない状態が続いていました。就任直後の若月が店舗巡回をした際、店舗のマニュアルが統一されておらずスタッフのスキルによって接客クオリティがバラバラであったり、バックヤードの整理ができていなかったりしたことに気づいたそうです。“クリスピー・クリーム・ドーナツはただドーナツを提供しているのではなく最高のドーナツ体験を提供しているブランドだ”という共通認識がないと、お客様に良い体験をしていただけない。そこで、一旦出店エリアを関東・名古屋・大阪に絞りました。そのため他のエリアから撤退しています」(荒居さん)
実際、新規出店した店の売上は悪くなかったものの、既存店の売上は少しずつ落ちていたといいます。そこで若月社長が選択と集中戦略で店舗数を絞り、まずは人材育成と組織作りのところに注力、立て直しを図った結果、徐々に売り上げが改善していきました。
「売上が徐々に戻ってきて、既存店がプラスに転じたタイミングが2017年頃。そのタイミングでまた全国に出店を強化していくことにしました。2015年までは多くの店舗に製造エリアがガラス越しに見える『ドーナツシアター』やイートインスペースをつくるなどしていましたが、それだと広い敷地面積が必要です。より便利なエリアにも出店するために、イートインや『ドーナツシアター』のない駅構内のテイクアウト店舗も増やしていきました」(佐々木さん)
その結果、利便性がアップ。駅ナカ店で帰り道に買って帰ったり、友人の家を訪れる際に手土産として買っていったりする人が増えたのです。
新戦略で迎える20周年は
一時期44店舗まで減らしたものの、現在は89店舗と、むしろ店舗数は過去最大数に拡大、さらに店舗以外でもクリスピー・クリーム・ドーナツが購入できる場所を増やしています。

店舗以外の小売店に設置されているキャビネット。最上段にあるのは新商品の「ポケットクルーラー」
「2019年頃からクリスピー・クリーム・ドーナツの店舗以外の小売店に専門のキャビネットを設置し、商品が買えるようにしています。店舗を出店するのはかなり大変ですが、店舗がない場所でもクリスピー・クリーム・ドーナツを購入していただけるタッチポイントを増やしていき、さらに身近なブランドにしていきたいと考えたからです。クリスピー・クリーム・ドーナツ直営の工場から毎朝届けられる範囲のところに限られますが、最初は『NATIONAL AZABU』、続いて『クイーンズ伊勢丹』、『明治屋』、『マルエツ』と広げていきました」(荒居さん)
店舗以外でも購入できる場所も増やすなど、時代に合わせ柔軟に変化してきたクリスピー・クリーム・ドーナツ。20周年を迎え、今課題に思うことは何でしょうか。

クリスピー・クリーム・ドーナツ 東京国際フォーラム店
「作り置きをせずドーナツは毎日粉から作るなど、いろんなこだわりがたくさんあるのにまだまだ伝わりきってない気がしています。20年も経っているけれど、『オリジナル・グレーズドしか食べたことありません』というお客様もいらっしゃいますから、他のドーナツの魅力もたくさん知ってもらいたいですね」(佐々木さん)
「30~40代以上の方は『2006年当時並びましたよ』と言ってくれる方も多いのですが、意外と今の若い人はクリスピー・クリーム・ドーナツを知らない方も多いんです。そのため、長くファンになってくださっている方も大切にしつつ、若い層の新しいお客様にも魅力を伝えていく年にしたいですね」(荒居さん)
ここ数年ではミスタードーナツだけでなく、I'm donut ?など新たなブランドも台頭してきています。そうした現状に焦りはないのでしょうか。
「新しいブランドさんが出てきたから、それに対抗してうちはこうするぞ、みたいなことはありません。『久しぶりに食べたけど、やっぱりクリスピー・クリーム・ドーナツは生地がおいしい』と言っていただける方もいらっしゃるので、自分たちが自信を持ってやってきたことを変わらず大事にして、魅力を伝えていきたいですね」(荒居さん)
20周年を迎え店舗数を増やし、新しい取り組みにも挑戦するクリスピー・クリーム・ドーナツ。これからも斬新なチャレンジが楽しみです!
文・撮影/松本果歩
